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【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
【ネカマの鈴屋さん2〜夢現の転生編〜】
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長月白露〈12〉

ちょっと忙しくて、遅筆気味ですん。

年末はどうにも。

よろしければ息抜きに、お楽しみください。

「あの者に行かせるのか?」

 刀華が団子を頬張りながら、不安そうな表情でつぶやく。

「遊郭の中を調べてまわるなんて、俺には向いてないからな。灰人なら、どうにかしてくれるだろう。そっちは質屋に行ったんだろ。どうだったんだ?」

「うむ、売られてはいなかった。もし売られても、引き取るだけの金をすぐには用意できないと言われた」

「なるほどね……ってぇことは」

「うむ、まだ白露殿が持っているのだろう」

「だな。あとは街から出ていなければいいんだが……」

 

 最悪、刀に関してはラフレシアに頼めば探し出せそうなのだが、今はグレイを信じてみるべきだろう。

 なにより今回は、夢幻の転生(ラフレシア・ドリフト)のテストも兼ねている。

 他ワールドの泡沫の夢を呼び出したことが記録として残らないのであれば、今後も心強い助っ人となるはずだ。


「これでもし白露をおっさんを見つけられなかったら、刀華はどうするつもりだ?」

「無論、雑賀(さいか)の街に向かう。『七支刀(しちしとう)』の選抜試験の方が大事だ」


 はっきりとした決意を持って、刀華が答える。

 彼女にとって、今は何よりも選抜試験が最優先ということだろう。


「まぁ最悪の時は、俺がここに残って見つけ出してやるさ」

 俺が大きく伸びをしながら答えると、刀華は少し驚いた表情を見せた。

「何だよ、その顔は。あれは、師匠にとって大事な刀なんだろ? じゃあ、弟子の俺がそうするしかないだろうよ」

「いや……だがそれは某の不徳の致すところで……もしそれで、貴公を一人にして危険が及ぶようなことがあれば……」


 まるで保護者のようである。

 それほどまでに、頼りないのだろうか。


「盗人ひとり見つけ出すだけだし、問題ないだろ?」

「いや、しかしだな。貴公がそこまでする意味がないのだ」

「なんでだよ。そうすることに意味があるから、そうするだけだぞ?」

「某のために貴公が、そこまでする義理はないと言っておるのだ!」

「知らねぇよ、んなもん。それが刀華のためになるんだから、それでいいだろ?」


 刀華が、むぐっと口を閉ざす。

 なかなかに強情な娘だ。

 そんな細かいこと気にする必要などないのに、と俺は思うのだが。


「試験も刀探しもサクッと終わらせて、一緒に綾女さん探しをしようぜ?」

「ア…………秋景殿……?」


 少しばかり格好をつけて言ったせいか、頬が熱くなっていくのが自分でもわかった。

 彼女は不幸な事故に巻き込まれ一人で生きていくことになり、この先も一人で戦おうとしている。

 そんな彼女の力になりたいと、この時の俺は思ったのだ。


「昔……」


 刀華が小さな声で呟く。


「某が思いを寄せたあの人も、同じようなことを言ってくれた」


 刀華は目を閉じながら、ゆっくり頷いて答えた。


「あの時とは状況も……いや、話している内容も全く違うのだが……うむ、不思議な気分だ」


 きっとその男は、刀華のことが好きだったのだろう。

 何となくそう感じたのだが、なぜか軽い気持ちでそれ口に出すことべきではないと思えた。


「ありがとう、秋景殿。もし某の心が挫けそうな時は、その言葉を胸の内で思い出そう」


 刀華はそう言って、切なげに笑うのだった。





 日が暮れるまであと数刻という頃、俺は刀華を宿に残して刀鍛治の元へと足を運んでいた。

 刀鍛冶なら何か知っているかもしれないという、いたって浅はかな思いつきだ。

 その後はグレイと落ち会う約束があるため遊郭に行き、太夫の部屋で待つこととなった。

 どうやら俺は、この部屋にだけ顔パスで行けるらしい。

 その気になれば他の部屋にも行けそうだが、システム上はプレイヤー進入禁止区域なので試していない。

 今頃は灰人=グレイがチャラ男パワーを活かして、情報収集をしてくれているはずだ。

 俺にできることは、大人しく待つのみである。


「しかしまぁ……船と違って、やっぱり落ち着くねぇ」

 あのサイバーパンクな宇宙船暮らしも住めば都というもので、実のところそれほど悪い気はしていない。

 それでもやはり、ここまで自然を体感できるフルダイブVRシステムには感心してしまう。

