表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
387/507

七支刀選抜試験(6)〜クリスマス〜

あとがきにて、お知らせがあります〜

「負けタ……」


 ラフレシアが、がっくりと肩を落としながらサークルから出てきた。

 よほど悔しいのだろう。

 俺とも目を合わせないでいる。


「強かったなぁ。あのプレイヤー、ごりごりのプロだろ?」

「そうダとしても、あんな弱キャラに負けるなんテ」


 プロが相手じゃ仕方ないだろうと思うのだが、ラフレシアは納得いかないご様子だ。

 今も対戦相手の女を、睨むようにして見ている。

 この対戦ゲームの性質上、プレイヤー本人も相当強いはずである。

 つまり現実でやりあっても、負ける可能性があるということだ。


「ありゃぁ、ちゃんとした武道の心得があるやつの動きだ。俺も、勝てる気がしないな」

「……ウン」

「しかもあんなロングスカートはいて、パンツも死守しながらあの動きだ」

「ウン?」

「ラフレシアもそんなミニスカートで、よくやったと思うぞ。あんなに激しく戦って一度も見えないなんて、ふたりとも達人の領域だ」

「ナンダロウ。慰め方が下手というか……どこ見てたんだヨ?」

「いや、ほんとに際どい試合で、ふたりとも目が離せなかったぜ」

「本当に試合を見てたんだろうナ? オレたちの方を、見てたんじゃないだろうナ?」

「ちゃんと見てたぞ」


 しっかりとジト目を向けられたが、試合“も”見ていたので嘘はついていない。

 というか……


「なんだヨ、ジロジロと」

「いや……いつもの子供っぽいというか、オタクっぽい格好より、そっちのがいいんじゃないの?」

「女の子っぽくて、カ?」

「んまぁ〜やっぱり、ふつうに可愛いし」


 そうか、と小さく返される。

 しかしそれっきり、言葉を発しない。

 ラフレシアはオタクであることを除けば、普通に彼氏ができそうなハイスペックさである。

 どうも本人が男にそこまで興味ないというか、ゲームとハッカー業のほうが楽しくて男はいらないといったイメージだ。

 俺なんかのために無駄な時間を浪費させるのも勿体ないし、早いところハチ子を救出して自由にすべきだろう。


「なぁ、アキカゲ。あれってモシカシテ」

「んあ?」


 すぅと目を細めるラフレシアに習い、再び対戦相手の方に視線を向ける。

 どうやら誰も挑戦してこなくなったので、ゲームを終わらせたようだ。

 モデルスタイルの美女はサークルから出ると、キッとサングラスを格好良く外した。


「あれ……寅虎ニャンじゃないカ?」

「寅虎?」


 言われて、さらに注意深く見てみる。

 長身でモデル体型の落ち着いた格好をした……前髪パッツンのクール美女。

 間違いない。

 ラフレシアが対戦していたのは、シメオネの元となったプレイヤーにして“天常流無双拳”の使い手、天常あまつね 寅虎とらこだ。


「うぉ! あいつ、こんなとこでも婿探しか?」

「まぁたしかに、このゲームで寅虎ニャンに勝てるなら、それなり現実でも強いシナ。どうりで使用キャラが、弱キャラのタイガー・リーなわけだ。寅虎ニャンなりの、ハンデってワケか」

