藤枝 卜伝(13)
ちょっとずつ、書いております。
年末は厳しぃっすねぇ。
一閃が発動し、青い筆の線が下から上へと真っ直ぐに伸びていく。
時間が停止した世界の中でちらりと卜伝の様子をうかがうと、卜伝は鋭い眼光を俺に向け、その動向を注視していた。
明らかに一閃の発動を認識しているように思える。
しかし飯屋の時と違い、今回はカウンターのタイミングで一閃を発動させている。
加えて卜伝は体勢を崩していた。止めることなど出来ないはずだ。
俺は迷わず、青い線をなぞるように刀を振り上げた。
すると氷結バフ『雪月華』の効果で、剣閃が氷の結晶に変わり舞い上がっていく。
氷の結晶は俺と卜伝の間で幾重にも重なり、瞬く間に巨大な氷の壁へと形を変えた。
「あぁ……氷結の一閃、氷面鏡かい」
卜伝が体勢を立て直すと、落ち着いや様子で氷の壁を見上げる。
やはり詳しい。
まさか技名まで言い当てるとは、思ってもいなかった。
「カカカ。流石に今回は、リーンが邪魔で止められなかっただろうよ?」
俺が笑うと、卜伝がそうだねぇと気のない返事を返してくる。
なぜか、つまらなそうだ。
「おんし。一閃・空斬り以外に、何が使えるんだい?」
「なにって……」
空斬りは、ゴブリン戦で使った無属性の一閃だ。
たしか飯屋で暴発した時に、卜伝が止めてみせたのも空斬りである。
「答えてもいいけどよ、俺も聞きたいぜ。あんたがどうやって、俺の一閃を止めたのかをよ。少なくとも、あんたも使えるってことだろ?」
「ふむ……それは暗に、もう少し儂の手の内を見せろ……と言いたいのかい?」
「まぁ、俺も一つは見せたわけだしな」
卜伝が刀を肩に乗せて、トントンとさせる。
やがて、ふぅむと小さく唸る。
「まぁ、いいだろう。特別に儂の技を、一つ見せてやろうじゃないか」
卜伝がジャリッと右足を前に滑らせて、大きく足を開いていく。
何かの剣技を使うようだ。
しかし俺と卜伝の間には、あのカーバンクルの『レーザー光線』をも弾き返した絶対防壁『氷面鏡』がある。
そしてもし氷面鏡を破壊できたとしても、俺の目の前にはリーンという強固な盾が立ちはだかっているのだ。
この状況で、いったい何ができるのだろうか。
俺ならこの状況、手加減しながらでは打つ手なしだ。
「一閃!」
卜伝が叫び、刀を振り抜く。
そして目を閉じて、静かに納刀をする。
そのあまりに早い剣速は、とても目で追えるものではなかった。
俺とリーンは僅かに緊張したまま、様子を伺う。
やがて……
「えっ?」
リーンの鎧が幾重にも切り裂かれ、バラバラと地面に落ちていき……
「ええぇぇっ!?」
下着を除いて、全ての衣類が飛び散ってしまった。
「また、つまらぬ物を斬ってしまった」
卜伝が、ふっと笑う。
まて……
まてまて。
氷面鏡は破壊されていない。
あの壁を斬らずに、リーンの鎧と服だけを斬ったというのか!?
「なんだよ、その……脱衣技は!」
ああん?と、卜伝が頭をバリバリとかく。
「武装解除じゃ、バカたれ。れっきとした戦意喪失技じゃ」
下着を手で隠すようにして座り込むリーンに、卜伝が目だけを向ける。
まるで、効果覿面だろと言っているようだ。
「い、いや、たしかにそうだけどよ」
「おんしの一閃……おそらく、斬りたい物だけを斬るってのができないのだろう? まるで制御が出来ていない、不完全な技じゃ。どこで、どうやって習得したのか知らんがな」
「う……」
痛いところを突いてくる。
確かに俺の一閃は、七夢さんが裏で習得させたものだ。
基本も何も、未だ技の実態を知らないでいる。
それを、この卜伝という女は知っているのだ。
ならば俺に取れる行動は一つだ。
「お、おぉ……俺に……」
「俺に……なんじゃ?」
「俺に、その脱衣技を基本から教えてくれ!」
「なに言ってんスか!」
俺が土下座をして頼み込もうとすると、怒れるリーンの踵落としが後頭部にめり込んだのだった。




