表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんと猫耳っ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/510

鈴屋さんとハチ子がいない間に!〈中編〉

新年最初となります。

今年もよろしくお願いいたします。

 ……1位?

 たしかに、1位って言ったよな。


「で、どうかなぁ、しょぅねぇ〜ん。私に教えてくれる気になったかいぃ?」

「……教えないつったら?」

「ん~? それは、私への挑戦かなぁ~?」


 その声色から、明確な殺意が感じ取れる。

 刹那に広がった恐怖心が、俺の戦意をへし折ろうと襲い掛かってきた。

 たまらず、腰のダガーに手を伸ばす。


「しょうね~ん……ダガーを握るのはかまわないがぁ………手が震えているぞ~?」


 嬉しそうに言いやがって……

 あぁ、そうさ。

 こっちは本気で怖いんだ。

 かつて対峙した死の運び手の中でも、この人はとびきりやばい。

 彼女の言う通り、手の震えが止まらない。


「フェリシモさんだっけか。あんたの興味の、その先を聞かせてほしいものだね」

「ん~~。それはあのイーグルが何位なのか、私が知ったらどうするつもりか、ということかねぇ~?」


 振り向くことなく、ゆっくりと頷く。


「あぁ~~安心したまえ~。殺し合いは嫌いじゃないけれどぅ、残念ながら、イーグル同士の私闘は禁じられているのだよ~。向こうから来てくれたら、話は別なのだがねぇ~」


 しかしその口ぶりは、少しも残念そうではない。


「そうか。それを聞いて安心したよ」

「安心? なにをだね、しょぅねぇ〜ん」

「あの人が無駄な戦いを自分から仕掛けるなんて、絶対にあり得ないからな」


 しかしそれを、フェリシモが軽く嘲笑する。


「ふふ……しょぅねぇぇん、それは違うなぁ。現に彼女は、私を斬ったのだよぅ?」

「それは、俺を助けようとして……」


 フェリシモが俺の首元に指を突き付け、指先で円を描くようにしてなぞる。

 そして、パチンと指を鳴らした。


「まさにそこなのだよ、しょぅねぇ〜ん。彼女は君のことを、大層お気に入りのようじゃないかぁ~。つまり、彼女の方から戦闘を仕掛けてきてくれるように、私が仕向ければいいだけのことなのだよぅ」


 あぁ、俺を襲うということか。

 たしかにそれで、ハチ子は動くだろう。


「すごい自信だね。俺だって、そこそこできるんだぜ?」

「少年がそこそこ強いのも知ってるよ~? でも、それはぁ、少年と遊んだあと、彼女とも楽しめるってことだよねぇ? だからさぁ、これから倒すイーグルの順位くらいは、知っておきたいのだよぅ。なぁ、教えておくれよぅ?」


 あぁ……これは断れない。


 俺がフェリシモとの戦闘を拒否すれば、今度は鈴屋さんを標的にするだろう。

 そうなれば、俺はフェリシモと戦わなくてはならない。

 つまり、俺はここで戦うしかないわけだ。

 そしてもし俺が敗北なんてしようものなら、ハチ子や鈴屋さんが彼女に戦いを挑むことになるだろう。


 この戦闘は必定で、結果は必勝以外にあり得ない。


 こんな化け物相手に、マフラーなしで勝てるのか?

