鈴屋さんとシザーレディ!
能天気な回です。
彼らの異世界生活も1年経ったようで、いま読み返すと最初はそんなにラブラブしてないんですよね、一応。
そんなこんなのネカマの鈴屋さん、いつもよりも多めの文量ですので、ワンドリンク片手にまったりとどうぞ。
楽しんでもらえれば幸いです。
とある日の碧の月亭。
遺跡での討伐依頼をこなした俺と鈴屋さんは、ちょっと遅めの昼食をとっていた。
「あー君、髪伸びたね〜」
鈴屋さんが、俺の後ろで束ねた髪をちょいちょいと引っ張る。
ここに来た時は短髪ツンツンヘアーだった俺も、気がつけばオールバックにして後ろで結ぶくらいまで伸びていた。
そうか……もぅかれこれ一年近くこの世界にいるのか。
「そういや、ここって髪切るとこないよね」
……たまぁにダガーで切ったりもしてるんだけども……ものぐさがたたって、どんどん野武士化が進んでいる。
「貴族区の方に行けばあるよ~? かなり高いけど」
「え、そうなの? 鈴屋さんはそっちまで行ってるの?」
鈴屋さんが、ん~……と水色の毛先を、指でくるくるしながら考える素振りを見せる。
「ロングは手入れが大変だけど、切るのはある程度、自分でできちゃうから……ほとんど行かないかなぁ」
「スズヤさんの髪が綺麗なのは、毎日の手入れを、きちんとしている証拠さ」
……断っておくが、今のキザい台詞は俺ではない……
金髪V系チャラ戦士のグレイだ。
グレイは、たまにこうして絡んでくる。
最初のゴブリン討伐からの付き合いだけど、冒険や仕事を一緒にしたことはあれから一度もない。
それでも面倒な仕事を押し付けるのに便利だという理由で、鈴屋さんに飼いならされている哀れな下僕一号だ。
「あら……ありがとう、グレイさん(はーと)」
鈴屋さんの完璧な笑顔に、グレイが照れながら頭をかく。
昔は、このネカマプレイが当たり前の光景だったんだけどな。
……今は少し面白くないと感じている自分がいる。
鈴屋さんも、俺のその感情を感じ取っているようで、変に俺を妬かせて楽しもうなんていう悪趣味なことはしない。
「スズヤさんがよければ……いつでも俺が手伝うよ」
「うん、ありがとう。でもその時は、あー君に手伝ってもらうから大丈夫かな」
笑顔できっぱりと断る君が素敵です。
まぁね……誰が来たところでこうやってちゃんと断るし、必要以上に距離を詰めさせないのが鈴屋さんだ。
しかも、俺へのフォロー付きという抜かりのなさには感動すら覚える。
俺が妬く必要など、どこにもないはずなのだ。
「うぅん……気にしてなかったけど。たしかに、ほったらかしすぎかなぁ。グレイは自分で切ってんの?」
グレイは、さわやかに金色の髪をかきあげながら、まさかと笑う。
「ちゃんと、貴族区にある有名店に行ってるぜ」
うわぁ……なんかチャラい……いかにもグレイらしい。
「う〜ん。こんなことに、お金もかけたくないし。ラット・シーに髪くらい切れる人いそうなもんだけど……」
「アークさん、あんなところで切るつもりか?」
あんなところって、お前……
……まぁ、交流のない人にとってはただのスラムか……
「そう、腐したもんじゃないぜ。あれでキレイ好きだし、何より手先が器用だからな」
「いやそれにしたって、スズヤさんに見合う男として……身なりも含めて、もっと気にしたほうがいいと思うのだが」
「グレイさん、それはちょっと余計かな」
鈴屋さんが少しムッとして口を挟んでくるが、グレイが珍しく食い下がる。
「スズヤさんだって、どうせならちゃんと切ってもらったほうが嬉しくないか?」
「ん〜〜、私は短いツンツン頭のあー君も……今のあー君も……どっちも好きかな」
やん、かわいい♪
そのはにかんだ笑顔、寝る前に思い出せるよう焼き付けとこう。
「スズヤさんは、かわってるな」
うるせぃ、お前がチャラいだけだ。
まぁでも、たしかに伸びすぎて邪魔だったし、これもいい機会か。
「じゃあ、ラット・シーにでも行ってみるかなぁ」
頭をボリボリとかきながら、仕方なく立ち上がる。
「本気か、アークさん」
「んまぁ……技術云々はともかく、切ってくれれば何でもいいし……」
グレイがあきれ顔を向けてくる。
