表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
【100万PV突破!御礼・特別編】鈴屋さんと、パリピで水着でBBQ!
364/504

鈴屋さんと、パリピで水着でBBQ!(2)

 ハチ子と別れた後、俺は碧の月亭で酒樽の受け取りを行っていた。

 既に木製の荷車には、目一杯の酒樽が載せられている。

 これを炎天下の中、ラット・シーまで手押しで運ぶのかと思うと辟易してしまう。


 あぁ、くそ……何でもいいから、輓獣(ばんじゅう)でも借りてくればよかったな……


 後悔先に立たずとは、このことだ。

 しかし、今から借りに行くのも面倒くさい。

 俺を覚悟決め、やれやれと立ち上がる。


「あーちゃん、いたいた」


 唐突に後ろから、聞き慣れた呼び声がした。

 声の主は、アルフィーだ。

 アルフィーは、魚介と会場の準備を担当していたはずだ。


「おぅ、早いな。もう終わったのか?」


 振り向くとそこにアルフィーの姿はなく、代わりに見覚えのある全身鎧が立っていた。


「えっ……と?」


 一瞬、返す言葉をつまらせる。

 間違いない。

 リーンのフルプレートメイルだ。

 しかしリーンとは、あれから一度も会っていない。

 会ったところで、どんな顔をすればいいのか分からないのだ。

 なにか声を出さねばと思うのだが、口をパクパクと動かすだけで何も言葉が出なかった。

 見かねたフルプレートメイル女が、兜のバイザーをカパっと開ける。


「なん〜、あたしなん。声でわかんないん?」


 アルフィーが、いたずらっぽく笑う。

 俺が混乱すると理解っての行動だろう。

 なんて意地の悪い女なのだ。


「なんでアルフィーが、リーンの鎧なんて着てんだよ」

「ん〜、なんかこれのメンテ頼まれたんよ〜。でも、バラバラで運ぶん大変なんよ」

「あぁ……確かに手持ちで運ぶくらいなら、着て行った方が早いな。リーン、元気だったか?」

「うん。あの子はもう大丈夫なん」


 アルフィーはそう答えると、満面の笑みを返してくれた。

 俺に気をつかっている様子もなさそうだ。

 きっと本当に、うまくやっているのだろう。


「アタシもう行くけど、あーちゃんはマダなん?」

「いや、俺も支払いを済ませたら、すぐに出るよ」

「りょーかいなん。じゃぁお先ぃ〜♪」

 ガシャガシャと音を立てながら手を振るアルフィーに、軽く手を振り返す。

 バイザーを下ろすと、完全にリーンだ。

 今度からしっかり中身を確認しよう。

 俺は再び碧の月亭に戻ると、酒樽の代金を支払い、さらにいくつか干し肉も買い込んだ。

 これで宴の準備も上々だ、と笑みを浮かべてしまう。

 BBQってのは、前準備が楽しかったりするものである。

 少しばかり気持ちが高ぶっても、仕方のないことだろう。

 俺はそんな舞い上がった状態で、荷車を押し始めたのだ。




 それにしても暑い。

 まさに、夏真っ盛りだ。

 赤影のマフラーの特殊効果で暑さは緩和できるのだが、生憎と今は装備していない。

 今の俺は、ちょいと浮かれて水着姿なのである。

 男という生き物は時として、全身で太陽を受け止めたくなるものなのである。

 肌がちりちりと焼けていく感覚、じわりと流れる汗、それらをたまらなく欲してしまうのだ。


「夏だねぇ〜」


 などと月並みな独り言を呟いてしまうほどに、俺は夏の日差しを満喫していた。

 炎天下にリアカーを押すという肉体労働も、この後これを飲めると考えればなんてことはない。

 ご褒美のために、頑張れるってもんだ。


「そうだ。鈴屋さんにフェンリルを呼んでもらって、キンキンに冷やしてもらおう」


 うむ。

 我ながら、良案である。

 しかも冷えたエール酒とか、高く売れそうだぞ。

 祭りといえば商売よ。

 これは一刻も早くラット・シーに行かねば、と足を早めようとしたその時だ。

 俺の目の前に、またしても全身鎧が立っていた。

 ……いやまぁ、リーンの鎧を着たアルフィーで間違いないだろう。

 どうやら、追いついてしまったらしい。

 しかさアルフィーは、なぜか微動だにしない。

「おぉい、どうした。へたばったのか? 追いついちまったぜ?」

 俺がニヤニヤしながら話しかけると、鎧の中からは情けない声が聞こえてきた。


「あぁちゃぁ〜ん、タスケテぇ〜」

「なんだよ、そんなに重かったのか?」

「違うんよ〜、鎧が熱くなりすぎたんよ。肌が当たると、熱くて動けないんよぅ」


 あぁ、なるほど。

 たしかに、これは歩く鉄板焼きである。

 というか……


「アホだな」

「うぅ。マジなん、たすけてぇ〜」


 どうやら、冗談を言ってる余裕がないらしい。

 確かにこのままでは火傷しかねない。

 俺は仕方なく水袋を取り出すと、アルフィーの頭からぶっかける。

 水はジュゥと音を立てながら、みるみるうちに乾いていく。


「ひぃぃん、熱い、熱いん!」

「うわ、これはマジでやばい。待ってろ、今すぐ外してやるからな」


 俺はすかさず、鉄兜ベルトを緩めて外す。


「大丈夫か?」


 アルフィーは既にゆでダコ状態で、目も虚ろなな状態だ。

 顔全体から汗が吹き出でていて、わずかに呼吸も荒い。


「上から脱がすぞ」


 アルフィーが声にならない返事をする。

 前に一度、リーンを脱がせたことがあるので手順は分かっている。

 俺は手際よく、鎧を剥いでいき……


「おまえ、アホだろ?」


 中から出てきたアルフィーの姿をみて、俺は心底呆れてしまった。

 何せこの白毛の女は、下乳が見えるくらい短く切ったタンクトップに、お尻が見えそうな超ショートパンツという、露出に全振りした水着を着ていたからだ。

 そりゃこんな姿で鉄鎧を着れば、熱くて動けなくなるだろうよ。


「うぅぅ、暑いん〜、熱いん〜」


 汗だくで、半泣きで、下乳で、ずぶ濡れで、四つん這いになりながら脛当てを外すアルフィー。

 もう色々とこぼれそうで、大変である。


「うぅぅ、あーちゃん、さっきからどこ見てるん〜」


 汗だくのまま、上目遣いで突っ込まれる。


「めっちゃ見てくるやん〜」


 そして、にまぁと笑う。


挿絵(By みてみん)


「鈴やんにチクろっと♪」


 やられた。

 ここまでセットの罠だったのか。

 いやでも、見るだろコレ。


「つぅか、めっちゃシャツ透けてるけど、いいのか?」

「えっ?」


 アルフィーが視線を落とす。

 自分のタンクトップが、かなり際どく透けていることに気づいていなかったらしい。

 珍しく顔を赤くしていく。


「おぉ、オマエでも恥ずかしいって感情持ってるんだな」

「こっ、このっ……人を痴女扱いすんナー!」


 にへらと笑う俺に、アルフィーの拳が容赦なくめり込んだのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