 セブンに勝てたのは、本来“残像のシミター”の所有者である彼が、それを持っていなかったからだ。

 ハチ子にいたっては、たまたまセブン対策にはっておいた罠に、運よく引っかけられただけだ。

 正直2人とも、まともにやりあって勝てる相手だとは思っていない。


「さぁて、どうするのだ~少年。ここはまさに分水嶺だよぅ? よぅく考えて、決断したまえ~」

「馬鹿馬鹿しい。順位を教えたところで、俺とあんたの戦闘は避けられないんだろ? なら、考えるまでもないさ」


 そうさ。

 嘘でも強がって、挑むしか選択肢はないじゃないか。


「俺が彼女の分も含めて、あんたを楽しませてやる。それで、彼女のことをあきらめろ」

「……ほぅぅ……いぃ~、いいぃぃねぇ、しょぅねぇん。短くてもいいからさぁ、私を感じさせておくれよぅ?」


 そう言ってフェリシモは俺からスッと離れた。

 俺はゆっくりと振り返り、ダガーを2本引き抜くと逆手に持ちかえる。


「そうだ、しょぅねぇん。ひとつ言い忘れたのだけどぅ、妹たちの標的は、あくまでも猫の爪だからねぇ?」


 わかるだろう?と、フェリシモが冷たく笑う。

 あぁ……言われなくても、短期決戦で行くさ。

 そもそも裏路地とはいえ、いつ人が来るかわからないしな。


「加勢に行くなら、せいぜい急ぎたまえよ、しょぅねぇん」


 あくまでも挑発的に、フェリシモが笑みを浮かべる。


「カカカ、あの2人がそう簡単に、やられるわけがないだろ」


 そうだ。

 俺は冷静に、勝つための戦いをすればいいだけだ。


「あぁ、少年……もうひとつ……今回は仕事じゃないからねぇ。コートの力も、毒も使わないよぅ。このダガーも、その辺で売っている何でもないダガーだ。だから存分に戦いたまえぇ〜」