そんなに、髪型とか大事かねぇ。
「なんか心配だから、私もついてくね」
何が心配なのかわからないけど、俺はもちろんそれを快諾した。
久々のラット・シーだ。
俺達は水着販売という一大ビジネスを成功させたこともあり、ここではちょっとした有名人だった。
鈴屋さんのネズミ嫌いは相変わらず健在だが、ラット・シーの住人とは仲良くしていた。
もちろん変身前限定なんだけど……それでも、すごい進歩だと思う。
ここの住人は、本当に気のいい人たちばかりだ。
正直、俺は町の人達よりもラット・シーの住人の方が好きだったりする。
「いいねぇ。やっぱりここ好きだなぁ」
「私も嫌いじゃないけど……1人で来るのは、まだちょっと抵抗あるかなぁ」
鈴屋さんが、さりげなく腕を組んでくる。
まぁスラムには変わりないしな……不安に感じて当然だろう。
「そもそも、鈴屋さんを1人で歩かせることに抵抗があるよ」
「なぁに、それ」
不満げにぷぅと頬を膨らませる。
かわいいので、そういう不満も大歓迎です。
「よほど治安のいいところでもない限り、不安に決まってんじゃん」
「あー君は過保護だなぁ」
「……俺はこう見えて、心配性なんですよ」
俺は、どんなことがあっても鈴屋さんを無事に帰還させると心に決めている。
過保護だろうがなんだろうが、知ったことではない。
「おぉ、アーク君じゃないか! それに彼女さんも!」
海上デッキに差し掛かったところで、偶然通りがかったジュリーさんが大きな声を上げてきた。
この人はいつまで経っても、鈴屋さんの名前を覚えない。
彼女さんって言われると、変にむず痒いものがあるんだよな。
たしかに、鈴屋さんはそう説明したけど。
「元気にしてたかい? おふたりは相変わらず、仲良さそうだね」
はいっ!と、笑顔で返事をする鈴屋さん。
一体、どんな心境なのだろう。
「今日はどうしたんだい?」
「いや、髪が随分のびちゃってさ。ジュリーさん、この辺で切ってくれるとことかないかな?」
「あぁ、それなら整髪師のシェリーがオススメだよ」
ついて来いと言わんばかりに、歩き始める。
「なんだ、そういうのあるんじゃん。鈴屋さんも今度からこっちで切れば?」
「ん〜。あー君で様子見てから、決めようかな(はーと)」
そういう“とりあえず俺で試す”って精神、嫌いじゃないですよ。
「そっか。鈴屋さんの場合は、そんなに切らないでいいんだっけね。俺も、その長さの鈴屋さんが好きだしな」
なぜか、ぎゅぅ〜っと腕を締め付けられる。
「……あー君ってたまに、そういう事さらっと言えちゃうんだよね」
なんか、変なこと言ってしまったのだろうか。
「……あのぅ……グレイみたいにうまく言えなくてごめんね」
「……そういうことじゃなくて……」
何故か不満げに、口を尖らせている。
また的外れな返事をしてしまったらしい。
そうこうしている間に、目的の店に着いてしまったようだ。
「おおぃ、シェリーいるか?」
小さな店の奥から、二十代半ばで褐色の肌をした、真っ赤なアフロヘアーが印象的な女性が不機嫌そうに出てきた。
タンクトップにショートパンツという出で立ちから、活動的な人なんだろうことが見て取れる。
ものすごくスタイルがいいし、どこか豪快で男前な気質を感じられた。
咥えてるは、この世界でいうタバコみたいなものだろうか。
吸ってる人なんて、ほとんど見たこと無いけど。
「なんだい、ジュリーか。あんた、こないだ切ったばかりだろ」
「いや、今日は俺じゃなくて、アーク君なんだ。ほら、例の水着の……」
そこでやっと俺のことを思い出したのか、シェリーさんがパッと笑顔を見せた。
「あぁ、あんたかい! そりゃあ是非もないね。さぁ、入った入った!」
シェリーさんはそう言いながら、店の奥にもどっていく。
「私はもう行くが……ま、シェリーは変わってるけど腕は確かだよ。きっと彼女さんも、惚れ直すこと間違いなしさ」
「……そもそも、惚れられてるかどうかも怪しいのに……」
俺はぼやきながら、ジュリーさんに礼を言って店に入っていった。
さて……この状況。
なぜ俺は、椅子にロープで縛られているのか。
この店は何か?
