七支刀選抜試験(20)
「これより蟷螂流と十月紅影流の、三対三による団体戦を行います」
前回と同じ袴姿の女性が、試合場の中央で開始の口上を続ける。
俺たちと対峙するは、蟷螂流。
三人横一列で並んでいる。
当主は斬鉄。
身長百九十を超える筋骨隆々の大男だ。
年齢は二十代後半で、自信に満ちた表情を浮かべている。
腰には打刀を一本、落し差ししている。
となりに立っているのは、これまたガラの悪そうな女剣士……というより山賊のお頭って感じのお姉さんだ。
年齢は二十前後、着物を着崩したパンクな姿をしている。
野性味溢れるざんばら髪を、雑な感じに頭頂部で束ねている。
やはり刀は、打刀一本だ。
見た目だけで判断すれば、どことなく卜伝と同じ匂いがするのだが、まぁあの化け物ほど強いわけがない。
最後に寡黙そうな男が一人。
長髪で糸目の剣士、こちらも二十前後か。
他の二人と違って汚れのない着物に身を包み、少し長めの打刀を持っている。
この男は少し雰囲気が違うな。
もしかしたら俺や白露と同じように、雇われた剣士かもしれない。
「対戦相手に致命傷や部位欠損等のダメージを負わせる、または、対戦相手を死亡させた場合は失格になります。その条件下で、相手を屈服させた者が勝者となります。それでは、ご武運を……」
袴姿の女性が目を閉じ、ゆっくりと頭を下げる。
そして廊下の奥へと消えていった。
「じゃぁ始めようかい。ていうかよぅ〜お前ら、ほんとにやんのかぁ〜? 怪我する前に降参した方が、いいんじゃねぇか?」
斬鉄が抜いた刀を肩に乗せ、トントンとさせる。
こちらの状況を、明らかに知っている態度だ。
「親びん、とっとと終わらせましょうよ〜?」
小物感あふれる女剣士。
こんなでも流派剣術を使うとなると、侮らない方がいいだろう。
「貴公らのような卑怯者、某一人で十分だ」
刀華が深呼吸をひとつし、前に一歩、すぅと足を滑らせて構えに入る。
本当に一人でやる気のようだ。
それは、当主としての意地か?
そういえば刀華は、戦闘において頑固なところがある。
自信過剰というわけではないのだが、強い自尊心を持っているのだ。
ここは刀華の考えを尊重しておいたほうが、いいのだろうか。
「白露殿は休んでいていくれ。秋景殿は後ろで、某の真の強さを見ているがいい」
「おぅおぅ、随分勇ましいねぇ。まぁ当主であるならば、その責を負うは当然か〜?」
そう言ってゲラゲラと笑う、斬鉄と女剣士。
今の台詞は、毒を盛ったことを認めているようなものだ。
少し……いや、かなり腹立たしい。
しかしこれが“妖魔軍と戦う”ための試験であるならば、毒を盛られて負けたなんて、言い訳にもならないだろう。
この先、俺たちの戦う相手が清廉潔白で、正々堂々と戦うタイプだとは限らないからだ。
白露はともかく、刀華はこの困難に立ち向かう覚悟があるのかもしれない。
刀華がやれると言うならば、俺はそれを信じたい。
駄目そうなら、無理矢理にでも介入するだけのことである。
「ここは、あぁしにやらせてくださいよぅ、親びん〜」
「あぁ〜? せっかくの集団戦だがぁ……まぁ、ちょっとだけならいいか」
「ありやと、親びん♪」
おぉ……なんか弱そうなのを釣れたぞ。
ここで一対一とか、超チャンス!
ここは確実に俺が行きたいところだが……
「先に抜くといい。瞬きより迅く終わらせてあげよう」
イケメンな台詞で、足を開き重心を落としていく刀華。
前回の試合でどうやって勝ったのかも聞けていないのだが、本当に抜けるのか?
「うるせぇぇ、ぶすぅ!」
「……ぶ……ぶ?」
「くらぇぇっ、蟷螂流・初撃の……」
何らかのスキルを繰り出そうとする女剣士に、刀華が前屈みになって突進をかける。
その鋭いスピードは、ゲーム的なエフェクトやスキルなどではなく、鍛えられた走術に見えた。
そしてそのまま刀を……鞘ごと抜いたっ⁉︎
「ひとつ……」
呟きながら鞘がついたままの刀を、女剣士の腹部に叩きつける。
「ふたつ」
閃くような動きは止まらず、今度は左太ももに鞘を落とす。
「みっつ、よっつ……」
数を数えながら攻撃を打ちつけて……って、この技は……
「いつつ」
五連撃めが、女剣士の顎をかすめる。
「数え五斬!」
刀華はそう言って、そのまま動きを止めて残心させる。
次の瞬間、女剣士は白目を剥いて倒れてしまった。




