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夢現の境界線(1)

 またしても俺は、太夫の部屋に戻ってきていた。

 ラフレシアには気軽に戻るなと怒られたばかりなのだが、今回は仕方ないだろう。


 さて、ログアウトだ。

 通常ログアウトするには『ログアウトする』と脳内で浮かべ、それを口にしようとすることで次の手順に移行する。

 声に出さなくても、言葉にしようとすればいいだけだ。


 しかし俺の場合、通常の手順とは少し違う。

 それはドリフターの特性が、大きく関わってくるせいだ。


 そもそもドリフターは脳波信号をデータ変換してダイブするのではなく、自らの“魂”を仮想世界にダイブさせているという説がある。

 もちろん、あくまでも一説によるとだ。 

 そう仮説を立てれば、色々と都合よく説明しやすいらしい。


 まず通常の脳波信号であれば信号自体は電気で行われているため、データとして捕捉が可能だ。

 しかし“魂”なんていう科学的に不確かなものは、観測そのものが不可能である。

 ドリフターを見失いやすい理由は、そこにある。


 またドリフターは、仮想世界で負った傷を“魂”に記憶すると考えられている。

 感覚共有エンジンで現実世界の肉体が負荷を受け、尚且つ“魂”に記憶された傷がプラシーボ効果を誘発し、本来ないはずの傷を生むのだ。

 いくら現実世界の体を治癒しても同じ場所に傷が現れてしまうのは、魂が“そこに傷を負った”と記録しているためらしい。

 まぁこれもプラシーボ効果の説明として、有力な“仮説”のひとつにすぎない。


「なんだよ、アキカゲ。頻繁すぎるダロ」

 既にお馴染みとなった光の扉から、アルフィーが現れる。

 前回はけっこう待たされたのだが、今回は到着が早い。


「おぅ、早いな」

 俺が笑顔を向けると、なぜかアルフィーは視線をそらす。

「今回は鈴やんに貸してたヘッドギアを使ったんダヨ」

「最初からそうしろよ。いやでも、ちょうどよかった」

「よかった?」

 アルフィーが首を傾げる。

「あぁ、ログアウトしたいんだ。また俺のポッドに入ってたら……その、二人ともマッパで目覚めんだろ?」


 そうなると、気まずいなんてもんじゃない。

 二人同時にずぶ濡れマッパで部屋に戻ったら、コトをすましてシャワーから出てきた恋人同士みたいじゃないか。

 そうなると鈴屋さんから、そんな経験なんぞまったくない俺に虚しい疑いがかけられるだけである。


「え、マジでか? 今スグ?」

「おう、今すぐにだ」

「もうちょっと、あとにシナイカ?」

「そんな時間ねぇよ。もどってさっさと用を済ませて、またダイブするしかねぇんだからよ」


 なぜかアルフィーが頭を抱えてしまう。

 何か都合が悪いのだろうか。


「ほら、俺一人じゃログアウトできねぇんだろ? 早くしてくれよ」


 そう。

 俺はまだ、ログアウトを安定してできない。

 ドリフターは非常に集中力が高く、仮想世界を本当の世界だと思い込んでしまう性質がある。

 そして仮想世界と現実世界の認識があやふやになり、ログアウトできない事例が起こるのだ。

 特に俺は、その傾向が強いらしい。

 そんな俺が安定してログアウトするためには、第三者の手助けが必要になってくる。


「現実世界の住人を前に、ここは現実じゃないと認識する……だっけか?」

 アルフィーがこくりと頷く。

 そして何故だか顔が赤い。

 相変わらず意味不明なやつだ。

「んじゃぁ、始めようぜ」

「あ、あぁ、待って、まだ覚悟が……その……還ったら、出来るだけ目を閉じてベッドまでキテクレ」

「はぁ?」

「アキカゲが還ったらオレもログアウトできてるはずダガ、ちょっと自分ではヘッドギアを外せない状況デ……とにかく、できるだけ目を閉じて、ほどいてクレ」

「ほどく?」

「できるだけ何も聞かずに、速やかに、目を閉じて、ダ。イイナ?」


 本当にコイツは何を言ってるんだろう。

 まぁそれも、もどれば分かることか。


「よくわからんが、わかった」

「ウン、よろダ。じゃあ始めるゾ」


 そう言ってアルフィーが、胸元から何かを取り出す。

 見れば青色のカプセル薬のようだ。

 俺は黙ってそれを受け取ると、そのままごくりと飲み込んだ。


「前にも説明したケド、それは仮想世界で眠りに入り込むための薬ダ。ここでの意識の定着を弱くする効果がアル」


 言ってる側から視界がぼやけ、少し眠くなってくる。

 そして自分の体が、自分のものではないような……

 そうだな、魔王になった時の感覚と似ている。


「じゃあ、いくぜ。俺の名前は明是(あかぜ) 秋景(あきかげ)。この夢から目覚めて、君のいる現実世界に還ることを望む」

 そう言って、アルフィーに手を差し出す。


「うん、還ろう。アキカゲ……」

 アルフィーは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべ、俺の手を握った。

 次の瞬間、二人の間に眩い光が生まれ、俺はログアウトをしたのだ。

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