 フェリシモがダガーを握る左手を地面につけ、唇を舐めながら身体を低く沈める。


「有難いね……」


 そもそもフェリシモが本気なら、すでに2度は殺されているはずだ。

 アサシンが背後を取りやすいってのは、本当なんだな。


「じゃぁ、やろうか」


 静かに走術ナンバの術式を発動させる。

 赤影のマフラーのヘイストと違い、移動速度が上がるだけだが、ないよりはマシだろう。

 グンッと不自然な加速をして間合いを詰める俺に対し、フェリシモが地面に体がつくのではと思えるほど身を低くかがめていく。

 ……なんて姿勢だ……

 本能的に正面は危険だと感じ、壁に向かって飛ぶ。


「速いねぇ、飛ぶねぇ~」


 壁を蹴り体を翻して、真上から襲い掛かる。

 しかしフェリシモは冷笑を浮かべたまま、スイスイとかわしていった。


「どうした少年~、昨夜の方がもっと速かったぞぅ~」


 マフラーなしだからだよ、と心の中で舌打ちをひとつする。


「……まずは一刺し」


 フェリシモが、冷たい眼光をより鋭くさせる。

 次の瞬間、低い姿勢から放たれた蛇のように鋭い攻撃が、俺の左腕を斬り抜けた。

 痛みとともにスパッと血が飛ぶが、気にしてはいられない。

 俺はさらに壁を蹴り、彼女の頭上へと飛ぶ。


「わりぃんだけど、手加減してくれているうちに、ズルしてでも終わらせてもらうぜ?」

「ほぅぅ~~なんでもおいでぇ~おねぇさんが、ぜぇんぶ受け止めてあげるぅ」

「あぁ、そうかよ!」


 俺はさらに壁を蹴り屋根上までいくと、左手のダガーを無造作に屋根上へ落とした。


「……とっておきを、見せてやるよ」


 言いながら右手のダガーの刀身を指でなぞり、炎の魔力付与(ファイヤーウェポン)を施す。


「術式…必中…」


 “術式 必中”は、一定時間命中精度が上がる……というより、命中が確定する忍術だ。

 そもそも、投擲武器の命中精度が高いニンジャにはあまり必要のないスキルで、ゲーム内でも使ったことがほとんどない。


「はぁっ!」


 俺は気合一閃、ありったけの力でダガーを投げつけた。

 本来なら力を入れ過ぎてあらぬ方向に飛んでいくはずなのだが、術の効果が物理の法則を捻じ曲げて、不自然にダガーの軌道を変えていく。

 それは控えめに見ても、騎士隊長クラスなら一撃で倒せるほど鋭く重い攻撃だった。

 しかしフェリシモは体を回転させながら左手で襲いかかるダガーの柄を握り、何事もなかったかのようにそのまま構えに入った。

 もはや驚愕としか言いようがない。


「……化け物かよ」


 当たらなくても、わずかな隙が生まれればと思っていたが、そんな淡い期待すらあっさりと水泡に帰っした。

 フェリシモは牽制にすらならないと、余裕の笑みをかえす。


「しょぅねぇん、知ってるぞぅ。君はあの時、ダガーのもとへ飛んでいたなぁ?」


 フェリシモは笑みを浮かべたまま、俺の投げた炎のダガーを眺める。


「コレかなぁ~? それとも、さっき屋根に捨てたソレかなぁ~?」

「さぁて……どうかな?」


 余裕などないが、無理に笑顔をつくる。

 そして腕を組むようにしながら、背中へと手を伸ばす。


「おぉ〜まだ何かあるのかなぁ〜?」


 フェリシモが嬉々として目を見開く。

 その目の奥には、狂気すら感じ取れた。

 ……もちろんあるさ。

 ついでに言うと、これで駄目なら打つ手はなしだ。


「いつか戦うかもしれない、ラスボス用だったんだけどな。ねぇさん、死んでくれるなよ」


 寝覚めが悪いからな、と付け加え、背中に備えたダガーを引き抜き、右・左とテンポよく投げつける。

 俺はさらに、そこで動きを止めることなく背中へと手を回し、2本のダガーを投擲した。

 普通、これほど連続投げをすると精度も下がるものだが、そこは“術式 必中”の布石も打ってある。

 4本の鋭い牙が不自然な動きで軌道を変えながら、フェリシモの首元めがけて次々と襲いかかる。

 ……だがきっと、これは弾かれる。

 俺はさらに背中から2本のダガーを抜き、フェリシモに向かって飛びかかった。

 事前に仕込んだダガーは、これで最後だ。


「あはぁ〜〜〜」


 フェリシモがいよいよ恍惚の表情を浮かべて、襲い来る牙を的確に弾いていく。

 しかしその目はダガーを捕らえながらも、決して俺から離さない。


「なら……これでどうだ!」


 俺は飛び込みながら左手のダガーをフェリシモの後方に、そして右手に残った最後のダガーを真上に投げつけた。

 そこで、彼女の視線がわずかに動く。

 この中にテレポートダガーが混じっているかもしれないという、見えない牽制がここで効いてきたのだ。

 フェリシモはダガーを弾きながら、その位置を覚えているのだろう。

 もし今テレポートしても、容易に対応してくるはずだ。

 その冷静さと戦闘技術には、感服してしまう。

 しかしこの上、背後と頭上にダガーを投げられては、もはやすべてを同時に確認することなど不可能なはずだ。


「行くぜっ!」


 俺は何かをつぶやいてるかのように口を動かし、それっぽく印を切る。

 同時に彼女の視線が上へ、次に背後へと一瞬移った。

 しかし俺は転移をしていない。

 そのまま彼女の体に絡みつくように組み、するりと背後へまわった。

 飛び込みからの組技、“蜘蛛絡み”という体術だ。

 本来なら、このまま背後から身動きを封じて絞め落とすのだが、とりあえずこれで両手と首は動かせない。


「やるじゃないかぁ、しょぅねぇん」

「……よそ見してんなよ、ねぇさん」


 フェリシモが嬉しそうに、周りへ目を泳がす。

 そうだ、まだ終わってはいない。

 背後に投げたダガーは、たしかにフェリシモの“背後”を狙った。

 しかし真上に投げたダガーは、“フェリシモ”に向けて投げたものだ。


「しょぅぅねぇぇん、いったい、どんな原理なんだぃ〜?」

「俺だって、わからねぇよ」


 頭上のダガーは俺の思惑通り、“術式 必中”が効果を発動し、踵を返して彼女の喉元めがけ襲いかかってきた。


「んん~~いぃ〜いいよぅ〜」


 この状況でも楽しめるのかよ……と、その狂気に心底恐怖を覚える。

 だがもう一つ……これが最後の一手だ。


「……つぅ!」


 俺はフェリシモに斬られた左手の力をわざと緩め、顔をしかめてみせた。


「しょぅねぇん。どうやら私の一刺し、きいてるねぇ〜」


 フェリシモが自由になった左手で、炎のダガーを構えなおす。

 ……かかった!

 俺は勝利を確信した。

 フェリシモが頭上のダガーを弾いたその瞬間、彼女の左腕に強烈な火花が走った。


「トリガーっ!」


 タイミングギリギリ、狙い通りに俺は屋根の上へと転移する。

 最初に屋根に落としたダガーこそが、テレポートダガーだ。

 そして俺が頭上に投げたダガーの柄には、少しばかりの油と火薬が仕込まれている。

 衝撃とともにそれらが弾け、彼女が左手に持つ……これまた俺の炎の魔力付与(ファイヤーウェポン)が施されたダガーに反応して、爆発したのだ。

 まさに、一回限りの大技だ。


「……あぁ、くそ……生きてんだろうな……」


 路地に目を向けると、フェリシモのものと思われる布切れが勢いよく燃えていた。

 しかし人影は……ない?


