七支刀選抜試験(6)〜クリスマス〜
あとがきにて、お知らせがあります〜
「負けタ……」
ラフレシアが、がっくりと肩を落としながらサークルから出てきた。
よほど悔しいのだろう。
俺とも目を合わせないでいる。
「強かったなぁ。あのプレイヤー、ごりごりのプロだろ?」
「そうダとしても、あんな弱キャラに負けるなんテ」
プロが相手じゃ仕方ないだろうと思うのだが、ラフレシアは納得いかないご様子だ。
今も対戦相手の女を、睨むようにして見ている。
この対戦ゲームの性質上、プレイヤー本人も相当強いはずである。
つまり現実でやりあっても、負ける可能性があるということだ。
「ありゃぁ、ちゃんとした武道の心得があるやつの動きだ。俺も、勝てる気がしないな」
「……ウン」
「しかもあんなロングスカートはいて、パンツも死守しながらあの動きだ」
「ウン?」
「ラフレシアもそんなミニスカートで、よくやったと思うぞ。あんなに激しく戦って一度も見えないなんて、ふたりとも達人の領域だ」
「ナンダロウ。慰め方が下手というか……どこ見てたんだヨ?」
「いや、ほんとに際どい試合で、ふたりとも目が離せなかったぜ」
「本当に試合を見てたんだろうナ? オレたちの方を、見てたんじゃないだろうナ?」
「ちゃんと見てたぞ」
しっかりとジト目を向けられたが、試合“も”見ていたので嘘はついていない。
というか……
「なんだヨ、ジロジロと」
「いや……いつもの子供っぽいというか、オタクっぽい格好より、そっちのがいいんじゃないの?」
「女の子っぽくて、カ?」
「んまぁ〜やっぱり、ふつうに可愛いし」
そうか、と小さく返される。
しかしそれっきり、言葉を発しない。
ラフレシアはオタクであることを除けば、普通に彼氏ができそうなハイスペックさである。
どうも本人が男にそこまで興味ないというか、ゲームとハッカー業のほうが楽しくて男はいらないといったイメージだ。
俺なんかのために無駄な時間を浪費させるのも勿体ないし、早いところハチ子を救出して自由にすべきだろう。
「なぁ、アキカゲ。あれってモシカシテ」
「んあ?」
すぅと目を細めるラフレシアに習い、再び対戦相手の方に視線を向ける。
どうやら誰も挑戦してこなくなったので、ゲームを終わらせたようだ。
モデルスタイルの美女はサークルから出ると、キッとサングラスを格好良く外した。
「あれ……寅虎ニャンじゃないカ?」
「寅虎?」
言われて、さらに注意深く見てみる。
長身でモデル体型の落ち着いた格好をした……前髪パッツンのクール美女。
間違いない。
ラフレシアが対戦していたのは、シメオネの元となったプレイヤーにして“天常流無双拳”の使い手、天常 寅虎だ。
「うぉ! あいつ、こんなとこでも婿探しか?」
「まぁたしかに、このゲームで寅虎ニャンに勝てるなら、それなり現実でも強いシナ。どうりで使用キャラが、弱キャラのタイガー・リーなわけだ。寅虎ニャンなりの、ハンデってワケか」
「いや、理由なんて名前がタイガーってのと、技名が派手だからってだけな気がする」
そう話をしながらも、その場にしゃがみ込みコソコソとし始める二人。
なんというか、寅虎は面倒くさいのだ。
「こっちダ、アキカゲ」
ラフレシアが俺の手を取り、グイグイと引っ張り出す。
どうやら、見つからないように場所を移すようだ。
他のゲームの筐体から筐体へ、身を潜めながら移動する。
なぜか楽しく感じてしまうのは、潜入ゲームが好きなせいだろう。
「ここに隠れるゾ」
ラフレシアが俺の答えを待つことなく、何か大きな施設に入っていく。
俺もそれに続いて中に入ると、その先には思いも寄らない景色が広がっていた。
「ここは?」
思わず声を漏らす。
中はかなり広い、ドーム状の空間だ。
時間の設定ができるのか今は夜のようで、天井には無数の星が散らばっている。
何よりもここは、一面が銀世界となっていた。
「スノウパークだ。雪を体験したり、スノウスポーツが出来るんダ。寅虎ニャンも流石に、ここまでは来ないダロ」
おぉ……と、ちょっと感動をしてしまう。
まさか現実で雪が見れるなんて、思ってもいなかったからだ。
試しに足元の雪に指先で触れると、じんわり冷たい感覚が伝わってくる。
どうやら人工的に、本物の雪を降らせているようである。
「アッチに座ろう。寒いが、少しの辛抱ダ」
そういって施設の端っこにある、木に囲まれた場所へと移動する。
人目にもつきにくく、隠れるにはいい場所だ。
とりあえず平らな場所を探して腰を下ろすと、なぜかラフレシアが背中合わせで座ってきた。
「背中を温めると、全身も温まるんダゾ」
そして、謎の知識である。
そもそもラフレシアは、服装からして寒そうだ。
いつもと違って、タイツを履いてるだけマシかもしれないが……
「マフラー使うか?」
俺が自分のマフラーを差し出すと、ラフレシアは一瞬考える素振りを見せた。
やがてこくりと頷き、自分の首元にくるくると巻きつけ、長く残った側を俺に渡す。
「巻くなら二人ダ。寒いのは同じダ」
「俺は別にいいんだが」
「風邪を引かれても困るンダ。鈴やんに怒られるダロ?」
そう言われてしまうと、返す言葉がない。
仕方なく俺も、マフラーを巻く。
「しかし、すげぇな」
俺が空を眺めながら呟くと、ラフレシアが軽く首を傾げた。
「いやさ、星が綺麗だなって。偽物の夜空だとしても、綺麗だぜ」
「あぁ……アレは本物の……というか、船外の景色だぞ。ライブ映像ではあるんダガ」
「本物……えぇっ、あれマジの宇宙なの?」
「そうだ。大丈夫か? 事故のこと思い出さないか?」
そうだった。
これまでラフレシアは、宇宙での事故によるPTSDの発症を恐れて船外を見せてくれなかったのだ。
そういうところは、本当に優しい。
「あぁ、大丈夫。ただただ、すげぇ綺麗だとしか思えんな」
三百六十度、フルパノラマで見るクリアな宇宙は、まさに圧巻の光景である。
そして自分が宇宙船にいるのだと、改めて実感させられてしまうのだ。
「そうか。じゃあ今度、船外が見えるデッキに行こう。そこから見える宇宙は、本当に生のものダ」
「あぁ、それは楽しみだわ。ハチ子さんも、びっくりするだろうなぁ」
「……そうダナ」
もしハチ子が俺と似た状態なら、現実を受け入れた頃に見せるといいだろう。
ラフレシアが、そうしてくれたようにだ。
そうすればPTSDになることもなく、この美しい光景に息を呑むはずだ。
俺は心から、そう思えていた。
〈お知らせ〉
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ニコニコ静画(ニコニコ漫画)様になります。
↓
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「ネカマの鈴屋さん」で検索をすれば、すぐに見つかると思います。
他にも有名な漫画家さんの作品が、無料で公開されていたりしますのでおすすめです。
今後は「基本無料」で掲載していき、稀にオリジナルの話を書き下ろして、駄菓子1個分くらいの値段で単話販売とかもしようかと思っています。
また、ニコニコ漫画以外でも展開できればいいなと思っていますが、いまのところ未定です。
これからも漫画版「ネカマの鈴屋さん」を、よろしくお願いします。




