表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/504

ハチ子との再会(8)

 初日は何も起きずだ。

 俺としては道場破りというものを直に見てみたいという気持ちがあり、不謹慎ながらも少し退屈に感じていた。

 それに、ひとつ腑に落ちないことがある。

 一番弟子の相馬という男が不在の二日間……果たして道場破りが、そこだけを狙ってやってくるのだろうか。

 もはやそれは道場破りなどではなく、留守を狙った強盗のように思える。

 そんなことを道場で、ぼんやり胡座をかいて考えていると、刀華が話しかけてきた。


「秋景殿、退屈か?」

 そう言って、俺の隣で膝を折って座る。

 どうやら見抜かれていたらしい。

「顔に出ているぞ。貴公はわかりやすいのだ」

「まさか、それを刀華に言われるとは」

「失礼なやつだな!」

 強い口調の割に、怒っているわけではないようだ。

 優しく自然な笑みを見せてくれている。

 しかし刀華は、ひと呼吸おくと少しだけ表情をこわばらせた。

 

「某の道場が襲われたのは、夕方だった」


 両親と門下生を全員殺されたという、アレだ。

 しかし本当にハチ子が、そんなことをするのだろうか。


「あの時、某は頭の中が混濁していて、どうしていいのか分からなかった」

「そりゃぁ、いきなりそんなことがあったら誰だって……」

「どうだろうか。某の知っている“彼”なら、あの状況でも、きっと何も考えずに戦ったと思うのだ」


 また、彼……だ。

 刀華に、ここまで言わせる男だ。

 よほど信頼できるのだろう。

 本当に一度、会ってみたい。


「たしかにあの時、某の心が弱っていたというのは本当だ。それでもあの時……何も考えずに戦えば、誰かひとりくらい救うことができたかもしれない」

「それは……まぁそうかもだけど、そういった類の後悔は無駄だぞ。ひどい言い方だが」


 刀華が少し悔しそうに頷く。

 この娘は、すぐに自分を責めそうだ。


「なぁ、刀華。ひとつ聞きたいんだが」


 刀華が黙って顔を上げる。


「その時に、綾女ってのを見たのか?」

「あぁ、もちろんだ」

「たしかに綾女ってのが、手をかけたのか?」

「……どういう意味だ?」


 訝しむ表情を向けられるが、これは確認しておかねばならないことだ。


「大前提として、俺は刀華の味方だ。だからこそ相手が真に悪党かどうかを、確証しておく必要があるだろ?」

「それはそうだが……その場にいたのだ。間違いないであろう?」

「確かにその女が斬っていたのか?」

「いや……しっかりとは見ていないが、その場にはいたのだ。それに手下がやったとしても、妖魔軍の将軍が指示をしたことは明白であろう?」

「見てないんだな?」

「それは……」

「そうか、わかった」


 答えに困る刀華に対し、右手を上げて会話を遮る。

 今はそれだけ聞ければ十分だ。

 ハチ子側に何らかの事情があったのでは、と考えられるからな。


「秋景殿、某は……」

「別に責めてもいないし、疑ってもいないよ。刀華は、とにかく綾女ってのに会いたいんだろ?」


 こくりと頷く。


「復讐にするにしろ、どんな理由があっての行動だったのか知っておいてもいいはずだ。それが戦略的なものなのか、ただの虐殺だったのか……あるいは、それとは違うのかもしれない」

「しかし……それでは、某の旅の動機が弱いと思うのだ」

「動機?」

「あぁ、いや……」


 今度は急に口籠る。

 動機が弱いとはなんだ。

 綾女と会うことは単純な復讐ではないのか?


「まぁいいや。とにかく綾女ってのを探すことには変わりないしな。その後のことは、また考えようぜ」

「……うむ。そう言ってくれると助かる」


 何か奥歯に物が挟まったような物言いを感じるが、当面の目的は一緒である。

 刀華も、色々とあって大変なのだろう。

 考えがまとまらなくて当然だ。

 その時だった。


「たのもう!」


 道場の入り口から、むさ苦しい男の声が聞こえたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