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七支刀選抜試験(5)〜クリスマス〜

「んで……どこだよ、ここ」


 キョロキョロと、あたりを見回す。

 けっこうな下層まで降りてきたが、見覚えがあるようでない場所だ。

 そもそも、どこもかしこも塔とパイプしかないのだから見分けがつかないってのもある。

 移動は完全にナビ頼りだし、景色で道を覚えるとか無理なのだ。


「鈴やんがウチに来る前に、連れてきたことがあるゾ。スポンチだ、スポンチ」

「スポンチ?」


 うぅんと首をひねって考えるが、まるで聞き覚えがない。


「スポーツ&アミューズメント・チア、略してスポンチだ。スポーツゲーセンみたいなもんダ」

「あぁ〜あったな、そういうの。陰キャで引き篭もりの俺には、縁のないものだぜ。しかしスポンチって、すげぇ略し方だな」

「なにを連想してンダ、アホカゲ。スポンチはスポンチだ。なにも変じゃナイ」

「じゃあ、十回くらい連続で言ってみてよ」


 俺が身を削る思いで出した一級品の冗談に対し、ラフレシアがジト目を向けてくる。

 しかし連呼されると、やはりその略し方ってどうなのと思うのだ。


「スポーツのアミューズメントパークとか……なんつぅか、健全なデートコースだな」

「ナンダ? ホテルにでも直行したかったノカ?」

「お前なぁ〜そういうこと、簡単に言わないほうがいいぞ? 俺が流されたらどうする気だよ」

「たまには流されてミロ。どうせ手どころか、指先ひとつも出せないダロ」

「ひどい言われようだ。マジで襲うぞ、このやろー」


 そこでラフレシアが大きく息を呑みこみ、顔を赤くしながら目をそらす。


「や、優しくしてクレよな……」


 ソレを見た俺は思わず拳を握り、その脳天に叩き落とした。


「いってぇぇぇぇ! ナニスンダ!」

「アホなこと言ってんじゃねぇ。ほら行くぞ」


 俺は頭を両手で擦るラフレシアを尻目にし、とっとと店内に入っていった。




 スポーツと遊びを主軸とした総合アミューズメントパーク『スポンチ』は、塔を七層も使った巨大な施設だ。

 宇宙船内暮らしという閉鎖的な環境において、こういった施設が重要視されるのは何となく理解できる。

 室内にはありとあらゆるスポーツや、乗り物、見たこともない体感型のマシンがいくつも用意されていた。


「さぁ、遊ぶゾ!」


 ブンブンと腕を回して、ヤル気を見せるラフレシア。

 彼女は基本的に引き篭もりのハッカーだが、体を動かすこと自体は嫌いじゃない。

 ダイブをする時ですら、感覚共有エンジンを使用するほどだ。

 結果として超健康的なボディを、維持できているのだろう。


 とにかく、だ。

 その後の俺は、クライミング、テニス、バスケと、これでもかと引きずり回されることになったのだ。

 確かにこれはデートでも何でもなく、きつめのトレーニングである。

 まぁ、その都度着替えるラフレシアの服装が、俺の目の保養になっていたので良しとしよう。

 特にテニスの時とかは、良かった。

 あれはいいものだ。

 そうしてラフレシアが次に選んだ遊びは、ARで操作する対戦格闘ゲームだった。


「こいつはARと連動して、目の前のホログラムのキャラクターを動して戦うんダ。実際にプレイヤーも動くしかないから、なかなかにキツイんだゾ」


 どこか得意げな表情で説明をしながら、ARを起動させる。

 ゲーム内だけじゃなく、現実世界でも強い“アルフィー・ラフレシア”だ。

 それこそ、超・得意分野なのだろう。


「相手は……ほぅほぅ、五十連勝中とな。使用キャラは“タイガー・リー”か。あんな弱キャラで、なかなかヤルじゃぁ〜ナイカ」

「へぇ〜。相手、めちゃ強いっぽいじゃん」

「クックック、まぁ見てろ。オレ様の“オウキ”で、敗北の味ってぇヤツをアジアワせてやる」

「お前、めっちゃスイッチ入ってんな……」


 しかしラフレシアは、俺のツッコミが聞こえないくらいたぎっているようだった。

 ただただ不敵に笑いながら、対戦乱入をするために円形のプレイヤーサークルへと足を踏み入れる。

 ラフレシアがサークルに入ると機械が反応し、目の前に三メートルくらいはあるホログラムのキャラクターが現れた。

 あのサークル内でプレイヤーが動けば、ホログラムが連動して動くようだ。

 次々とホログラムのキャラクターが変わっているのは、使用キャラを選択している最中なのだろう。

 そうして、そのうち鬼のような形相をした黒い道着姿のキャラでホログラムが止まった。

 ラフレシアが選んだのは、オーソドックスな空手系のキャラらしい。

 というか、スカートのままヤル気だろうか。

 連動しているってことは、けっこう激しい動きになると思うのだが。


「相手はどうなんだ?」


 言いながら、対戦相手のプレイヤーサークルへと視線を移す。

 そこに立っているのは、目下“五十連勝中”のツワモノのはずだ。


「おぉ……」


 対戦相手の姿を見て、思わずため息にも似た声を漏らしてしまう。

 俺は“いかにもゲーマー”な男を想像していたのだが、大きく予想が外れたようだ。

 なんと対戦相手は、ゆったりとしたベージュのふわふわニットに、グレーのスウェットロングスカートという落ち着いた格好の女性だった。

 長身なうえ姿勢がよく、まるでモデルのような立ち姿である。

 サングラス型のARを着けているせいで顔までは見えないが、綺麗な短い青い髪をしていて抑えきれないほどの美人オーラが出ている。

 というか、あっちもあの格好のままやっていたのか。

 キック技とか、どうしてるんだろう。

 そんな俺の心配をよそに、試合は始まった。


『ラァゥンド・ワァン! レディ〜ゴゥ!』


 開始の合図と同時に、対戦相手が走り出す。

 どうやらサークル内の地面は、全方向にスライドするらしい。

 ロングスカートで飛ぶように走る様は、なかなかにシュールである。


『ホッアッチャー!』


 対戦相手がしっかりとスカートを抑えたまま飛び蹴りをすると、目の前のホログラム“タイガー・リー”が虎の闘気を纏って奇声を上げながら飛び蹴りを放つ。

 どうやら、突進系の必殺技のようだ。


『心・昇竜蹴!』


 迎え撃つラフレシアが、ミニスカートを抑えながら上空に向けて蹴りを放つ。

 同時に“オウキ”が必殺技名を喋りながら、炎を纏った蹴り技で上空に舞い上がった。

 たぶん、無敵対空の必殺技だ。

 しかし対戦相手もそれに反応し、バックステップで飛び蹴りをキャンセルして距離を開ける。

 そんな見えそうで見えない攻防が、約六分も続いたのだった。

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