七支刀選抜試験(12)
「ほぅれ、どうした。その程度か?」
凛が俺の二連撃を、身を翻すようにして避けていく。
軽やかに舞うその姿は、レーナでも滅多に見れない達人の動きそのものだった。
藤枝卜伝といい、この世界の達人はどいつもこいつも化け物じみている。
ここにフェリシモの姉さんがいたら、さぞや喜んでいたことだろう。
「なら、これでどうだ!」
大きく息を吸い、踏み込みながら刀を斜めに振るう。
「ひとつ、ふたつ……」
放った技はレーナでもよく使用していた忍者の片手剣スキル、数え五斬だ。
今の俺の熟練度なら、そう簡単には躱せないはずである。
事実、我ながら冴え渡る太刀筋に、さすがの凛も刀を抜いて凌いでいく。
「みっつ!」
三連撃目の強烈な斬り上げを、凛が紙一重で躱す。
惜しい、今のは惜しかった。
だがこれ以上は躱せまい……と思わず笑みを浮かべてしまった俺に対し、凛があからさまに眉を寄せた。
「よっ……」
「鬱陶しいのぅ」
凛がポツリと呟いて、右手に持つ刀の剣先を少しだけ持ち上げる。
次の瞬間、四連撃目の横一文字が天井に向かって、大きくそれてしまった。
「んなぁっ!」
刀に振り回される形で体勢を崩した俺は、五連撃目を撃たず、後ろへとに間合いをあける。
そして大きく目を見開いて、凛の碧色の瞳を凝視せた。
一体何をされたのか、理解できなかったのだ。
「水影流、川瀬廻し……じゃ」
凛が、すぅと目を細めて続ける。
「主の剣は荒々しい水流のようじゃ。今のは最終的に、いくつ繋げるつもりじゃった?」
「一応……五連撃だ」
ふむふむと凛が目を閉じて、何度も頷く。
見た目は幼女のくせに、当主たる貫禄が滲み出ている。
これってゲームだと、強制負けイベントなんじゃないかとすら思えてくるほど、圧倒的な強者感だ。
「五連撃なんぞ使う流派、聞いたこともないのじゃが……なるほどのう。確かに妾でも、五つ目は躱せなんだかもしれん。止めて正解じゃったな」
涼やかな顔で、さらりと言う。
しかし、何故だか悔しくない。
むしろ嬉しくすら思う。
「簡単に言うねぇ。今の川瀬廻しってぇ技は、連撃を止める技なのか?」
「止める……というか、厳密には相手の技の合間に割り込み、いなして体勢を崩させる技じゃな」
おぉ、めちゃくちゃ親切に教えてくれるな。
卜伝よりこの娘の方が、よほど上手に教えてくれそうだ。
「主、十月紅影流ではなかろう?」
そして、秒でバレた。
これは開幕で火属性付与でもしておいたほうが、よかったかもしれない。
「図星か。大方、雇われ助っ人であろう?」
「雇われとはちょっと違うがな。それが、悪いのかよ?」
「いや、十月紅影流の門徒は皆殺しにされたと聞いておる。であれば、部外者に頼るのも仕方なかろう」
「お、意外に話がわかる幼女だな」
「誰が幼女じゃ! まぁ妾も同じ当主として、思うところはあるのじゃ。しかし、おもしろいのぅ。主の技は、妾の知らぬものばかりじゃ」
凛が水色のツインテールを揺らせながら、感心したように頷く。
これで絶対領域を見せていたら、ミニ南無子だ。
「どうじゃ、お主。妾の弟子にならんか?」
「……へ?」
「悪いようにはせんぞ。伸び方次第では、妾の右腕にしてやるぞ?」
おぉ……ここで勧誘するとか凄いツインテールだな。
いかにも悪役が言いそうな台詞じゃないか。
「そういうのは、せめて勝ってから言うもんじゃない?」
「ふむ。では、さっさと終わらせるとするかのう」
そう言って幼女は、恐ろしく冷たく笑うのだった。




