ハチ子との再会(3)
「おーい、おにーさーん、どしたー?」
超絶かわいい美少女フィギュアが、俺の目の前でくるりと宙返りをする。
いや、きっと間違いない。
「妖霊さん。ちなみに、フルネームを聞いてもいいか?」
「おにーさん、初対面なのに大胆だねー」
彼女はとびきりの笑顔を見せると、俺の耳元まですい〜っと滑空をする。
そして刀華と白露には聞こえないくらい小さな声で、こう答えた。
「スーズー・ヤーだよ。あーにぃ♪」
ほう。
ほうほう。
これは一体全体、どういう状況だ。
あいも変わらず俺は何も説明されていないのだが、どうして俺の周りの人間は、こうも事前に教えてくれないのか。
もしかして驚く俺を見て楽しんでいるのでは、と勘ぐってしまう。
「あのぅ、イロハ氏ぃ。これは、どういうことでぇ?」
やはり刀華たちには聞こえないように、小声で聞いてみる。
「なにそのキモヲタ喋り。ちゃんと名前で呼んで? 状況はあとで説明するね」
「なんですとぅ……スーズー・ヤーさん、もしや付いてくるつもりでゴザルか?」
「マジなにそのキモヲタ喋り。ずっとじゃないけど、ちょくちょく来るつもりだよ?」
「え、そんなに拙者に会いたいのでゴザルか? 超嬉しいのでゴザル。まさかそのサイズで、拙者と致すところまで致すつもりでゴザルか?」
「あーにぃ、そのキャラきもい」
おぉ。
おぉぉぉ。
彩羽と違って、鈴屋さんは刺さることをストレートに言う。
なにか懐かしくもあり、ゾクゾクするものが……
「あーにぃ、あっちよりこっちの時のがエッチだよね」
「うっ……俺も薄々そんな気がしてました……ごめんなさい」
ジト目の小さな妖霊に、俺は早くも頭が上がらない。
なぜだろう。
彩羽はそうでもないのに、鈴屋さんが相手だとイニシアティブを握れない。
「おい、秋景殿。さっきから何をコソコソと話しているのだ?」
「旦那、まさか……そんな小さな妖霊に欲情しておるのか?」
「そうなのか? 秋景殿」
ニヤニヤと笑う白露と、汚れなき眼を真っ直ぐに向けてくる刀華に、俺は激しく首を振って否定する。
「んなわけあるか。ぶつかった事に対して、詫びを入れろと言われてたんだよ」
「はぁ?」
大口を開けて呆れる妖霊が、鈴屋さんを彷彿させる。
やはりこうでなくては、と思わず頷いてしまう。
「詫びとは……穏やかではないな。たしかに秋景殿の不注意ではあるが、先ほど謝罪はしたであろう?」
「そういう問題じゃないんですー。あーにぃが全面的に悪いんですー。謝ればいいって問題じゃないんですー」
むっ……と、刀華が口を真一文字に結ぶ。
なにか面白くないらしい。
「そうか。“ウチの秋景”が迷惑をかけた。“ウチの秋景”の責任は、某の責任でもある。“ウチの秋景“に代わり、某が謝罪をしよう」
「ウチの……秋景?」
「あぁそうだ。秋景殿は某の弟子であり、付き人であり、これからも共に旅をする家族のようなものなのだ」
「家族……ですって?」
おぅい、落ち着けぇぃ、イロハ氏ぃ。
そこで怒っても仕方ないだろう。
「あーにぃ、ちょっと話があるの」
「何度も言うが“ウチの秋景”に話があるというのなら、まず某を通せ」
「うっさいなぁ。なんなの、あなた」
なぜか出会って数分で、バチバチと火花を散らす二人。
ここで白露がフォローしてくれるわけもなく、そうなってくるとやはり俺が諌めるしかないだろう。
お兄ちゃんだからな。
「スーズーさん、蕎麦でも奢るから、それで許してもらえない?」
「おい、秋景殿!」
「いいから。これ以上こじれても仕方ないだろうよ。二人は先に宿へ行ってくれ」
俺はそう言って、逃げるように蕎麦の提灯がぶら下がる小屋へと駆け込んだ。