「いや、理由なんて名前がタイガーってのと、技名が派手だからってだけな気がする」


 そう話をしながらも、その場にしゃがみ込みコソコソとし始める二人。

 なんというか、寅虎は面倒くさいのだ。


「こっちダ、アキカゲ」


 ラフレシアが俺の手を取り、グイグイと引っ張り出す。

 どうやら、見つからないように場所を移すようだ。

 他のゲームの筐体から筐体へ、身を潜めながら移動する。

 なぜか楽しく感じてしまうのは、潜入ゲームが好きなせいだろう。


「ここに隠れるゾ」


 ラフレシアが俺の答えを待つことなく、何か大きな施設に入っていく。

 俺もそれに続いて中に入ると、その先には思いも寄らない景色が広がっていた。


「ここは?」


 思わず声を漏らす。

 中はかなり広い、ドーム状の空間だ。

 時間の設定ができるのか今は夜のようで、天井には無数の星が散らばっている。

 何よりもここは、一面が銀世界となっていた。


「スノウパークだ。雪を体験したり、スノウスポーツが出来るんダ。寅虎ニャンも流石に、ここまでは来ないダロ」


 おぉ……と、ちょっと感動をしてしまう。

 まさか現実で雪が見れるなんて、思ってもいなかったからだ。

 試しに足元の雪に指先で触れると、じんわり冷たい感覚が伝わってくる。

 どうやら人工的に、本物の雪を降らせているようである。


「アッチに座ろう。寒いが、少しの辛抱ダ」


 そういって施設の端っこにある、木に囲まれた場所へと移動する。

 人目にもつきにくく、隠れるにはいい場所だ。

 とりあえず平らな場所を探して腰を下ろすと、なぜかラフレシアが背中合わせで座ってきた。


「背中を温めると、全身も温まるんダゾ」


 そして、謎の知識である。

 そもそもラフレシアは、服装からして寒そうだ。

 いつもと違って、タイツを履いてるだけマシかもしれないが……


「マフラー使うか?」


 俺が自分のマフラーを差し出すと、ラフレシアは一瞬考える素振りを見せた。

 やがてこくりと頷き、自分の首元にくるくると巻きつけ、長く残った側を俺に渡す。


「巻くなら二人ダ。寒いのは同じダ」

「俺は別にいいんだが」

「風邪を引かれても困るンダ。鈴やんに怒られるダロ?」


 そう言われてしまうと、返す言葉がない。

 仕方なく俺も、マフラーを巻く。


「しかし、すげぇな」


 俺が空を眺めながら呟くと、ラフレシアが軽く首を傾げた。


挿絵(By みてみん)


「いやさ、星が綺麗だなって。偽物の夜空だとしても、綺麗だぜ」

「あぁ……アレは本物の……というか、船外の景色だぞ。ライブ映像ではあるんダガ」

「本物……えぇっ、あれマジの宇宙なの?」

「そうだ。大丈夫か? 事故のこと思い出さないか?」


 そうだった。

 これまでラフレシアは、宇宙での事故によるPTSDの発症を恐れて船外を見せてくれなかったのだ。

 そういうところは、本当に優しい。


「あぁ、大丈夫。ただただ、すげぇ綺麗だとしか思えんな」


 三百六十度、フルパノラマで見るクリアな宇宙は、まさに圧巻の光景である。

 そして自分が宇宙船にいるのだと、改めて実感させられてしまうのだ。


「そうか。じゃあ今度、船外が見えるデッキに行こう。そこから見える宇宙は、本当に生のものダ」

「あぁ、それは楽しみだわ。ハチ子さんも、びっくりするだろうなぁ」

「……そうダナ」


 もしハチ子が俺と似た状態なら、現実を受け入れた頃に見せるといいだろう。

 ラフレシアが、そうしてくれたようにだ。

 そうすればPTSDになることもなく、この美しい光景に息を呑むはずだ。

 俺は心から、そう思えていた。

〈お知らせ〉


漫画版「ネカマの鈴屋さん」の連載場所が決まりました。

ニコニコ静画(ニコニコ漫画)様になります。

https://seiga.nicovideo.jp/comic/61901


ニコニコ漫画はアプリもあり、スマホで読むのにとても見やすいです。

「ネカマの鈴屋さん」で検索をすれば、すぐに見つかると思います。

他にも有名な漫画家さんの作品が、無料で公開されていたりしますのでおすすめです。


今後は「基本無料」で掲載していき、稀にオリジナルの話を書き下ろして、駄菓子1個分くらいの値段で単話販売とかもしようかと思っています。


また、ニコニコ漫画以外でも展開できればいいなと思っていますが、いまのところ未定です。


これからも漫画版「ネカマの鈴屋さん」を、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あー君… 鈍感とは言え、さすがにその感想はひどい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