最果ての斑鳩へ〈5〉
目が覚めたら、そこは見慣れない建物の中だった。
右手をついて体を起こそうとすると、木の軋む音が室内に響く。
どうやら木造の建物のようだ。
それも、かなり広い。
「これは……道場……か?」
ゆっくりと辺りを見回すが、暗くてよく見えない。
とりあえず壁まで歩き、戸板に手をかける。
しかし戸板は、軽く引いた程度では微動だにしなかった。
「せいやっ……と」
今度は力を込めて引いてみる。
すると戸板は、ギギギギッと大きな音を立てて、少しずつ開いていった。
「おぉ……すげぇ……」
そこから目に入った景色を見て、思わず感嘆の声をあげてしまう。
戸板を開けるとすぐに木の廊下が走っていて、その先には和風の庭が広がっていた。
風が笹の葉をサラサラと揺らし、鈴虫の鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。
中華要素は見当たらないが、まさに和の世界観を感じとれた。
「ってぇことは……ここは潰れた道場か、何かか」
再び建物の中へと視線を泳がせる。
外から差し込まれた月明かりが、先程よりも道場の中を見せてくれていた。
ラフレシアからは廃屋と聞かされていたが、随分と綺麗で立派なものだ。
道場の奥にはキャンドルスタンドが2本立っていて、掛け軸のような物がうっすら見えていた。
俺は腰に差された刀を抜いて、刀身を指でなぞらせる。
「不知火……」
術式を唱えると、刃に炎が宿った。
どうやら、ラフレシアのおかげでスキルは使えそうだ。
俺はその炎で蝋燭に火を灯し、刀を鞘に納める。
まずは俺の装備の確認だ。
下に履いているものは、レーナでも愛用していた黒装束と似ている。
脛を守れる足甲に、股下が少しダボついたサルエルパンツのような防具だ。
特に足甲は、蹴り技を使う俺に打って付けの装備だろう。
腰には黒い漆塗りの鞘に納められた、打刀と脇差の二本が差されている。
打刀は刃渡り六十センチほどの長さで、軽く反った刀身にダマスカス鋼特有の模様が浮かび上がっていた。
脇差は刃渡り三十センチほどで、打刀と同くダマスカス鋼だ。
上半身は加圧シャツのような防具だ。
体の線がピッタリと出ていて防御力的にどうなのと問いたいところだが、実はしっかり防御力アップの魔法が付与されている。
しかも、寒さや暑さを緩和する効果までついている。
ちなみに首元を引っ張れば、鼻先まで伸びてピッタリと張り付く。
この状態になると常時ヘイストと、確率での2回行動の効果を発動できるらしい。
思い出深い赤影のマフラーがなくなったが、とりあえずあの強力な能力は引き継いでいるようだ。
両手には、肘まで守れる手甲が装備されていた。
よく見ると外側にナイフが仕込まれており、手首にある仕掛けをスライドさせることで飛び出す仕組みになっている。
まさに攻防一体の防具といえよう。
背格好は現実世界と同じで、左目は義眼だ。
今回は眼帯をしていないが、この義眼自体に追跡阻害プログラムが組み込まれているらしい。
「まぁとりあえず、こんなものか。まずは、目立たないように泡沫の夢と接触を……」
俺がそうして独り言を呟いている時だった。
「誰だっ!」
誰も住んでいないはずの道場の廊下から、凛とした女性の声が響いてきたのだ。
めずらしく自分で描きました




