表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/504

七支刀選抜試験(18)

 次の日、決戦の朝。


「あーにぃ、起きて」


 ペチペチと小さな手で俺の頬を叩いているのは、妖霊姿のスーズーだ。

 サイズが小さいだけに、何とも可愛らしい起こし方である。


「うぅ、もう朝ッスか?」

「なぁに、お酒飲んだの?」


 俺の鼻先に両手を置いて、覗き込んでくる。

 なんというかこうして見ると、まんまミニ鈴屋さんだ。

 朝からノスタルジーだぜ、まったく。


「そんなんで大丈夫? 今日って、決勝的な試合なんでしょ?」

「んーまぁ……というか、白露が言ってた“フード姿のいい女”って奴、説明されてないんだが?」


 俺の見事な質問返しに対し、スーズーがすぅと目を細める。

 付き合いの長い俺には分かる。

 これは、不機嫌になる時の前兆だ。


「あーにぃは、昨日の夜は、なにを、して、いたの、かな?」

「いててて、痛いって」


 小さな爪を立てて鼻先をつまんでくるスーズー。

 なぜだ。

 あの時たしかに、スーズーは寝ていたはずだ。


「寝ていたはずだーって顔だね?」

「うっ」

「ほんとにもう、この人はぁ……その“フード姿のいい女”さんが、教えてくれたんだよ」

「なんですと」


 見られていたのか?

 そんな気配は微塵も感じなかったぞ。

 まるで観察する魔神、ドッペルゲンガーみたいだ。

 だがしかし、まさかあんなファンタジー全開な魔神が、この斑鳩にいるわけもない。

 と、なると……ダメだ、ますます分からん。


「で、けっきょく誰なんだよ?」

「教えてあげな〜い。どうせそのうち、向こうから来るんじゃないかな〜」


 スーズーは、やはり不機嫌そうに答えるのだ。





 宿から出ると、白露と刀華がすでに待っていた。

 見れば二人とも、串に刺さった団子を頬張っている。


「旦那ぁ、遅い朝だなぁ」

「まったくだ。まさか、あの程度の晩酌で起きれなかったのか?」

「いや、ちょっとスーズーに絡まれて……って、なにその団子?」

「おぉ、それはだな」


 白露が団子を飲み込みながら、刀に巻かれた赤布を見せてくる。

 あの赤布は、七支刀選抜試験を受ける人にのみ配られるものだ。

 当然、俺と刀華もつけている。


「街行く子供がな、この赤布見て……今日決勝戦なんでしょ? 頑張ってね……と、くれたのだ。あれはきっと良い女になるぞぅ」

「うむ、子供ながら良い気っ風だ。これは、期待に応えねばならんな」


 陽気に笑いながら、バクバクと団子を食べる二人。

 しかし、そうか。

 たしかに俺たちは今日勝ってしまえば、いずれ妖魔軍の将軍クラスと戦うことになるかもしれないのだ。

 つまり、英雄候補というわけだ。

 言われてみれば、心なしか街中の人から羨望の眼差しを感じなくもない。


「旦那も、いるかい?」

「あぁ……いや、朝から甘いのはいいや。スーズーが握ってくれた塩むすびでも食うわ」

「いいのか、秋景殿。某と白露殿で、ぜんぶ食べてしまうぞ?」

「いいの。これが俺の愛妻弁当なの」


 俺はそう言って、スーズーお手製のおにぎりを頬張る。

 そういや現実世界の彩羽も、何かを煮込むだけか、おにぎりくらいしかつくらない。

 ラフレシアに至っては、全て出前オンリーだ。

 まぁ、あのSF丸出しな現実世界では、自炊より出前のほうが安くすむらしいし、仕方のないことなのだろう。

 なんなら現実世界での俺の手料理なんて、ただの酔狂な趣味扱いである。


「そういや、今日の相手は誰なんだ?」

「なんだ、旦那。そんなことも知らんのか。ほら、あれよ。悪名高い蟷螂流(とうろうりゅう)よ」


 とうろうりゅう……どこかで聞いたような。


「忘れたのか、秋景殿。この街に着いて早々に、一膳飯屋の『味めし』で、一悶着があっただろう?」

「あぁ……あぁー! たしか、蟷螂流の斬鉄とかいうゴロツキ!」

「そうだ。どういうわけか、あの者共が勝ち残ったらしいのだ。まぁ〜ちょうど良いではないか。あの時の借りを返そう、な、秋景殿♪」


 太陽のような満面の笑みである。

 どうやら刀華は、既に勝利を確信しているようだ。

 しかし俺はというと、そんな奴が決勝にまで残っていることがどうしても引っ掛かり、曖昧な笑みを返すだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