 その気になれば海や山に行き、美味しい料理に舌鼓を打つ……なんていうことも気軽にできるわけだ。

 もちろん実際に現実の体で体感しているわけではないのだが、五感がそれらを本物として認識してしまう以上、本物と偽物の定義は大きく崩れてしまう。

 現実逃避の最たる病、『フルダイブジャンキー』の気持ちも少しわかるというものだ。

 もしかしたらドリフターとは『現実に帰りたくない人』にこそ、その特性が現れやすいのかもしれない。

 俺がそんなことをぼんやりと考えていると、なんの前触れもなく部屋の中に強い光が生まれた。

 光の中から出てきたのは、ピンクの忍び装束に身を包んだアルフィー・ラフレシアだった。

 もはや俺も、驚きはしない。


「何ダヨ、アキカゲ。気軽に呼ぶナヨ」

 アルフィーが細く引き締まった腰に手を当てて、首を傾けながら目を細めてくる。

 どこか不機嫌なのは、ラフレシアの地が出ているせいだろう。

「別に呼んで……あぁ、もしかして俺がこの部屋に入ったらコールがかかるのか?」

「そうダ。そのたびにダイブするオレの身にもなってクレ」

 呆れた表情が完全にアルフィーではなく、ラフレシアのソレである。

 言われてみれば、確かにそれは面倒だ。

「声だけで応対とかできないのか?」

「外部から直接音声介入すると、枝がつきやすいんダヨ。泡沫の夢を介して、この部屋にフルダイブしたほうが安全ダ」

「そう、それも気になったんだけどよ。お前ら、どうやってダイブしてんだ? あの軍用ポッドは一つしかなかっただろ?」


 たしか彩羽の部屋にも、ダイブシステムらしき物はなかったはずである。

 それに七夢に潜り込むということは、ハッキングを仕掛けるということだ。つまり、それ相応のスペックがないと無理なのだ。

 そんな状態でラフレシアと彩羽は、どうやってダイブしてきたのか疑問に思っていたのだ。


「オレが昔使ってた、市販のヘッドギアタイプを改造したヤツがあってダナ、鈴やんにはソレを貸したんダ」

「じゃぁ、アルフィーはどうやって入ってるんだ?」

「オレは……その……」

 なぜか急に口ごもる。

 急に女子女子した態度で言いづらそうにするもんだから、余計に気になってしまう。


「なんだよ、またヤバい違法なやり方でもしてるのか?」

「違法かどうかで言えば、七夢に入ってる時点で違法ダ。その……違法というか、ダナ……ソノ……アキカゲのポッドを、二人まで入れるように改造してあって……ダナ……まぁ、そういうことダ」

「どういうこと……だってばよ?」

「だから、その、二人同時プレイ……みたいナ?」

 アルフィーが、みるみると顔を赤く染め上げていく。


 二人同時?

 あのポッドに?


「えっ、お前まさか、いま一緒に入ってるのかっ!?」


 あろうことこか、白毛がこくりと頷く。

 いや、待て。

 待て待て待て。

 たしか、あのポッドって──


「え、マッパでっ!?」

「こっ、言葉にするなヨ、ハズカシイジャナイカッ!」

「ば、馬鹿なのか?」

「どうせオレのが先に外に出るんだから、オレの裸は関係ないダロ!」


 顔を真赤にしながら言ってる時点で、意識バリバリだろう。

 というか、俺の裸問題はどうなる。

 どんだけ辱めを受けてるのだ、俺は。

 もう、お婿に行けないじゃないか。


「いや、俺が見れるかどうかって意味じゃなく……そんなこと、よく彩羽が許したな」

「選択肢がなかったからナ。それにいま鈴やんには麻宮七夢のところに行って、ハッキングしたことのフォローをしてもらってル」

「じゃあ、今のうちに帰れ!」

「呼んでおいて、それは酷いゾ!」


 アルフィーがクナイを抜いて、構えに入る。

 この戦闘バカは、本当に投げてきそうで怖い。


「だから、呼んだ覚えはないんだって。あと、その格好な。グレイがエロい目で見てたぞ。ちょっと露出を抑えたらどうだ」


 ついでだから教えたのだが、なぜかアルフィーは目を大きく見開き固まってしまった。

 そして何度も、目をパチクリとさせる。

 なにか意外なことでも言ったのだろうか。


「アキカゲは、そのほうがいいの?」

「俺? まぁ、うん。なんか嫌だったし」

「そぅなんだ」


 そして何故か、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 たまに本気で思うのだが、乙女心ってのはわからない。


「じゃあ帰る。またな、アキカゲ」


 アルフィーはそう言うと、再び光の扉の中に消えていった。

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