七支刀選抜試験(23)
刀華が唇を噛み締めながら、斬鉄の攻撃を真っ向から受けて止める。
歯を食いしばり、全身に力を込めて、耐え続ける。
しかし、これはどう見ても試合と呼べるものではない。
俺の中で「なぜ止めないのか」という疑問と、苛立ちばかりが生まれてしまう。
「旦那、なにか策はないのか?」
刀華が攻撃をしないというのなら、その意思を尊重したい。
だがこれでは、あまりにも……
「抵抗しないで勝たせてくれるなら、耐えることに意味はある。だがなぁ、この行動には意味がないぞ、旦那」
「わかってるよ」
意味……人質とされる少女を守るためだというのなら、それが意味となる。
しかし、だ。
正々堂々と勝負して負けたのならともかく、このような結末を俺は受け入れられない。
それに、この状況を黙認できるほど大人でもない。
刀華の意思は尊重したいが、俺にはひとつだけ賭けに出れる策があった。
一瞬まわりを見回し、あることを確認する。
──そうだよな、なら……
次の瞬間、俺は迷わず駆け出した。
──勝つための賽を、ここで振ってやる!
俺は飛び込むようにして、刀華と斬鉄の間へと割って入る。
その時、絶妙なタイミングで斬鉄の一撃が振り落とされてきた。
「ってぇ……」
斬鉄の刀の峰が俺の左肩に当たり、遅れて酷く鈍い痛みが襲いかかってくる。
刀華はこんな重い攻撃を、一方的に受けていたのか。
くそっ、怒りで痛みなんて吹き飛んじまったぞ!
「……あ……ぁきかげ……どの……?」
刀華の声は弱々しい。
なぜか胸の奥が握り締められたかのような、言いようのない苦しさが生まれる。
「馬鹿だな、刀華は」
俺は振り向くことができず、ただ優しく続けた。
「交代だ、刀華。こういうのは、俺の役目だ」
もう大丈夫だ……と、それだけを伝えようとする。
そう、大丈夫なはずだ。
俺のこの行動には、意味がある。
これは、勝つための一手なのだ。
「おい、兄ちゃん。せっかく当主同士が楽しんでいるってぇのに、水を差してんじゃねぇよ」
「そう言うなよ。相手が女だと、あんたも気が引けるだろ?」
俺は、わざと挑発的な笑みを浮かべた。
「先に死にてぇ……ってぇなら、望み通りにしてやるぞ?」
「おいおい、物騒だな。たしか、相手を殺したら負けじゃなかったけか?」
ニヤニヤとしながら、顎を上げて挑発を上乗せする。
「なめてんのか、てめぇ。二度と刀を握れなくしてやる!」
あぁ、こういう輩は楽でいい。
簡単に乗ってくれる。
これで刀華への攻撃はもうないはずだ。
「おう、お前も加われ」
斬鉄が、もうひとりの男に声をかける……って、おい、二人がかりかよ!
それは計算外だぞ。
しかしここで焦りを見せたら、それはそのまま弱みになってしまう。
ここはあくまでも不敵に、挑発し続けるのみだ。
「好きにしろよ。言っとくが、俺は頑丈だぞ?」
笑みは消さない。
そうさ。
俺は、最後まで笑ってここに立ち続けてやるのだ。
「上等だ。泣いて謝らせてやらぁ」
斬鉄が顔を真赤にして、刀を振り上げる。
もう一人の男も、乗り気じゃなさそうに刀に手をかけた。
そこからの攻撃は、ただのリンチだ。
ただひたすらに刀の峰を、腕や腹、太ももへと打ち付けてくるのだ。
──ゆっくりと
──何度も何度も
──執拗に執拗に
もちろん俺も、無策で受けているわけではない。
ちゃんと気を練り、シメオネ直伝の『硬気功』という『気闘法』のスキルを使用している。
硬気功は“硬めの革鎧と同程度の防御力”を持った気の鎧を、全身に纏う効果がある。
いくつかはダメージが通ってきているが、耐えられないほどの痛みではない。
あぁ、そうだ……あの時に比べれば……
リーンの時に比べれば、こんなもの何でもない。
あのときは真実味を持たせるために、わざと硬気功を解いていたからな。
これで斬鉄達が刀の刃側を使ったり、流派剣術を使ってきたらやばいが、加減をしているうちはある程度耐えられるはずだ。
いや、耐えなければいけないのだ。
「つっぅ、あっ!」
などと呻き声を上げながら、体をくの字に曲げて大袈裟に痛がる……が、これは俺なりに頑張った渾身の演技である。
しかし刀を振り下ろすごとに喜ぶ斬鉄の顔が、滑稽に見えて笑える。
なるほど……ロールしてる側って楽しいのな。
ただ……
「秋景殿! 秋景殿!」
刀華の悲痛な叫び声だけが、少し痛い。
別の意味で痛い。
だが刀華のその声が、痛がる俺をよりリアルに見せてくれていた。




