藤枝 卜伝(11)
い、忙しいソス…
「武器を抜くッス」
リーンが薙刀の切っ先を卜伝に向け、大きく股を開き重心を鎮めていく。
一方の卜伝は、なぜかリーンではなく俺の方に視線を向けていた。
「ふむ……抜け、と。それくらいはハンデにしてやろうと思ってたんだが。それでは、おんしが儂の強さを見極められんか」
驚いたことに、卜伝は素手でやろうとしていたらしい。
こちらの目論見も見透かされているようだが、ここは開き直るべきだろう。
俺は一閃を止めた卜伝の実力を、少しでも見極めたいのだ。
「たとえお前がオレより強いとしても、素手相手に武器は向けられないッス。それは騎……剣士道に反しているッス」
「なんじゃぁ剣士道って、初めて聞いたわ。まぁ相手が虎だろうが、龍だろうが、正々堂々とやりたいってこかい?」
「お前が虎や龍には見えないが、そういうことッス」
なんだろう、この情動。
目の前でリーンが騎士道精神を語っている。
なぜか胸の奥底から熱い何かが込み上げてくる。
立派に育った子供を見ているかのような感覚なのだろうか。
「あまっちょろいねぇ。勝つためには何でもするって方が、儂は好きだぞ?」
「アキカゲさんが、オレを呼ぶくらいなんだ。お前はきっと……相当に強いんス。手加減されたら意味ないんス」
「甲斐甲斐しいねぇ。じゃぁその健気さに免じて少しだけ乗ってやろうか」
卜伝が不敵な笑みを浮かべると、大太刀の鞘を後ろへと投げ飛ばし、そのまま抜刀する。
大太刀の長さは俺の身長とさほど変わらない。
もちろんリーンの薙刀のほうが長いのだが、それでも攻撃範囲はかなり広そうだ。
「リーン、無理しないでいいからな。やばくなる前に下がれよ」
「たしか大怪我をしたら、強制で帰らされるんスよね。つまりここでは無理できる、と」
「おい……」
「嘘ッスよ。オレは少しでも長くアキカゲさんと居たいんス♡」
なんか不器用なウインクをしてきているが、無理をしないというのなら良しとしよう。
どうにもリーンが傷つく姿は見てられない。
「まぁー安心しな。儂くらいの達人になれば、手加減も達人級よ」
「なんか、舐めてるッスね?」
「いやいや、舐めてはおらん。だがまぁ、実力差は見えてるな」
「それを舐めてるって、言ってるんス!」
リーンが薙刀をくるりと回し、そのまま勢いよく突き出した。
もちろんリーンが薙刀の使い方など知っているわけもなく、使い慣れたハルバードの感覚で戦っているのだろう。
牽制の突きではあるが、その切先はかなり鋭く卜伝の喉元へと伸びていく。
しかし卜伝は、ゆらりとゆらめくようにしてそれを躱した。
「まぁ、初手としては及第点ってところだねぇ」
唇を舐める卜伝に対し、リーンが追撃をする。
突き、斬り、払い、とおおよそ薙刀の戦い方とは違っていそうな動きだが、そのどれもに迷いがない。
これまで、多くの修練を積んできたのだろう。
「はん、あまり見たことのない動きだがぁ……まぁ悪くはないよ」
卜伝はせまりくる切先を、最小限の動きで回避していく。
いや……相当ハイレベルな回避技術だ。
フェリシモのような優雅さこそはないが、卜伝の動きには一切の無駄がない。
「じゃぁ、こうしたらどうだい?」
卜伝がリーンの突きを鼻先ギリギリで躱し、片手で大太刀を突き返す。
これもまたフェリシモ並の目の良さと、カウンター技術だ。
しかしリーンも負けてはいない。目を閉じることなく、首を曲げて剣先を躱していた。
「ほっほぅ〜小娘にしちゃぁ、いい目を持ってるね」
「当たり前ッス。オレの本業は、人を守ることッスからね!」
リーンは騎士らしく、堂々とそう言い放ったのだ。




