七支刀選抜試験(16)
小説家になろう版「ネカマの鈴屋さん」のブックマークが、600を突破しました。
ロジーヌさんから投げられたイラストに、背景を入れてチマチマ編集した記念イラストになります。
ニコニコ漫画版が大変好評で、ブクマも4000を突破となっております。
漫画版では水着回が終わって、次回ドブネズミ討伐戦です。
漫画版ともども、これからもよろしくお願いします。
決勝戦は、明日の昼過ぎに行われるらしい。
そこで勝てば、刀華は晴れて七支刀に選ばれる。
刀華が七支刀の称号を得られれば、旅の目的のひとつでもある“道場の再建”も可能となるはずだ。
とりあえず、ミッションの最低条件はクリアである。
そして、俺たちは門を抜け壁の向こう側へ進み、妖魔軍と戦うことになる。
そうなれば、自然と綾女=ハチ子に会える確率も上がるはずだ。
つまり、俺の目的達成の日も近いってぇわけだ。
俺たちは宿に戻ると、まずは白露の傷の手当てをすることにした。
治癒となるとスーズーの鱗粉が必要で、ログイン不定期なスーズー様を探さねばならないのだが……なぜかパタパタと宿の近くを飛んでいたので、サクッと捕まえることができた。
もしかしたら、察してくれていたのかもしれない。
「いやぁ、スーズー殿がいて良かった。もしいなかったら、明日は欠場するとこであったわ」
白露が無責任に笑う。
あんたが休んだら俺と刀華の二人でやるしかないのだが、と心の中で突っ込んでおく。
どうにも、のらりくらりとしていて頼りにできない男だ。
「そういや、スーズー。今朝、誰かと一緒にいたって、白露から聞いたんだけど?」
「おうおう、そうであった。あのフードの……」
「なんのことかな? 寝ぼけてたんじゃないのかな?」
見事な笑顔だ。
白露が口をぱくぱくとさせて、そのまま引き下がってしまう。
圧である。
鈴屋さんが得意としていた、生む言わさぬ“笑顔の圧”である。
俺もよく知っているぞ。
アレをされると、何も返せないのだ。
「スーズーは試合中、どこにいたの?」
「うん? あーにぃのは、外から見てたよ〜。それから……呆れた」
「呆れた? 何でさ?」
無言のジト目である。
マジで身に覚えが……
「なんじゃ、この妖霊は。主は、こんなものまで飼っておるのか?」
胡座をかいている俺に対し、またしてもぴょこんと跨ってくる少女。
……こいつか。
「ほーんと、あーにぃって、ほーんと」
「うぅ、言いたいことはね、わかっております」
「まーねーもーねー、あきらめてるっていうかー、わたしゃぁ慣れた目で見てますけどねー」
「返す言葉もない次第でござる」
「とにかく後で、みぃんなぁでぇ、話しましょ?」
めっちゃ怖い笑顔を見せられた。
これは、帰ったらかなり怒られそうだ。
ついでにラフレシアにも、怒られそうな気がする。
俺は試合をしただけなのだが、何故こうなった。
「秋景殿。なんで凛殿が、ここにおるのだ?」
そこまで黙っていた刀華が、不満げに声を上げる。
「妾は別に、迷惑をかけぬぞ。少しばかり、この男に興味があるだけじゃ」
「そ、それが迷惑だと言っておるのだ」
「何でじゃ?」
「何でじゃって……うん…… 秋景殿、何でだ?」
真顔で俺に聞いてくる刀華。
俺だって、どうにかして断りたい。
「うぅん。凛さん、本気でついてくるの?」
「うむ」
「俺たちは明日の結果と関係なく、妖魔軍と戦うつもりだぞ。あとさ、俺にはもう師匠がいるから、弟子にはならないぞ?」
「構わぬ。それに妾は、戦力になるぞ?」
「いや、そうだけども」
言われてみれば、戦力としては大きすぎるレベルだ。
一人増えるくらい、いいかとも思えなくもない。
「それよりも……白露とか言うたか、お主」
「儂か? いかにも」
「お主、一心十鉄流じゃろ。妾の一番弟子を倒すとは、やりおるのぅ?」
白露が押し黙る。
それも見抜かれたのか。
いよいよ凄いな、この娘。
「お主ぃ、もしかして妾の同胞なのかのぅ?」
「同胞だと?」
「そうじゃ。陽の光を知らぬ同胞じゃ」
明らかに白露が、狼狽して見えた。
しかし、どうにも会話の中身が読み取れない。
「くっくっくっ、そうかそうか。そういうことじゃったか。で、お主もこの男に、目をつけたのじゃな?」
またしても白露が押し黙る。
二人の間だけで、何かを理解しあったようだ。
訳がわからずスーズーに視線を送るが、やはり首を傾げていた。
「あのよぅ、俺たちにもわかるように……」
「あぁ、そうじゃったのぅ。それはまた、落ち着いたら話してやろうかの。まずは明日、勝ってくるのじゃ」
「いや、そりゃ勝つけどよ」
「うむうむ。いい子いい子、じゃ」
ケタケタと笑いながら俺の頭を撫でる凛に、スーズーの目がさらに細められていくのだった。