新手のプレイが売りの店か?
首をひねって、鈴屋さんの方を見る。
きっと今の俺は、助けを求める怯えた子犬のような目をしているのだろう。
それを受け止めるように、鈴屋さんが心配そうにこちらを見つめ返している。
それでも鈴屋さんが何も言えずにいるのは、シェリーさんの気迫に押されているせいだろう。
彼女の有無を言わせない態度に、俺達は為す術がなかった。
まさに、言われるがままだ。
「さて、お客さん、今日はどんな髪型をご希望で?」
俺の髪を乱暴にかき上げながら、シェリーさんが言う。
切りがいがあるわねぇ……と、どこか上機嫌だ。
「う〜ん、適当でいいんだけど」
「テキトーって言われてもねぇ……」
「あの……」
と、鈴屋さんが何か紙のようなものを持ってシェリーさんに近づく。
「……こんな感じに」
おぉ……絵をかいてくれてたのか。
すごいな、鈴屋さん。
ただ、肝心な絵が俺には見えなくて不安なんだけど。
「へぇ〜……あんた、こいつの彼女だろ? そうかいそうかい、こういうのがお好みかい」
こくんこくんと、鈴屋さんが頷いているのが見える。
なになになに?
どんな髪型描いたの?
「こいつぁ、クールでイカれてて、最高にイカしてるね」
もはや何言ってんのかイミフなんですけど……
不安しか生まれてこないんですけど……
「できますか?」
シェリーさんがタバコ(らしきもの)をふかして、にやっと笑う。
「……任せときな。お前さんの彼氏、最高にクールに仕上げてやる。惚れ直すぜぇ?」
「惚れ直しますっ!」
なに、その惚れ直す宣言!?
……てか、 惚れてくれてたの?
なら、好きに切るがいいさ!
「じゃぁ、始めるぜ。彼女さんは危ないから、あっちに座ってな」
うんうん、危ないからね。
鈴屋さんは、安全なところまで離れてて……って……
「ちょ……ちょっと待った、今なんつった?」
「おい、あんまり動くなよ? 危ないから……」
「いや……いやいやいや、髪切るだけですよね? 危なくないですよね?」
シェリーさんが、すぱぁっと煙を吐き出す。
「やっぱり、ロープで固定して正解だったぜ。勝手に動かれると、危なくてしかたないんだ」
「うぉい、ちょっと待て。聞き捨てならない言葉を、すでに3回も聞いたぞ!」
「あー君、がんばっ!」
「なにをだよっ!?」
ジュリーさん、大丈夫なの、ここっ!?
「んじゃぁ、はじめるよ。まずは……と」
シェリーさんが、目の前の鏡をバンッと叩く。
すると、勢いよく鏡がくるりと1回転する。
その裏側には、見たこともない凶悪な武器が展示物のように飾られていた。
「好きな得物を選んでね(はーと)」
「……待て、今たしかに得物っつったよな?」
「んだよ、ノリわりぃなぁ。あたりめーだろ、これからあたしは“神をKILL”んだから」
そう言ってまた、タバコをぷかぁとふかす。
「さぁ、どのゴッドスレイヤーを使うかは、君次第だ!(はーと)」
いちいち音声ガイダンス調に声色かえるな、ちきしょうめっ!
