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夢現の境界線(4)

あけましておめでとうございます。

今年もネカマの鈴屋さんを、よろしくお願いします。

「いてぇ……」

 ブーツが当たった額を摩りつつ、バスタオルで濡れた髪を拭う。

 あの距離から的確に踵部分を当ててくるとは、中々の運動神経である。

「あーにぃが悪いんでしょ?」

 一方の彩羽ちゃんは、いきなり不機嫌なご様子だ。

 しかしなんだろう、どこか彩羽に対して違和感を感じる。どこがと問われても、はっきりと答えられないのだが。

 ダイブから戻りたてで、俺の頭が働いていないのだろうか。

 ちなみに縛られていたラフレシアは彩羽が解いてくれたようだ。今はバニーコスの上に、モコモコ耳つきフードパーカーを羽織っている。

 ヘッドギアタイプのダイブシステムも外した状態で、しっかりと俺にジト目を向けて……いないな。

 何故かその視線は、彩羽へと向けられていた。


「鈴やん、オマエなァァ」

「さぁて、私はシャワー浴びてこよっと」

 そう言って彩羽は、そそくさとシャワールームへと逃げこんでしまった。


「彩羽、なんで怒ってるの?」

 ラブソファに身を預け、ベッドの上のラフレシアに聞いてみる。

「サァナ。色々あんダロ」

 なぜか眉をひそめて答えられる。

 何か知っている感じだが、踏み込むべきだろうか。

 いや、そもそも疑問はそれだけではない。


「お前は、なんで縛られてたの?」

 ラフレシアのおかげで、ここのセキリュティは高いはずだ。

 強盗が入ったってこともないだろう。

「鈴やんに……ヘッドギアが空いてるのにアキカゲのポッドから出てきたところを見られたンダ」


 おぉぅ。

 見られたのね。

 それはヤバい。


「めちゃくちゃ怒ったところで、またアキカゲの呼び出しが来て、行こうとしたら鈴やんにダイブシステム被らされて……まぁ、その、そのまま脱がされて……後は、見たマンマだ」

「恐ろしいな……」

「オソロシイゾ……」

 しかしその光景をちょっと見てみたいと思う俺は、たぶん正常な男子のはずだ。

「ていうか、俺、完全にとばっちりじゃん!」

「どうカナ。なんか変な寝言でも言ったんじゃないのカ? 別の女の名前とか」

「寝言って。俺、寝てはいないだろ……って、あ!」


 そこまで言って、俺は先ほど見た夢を思い出す。

 あれはいったい……


「ナンダ、どうした、アキカゲ?」

「あぁ、いや」

 一瞬、話すべきか躊躇する。

 あんな夢の中の話、する意味があるのだろうか。

 しかしすぐに、ラフレシアには全て話したほうがいいだろうと思い始めた。

 なんだかんだラフレシアは、俺のためにいつも動いてくれているのだ。

「実はさ、ログアウトしてから戻るまでの間に……」


 それは夢の中の話──


 俺が月に向かう直前の話──


 そして綾女の話だ──


「どう思う?」

 ラフレシアが腕を組んで深く考え込む。

 そしてパーカーの耳を摘んでARを起動させて、なにかを調べ始めた。

「ふんフンふん。アキカゲは本当に飽きないナァ」

 不本意な楽しみ方をするラフレシアに、俺は若干あきれ気味だ。

 とりあえずパーカーの下がバニーのままなので、目のやり場に困る。

 ラフレシアも俺の視線に気づいたのか、顔を赤くしながら無言のままシーツを手繰り寄せた。

 相変わらず現実世界では、しっかり羞恥心があるらしい。

 そういうとこ、とてもいいと思いますよ。


「もしかしたらダイブすることによって、アキカゲの記憶が断片的に戻ってきているのかもしれないナ。まぁ〜七夢に話したほうがいいかもナァ」

「しかしよ、こんな偶然があるか? 俺が勝手に記憶を捏造してるんじゃないのか?」

「いや、いま例のスペースバスの座席表をハッキングして見てみた。一番前の真ん中の列、確かにアキカゲとハッチィ……如月綾女の名前が載っていたナ」

「マジかよ」


 だとすれば俺とハチ子さんは、既に知り合っていた仲ということになる。

 しかも不殺についてレクチャーしたのは、どうやら俺のようだ。


「それよりアキカゲ、なんで戻ってきたんダ?」

「あぁ、それだ。七夢さんに話しておきたいことっていうか……ちょっと向こうで変な奴に会ってな」

 変な奴?と、ラフレシアが首を傾げる。

「なんつぅか、あそこにはドリフターとかサルベージャーとか、フラジャイルとかいないんだよな?」

「あぁ、いないはずダ。少なくともオレがセキリュティに入ってからは、七夢を除けば絶対に入れないはずダ」


 なるほど。

 ますます長月白露という男について、話しておいた方が良さそうだ。


「オーケー、ちょっと七夢さんとこ行ってくるわ」

「今か? 今は外に出れないゾ?」

 ラフレシアはそう言って、視線を窓の外へと向ける。

 つられて俺も窓を見てみると、なぜか窓が濡れていた。

「雨?」

 一瞬、その違和感が何なのか理解できなかった。

 しかしすぐに、ここが宇宙船の中だったことを思い出す。

「え、雨? なんで?」

 外からはポツポツと雨音が聞こえ、窓にも水滴がついては流れ落ちていた。

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