「しょう〜〜ねぇ〜〜〜ん」


 艶のある声が耳元から聞こえた。

 ぞわりと背筋が凍りつく。

 ……いつの間に……どうやって?

 しかし、冷静に考えることなどできなかった。


「敵である私の心配とはぁ〜優しいじゃないかぁ」


 再び背後から、彼女が絡みつく。

 その左手は、少しだけ火傷をしているようだった。


「……左手……早めに神殿で、治癒してもらったほうがいいんじゃないか。ねぇさん、綺麗なんだし……跡が残るかもしれないぜ?」

「ふふふ〜〜たまらんなぁ、少年〜」


 フェリシモの左手が、蛇のような動きで胸をはう。


「楽しかったよ〜、少年〜。じゃぁここは、ひとつ、ご褒美といこうじゃないかぁ〜」


 ……どっちだ……

 殺されるのか……見逃してもらえるのか?


「私がこうやって背後にまわれるのはねぇ、我が教団で3位までに与えられる“影渡り”という秘術のおかげさ」


 ……影渡り?

 ……知ってるぞ……たしかアサシンの上位スキルで、一定範囲内の影へ移動するというやつだ。


「それからあの犬……とりあえずは、手を出さないでおいてあげるよぅ」

「ねぇさん……優しいね」

「あはぁ〜私の火傷の心配までしてくれたんだもの〜女としてそれくらいの約束は守るわ〜……………ただねぇ…」


 すっと背後から、右手がまわされてくる。

 その手には、見たこともない青黒いダガーが握られていた。


「私のこと、忘れられなくしてあげる」


 ゆっくりとした動きでダガーの切っ先を俺の胸につきつけ、そして……そのまま躊躇することもなく突き刺した。


「ンだァっ……なっ……?」


 激痛に思わず声を上げるが、刺された場所からは血が出ていない。

 ……刺された痛みは痛烈に残っているのに……なんだこれ?


「私のお気に入り、懺悔のダガーよ。安心なさい、このダガーは肉体を傷つけないからぁ」


 言いながら、目の前でゆっくりとダガーが抜かれていく。

 ダガーにも血はついていないようだった。

 何かのマジックのようだが、刺された痛みだけは今も続いている。


「ハっ……あ……の、わりにイテェ……んだけど……」

「このダガーは、アストラル・サイドを傷つけているからねぇ〜。決して消えることのない痛みを、4日間味わい続けたまえぇ〜」


 痛みだけで気絶してしまいそうなのに……4日間絶えずこれを?


「そんなに心配しなくても、大丈夫だよぅ、少年〜。痛いだけで、そうそう死にはしないからぁ」


 フェリシモがすっと離れる。


「……ひで……ぇ……拷問……武器だ……な………」


 胸を押さえながら、ふらふらと後ろを振り向いた。

 視線の先では、真っ黒に波打つ長い髪をした妖艶なキャットテイルが変わらず冷笑を浮かべていた。

 そしてゆっくりと俺を抱き寄せ、耳元で小さく呟く。


「その痛みとともに、私を存分に思い出したまぇ〜極上の時間だったにゃぁ、少年〜〜」


 そう言って彼女は、音もなく影の中に消えていった。


「あぁ……くそっ。鈴屋さんのところにも行きたいけど……こいつは……宿までもどれるかも……怪しいな……」


 4日間刺され続けるなんて、耐えきれるのか。

 いっそうのこと、気絶でもしてしまえば楽なんだが、どうやらそれも簡単には許されていないらしい。

 意識が遠のきかけても、痛みで戻ってきてしまう。

 頭がおかしくなりそうだが……鈴屋さんには言いたくないなぁ……と、俺はどこかでそんなふうに考えていた。

【今回の注釈】

・そしてパチンと指を鳴らした……嘘の嘘、それはくるりと裏返る……的なキャラは好きです。レクリエイターズは製作者側に刺さる事柄が多くて面白かったですね

・アストラル・サイド……精神世界。肉体的なダメージはないものの、ダメージが大きいと昏倒、精神崩壊、最悪の場合は死を招きます。物理の効かない精霊や魔族に有効な攻撃手段です。あー君の場合は生かさず殺さずで刺された感覚だけを継続させる呪いのようなものです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