俺は身の危険を感じながらも、目の前の武器達を左から順に観察していく。
……指先に刀身がついているような感じのグローブ……あれ、映画「鋏の手」的なアレだよな。
あっちは随分素敵なファンタジー映画だったけど、ここではナンタラ街の悪夢という言葉がピッタリだ。
真ん中のは……ただの、超デッカイ鋏だ。
これもゲームで見たぞ。すげぇ追い回されるやつ。
右端のは……これは、どう見てもただの刀だろ。
なんか赤いのがついてるけど……血じゃないだろうな……
「さぁ、好きな得物を“早く”選んでね(はーと)」
「ちきしょー、帰りてぇ!」
「あー君、がんばって! 私のためにもっ!」
「いいよ、やってやるよ、ちきしょうめ! 俺が選ぶのは、一番左の鋏の手だ!」
「お……お兄さん、粋だねぇ! こいつぁ一等、あたしのお気に入りさ!」
半ばヤケクソ気味な俺に対し、シェリーさんは喜々として指先に刀身がついたグローブをはめるのだった。
ジャキンジャキン、シャリシャリシャリ
ジャキンジャキン、シャリシャリシャリ
……ズバシュッ……
おおよそ髪を切っているような音ではないが、シェリーさんのハサミは快調に進んでいる。
ハチ子、今日はいないのか。
彼女ならストーキングついでに、俺のピンチを救ってくれるだろうに。
そもそも鏡は、もどさないのかよ。
まったく状況が、わからないじゃないか。
こんな物騒な得物を目の前に見せられたままじゃ、生きた心地がしない。
「う〜ん……お兄さん、髪硬いねぇ〜剛毛だねぇ」
「あー君って、髪短いとタワシみたいなんですよ?」
「へぇ〜。じゃあ、あっちの方も硬いのかい?」
なんだ、そのえげつない下ネタ……俺でも、ドン引きするわ。
しかもなぜに、鈴屋さんの方を見ながら言うの。
……鈴屋さんが、かつてないくらい真っ赤になってるじゃないか。
なんかもう、無理矢理でも話題をそらしてやらないと……
「あのさ。シェリーさん、なんで普通のハサミを使わないの?」
「あぁ……あたしは、もともと傭兵だからねぇ」
……今の質問に対して、その答えは正解なのか?
「昔から変わった武器とか好きだったしね〜。そういう、趣味と実績を兼ねて整髪師になったからね。まぁ、こうなるさ」
いや、どうしてそうなる。
だめだ、理解が追いつかない。
とりあえず、ヤバイ人だってのはよくわかった。
「うん。こんな感じかねぇ。どう、お客さん?」
「いや、どうも何も……鏡もないし……」
「あぁ、そっか、わりぃわりぃ。彼女さん、どう?」
本人は無視かよっ!
「……長さ的には、そんなかなぁ。何かで固めるんですか?」
固めるってなにっ!?
「あるよ〜。まぁとりあえず、髪流そうか」
そう言うと、シェリーさんはバケツを持って外に出ていく。
そしてそのまま、海上デッキから身を乗り出して海水をすくった。
うん、知ってた。
そんな気はしてた。
それで流すんですね。
「ほれ!」
シェリーさんは一切の躊躇することもなく、俺の頭からザバッと海水をぶっかけた。
「ぶはっ! うぉい! せめて頭だけにしてくれよ!」
「なにぃ〜、下着までずぶ濡れってかぁ〜?」
おい、やめろ。
ニヤニヤしながら、鈴屋さんの方を見るな。
「だいたい店内でぶちまけたら、あんただって……」
……と、床の方に視線を落とすと、海上デッキの隙間から、海水が髪の毛ごと流れ落ちていくのが見えた。
下はそのまま海だ。
なんて機能的かつ、海に優しくない人なのだ。
「海は、あたしらのゴミ箱だからね」
とんでもないことを、平然と言ってのける。
そう言えば、こんなところにドブ侯爵の下水がきてるわけない。
……じゃあ、トイレってまさか……
絶対に、ここいらの海で泳がねぇぞ!
「んじゃぁ、髪をセットしてやるぜ」
今度は何やらネバネバしたものを手につけて、ものすごいこすり合わせる。
そして、その手で俺の頭をワシャワシャとし始めた。
ものの数分でセットとやらも終わり、俺もやっとロープを解いてもらえた。
ようやく一安心だ。
……なんか、どっと疲れたな。
ところで、俺の髪型はいまどうなってるのだろう。
「どうだい、彼女さん」
俺も鈴屋さんの反応が気になり、顔を向けてみる。
鈴屋さんの要望通りになっているのだろうか。
「…………」
なかなか返事をしないなと思ったら、いつぞやの時みたいに、ぽ〜〜っと見上げてきていた。
……ん?
……これはひょっとして……
「あらぁ〜見惚れてるねぇ〜。にくいねぇ〜お兄さん、今夜はきっと、寝かせてもらえないよ?」
「なっ!」
鈴屋さんが顔をうつむかせて、バンバンと俺の背中を叩く。
まぢでその下ネタはやめてほしいけど、鈴屋さんが可愛いから全部許してやるぜ、ちきしょう、俺の馬鹿っ!
「毎度あり〜♪ また来てくれよな!」
二度と来るか!と思いつつ、それでもやはり、ここの住人を憎めない俺がいた。
「ねぇ、俺は今どんな髪型なの?」
海岸沿いをてくてくと歩いている時に、もう一度鈴屋さんに聞いてみた。
感覚としてはさっぱりとしているんだけど、なんか全部髪を立てられている感じがする。
「……ねぇ、鈴屋さん?」
相変わらず、ぽ〜っと見上げてくる。
なんか、かわいい。
「まぁ……満足してもらえればいいんだけどさ」
いったい、どんな癖が叶ったのだろうか。
よほど鈴屋さんの理想通りだったのだろう。
「満足というか……まんまなんだもん」
「なに、なんかのアニメキャラ? それともアーティスト的なやつ? まさかのクスエニ風?」
「クスエニは素体も重要だよ?」
さらっと、酷いこと言うのね。
そりゃ、あんな異次元な美形にはなれないけどさ。
「ん〜とね。ムゲジュの大吉クン……見た目がかっこいいの」
あぁ……夢幻の十人で出てくる、やたらパンキッシュなキャラか。
そういや、あのキャラも目つき悪いよな。
全身黒尽くめだし、なんか口元マスクみたいなのしてたし……
てか、ツンツンヘアーがパワーアップしてるじゃないか。
「えぇっと……じゃあ、あんな感じで……ハリネズミみたいに髪が立ってるの?」
鈴屋さんが2度頷く。
……ってことはよ、こういう公式ができるわけなんだが……
「ムゲジュの大吉くん、かっこよくて好きなの?」
「うん、かっこよくて好き」
「それに似てるの?」
「うん、そっくり」
「じゃあ今の俺も、かっこよくて好きってこと?」
「うん、す……」
そこで、はっとして言葉を飲み込む。
うぉぃ、もうちょっとじゃん!
「なに言わせてるの! 別にね、似てなくても、あー君のことは……」
やはり、そこから先はゴニョゴニョとして聞き取れない。
「……ねぇ、あー君」
「どうしたの、鈴屋さん」
鈴屋さんがまた、さりげなく腕を組んでくる。
「せっかくだから、遠回りして帰ろ?」
……ほんとに気に入ったんだな……わかりやすい……
まぁ、こんなことで喜んでもらえるなら、俺もいいんだけどね。
もしかしたら、グレイの言うことも当たってるのかねぇ。
「鈴屋さんってさ、髪……すごく綺麗だよね」
試しに、グレイよろしくキザめに言ってみる。
「なぁにそれ。グレイみたいで、そこはかとなく、ダサ気持ち悪いんだけど」
グレイは、そんな風に思われていたのか。
俺は、お前に少しだけ同情するぞ。
「いや……さ。あいつみたいに、サラっと言ってみたいんだけど……上手く言えないんだよね。鈴屋さんのどこを褒めるっつっても……俺にとっちゃあ、全部かわいいとしか言えないしなぁ」
「ちょっ……もぅ」
鈴屋さんが、言葉を詰まらせる。
「……ばかっ」
そう言いながら顔を赤くし、またしても俺の背中をまたバンバンと叩き始めるのだ。
俺は、なぜかそれが嬉しく感じられて仕方なかった。
【今回の注釈】
・裏側には、見たこともない凶悪な武器が展示物のように……メガテンです。がさ入れされたら即バレだろうなぁ
・指先に刀身がついているような感じのグローブ……シザーハンズという素敵映画です
・ナンタラ街の悪夢……エルム街の悪夢です。最近デッドバイデイライトっていうオンゲで、キラ側のキャラとして登場してました
・超デッカイ鋏……クロックタワーのシザーマンですねごめんなさい
・ただの刀……荒川アンダーザブリッジのラストサムライが日本刀を使って散髪してたような
・ムゲジュ(夢幻の十人)の大吉クン……無限の住人の凶戴斗ですごめんなさい