表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/504

爪痕〈7〉〜明是ルート〜

挿絵(By みてみん)


専属絵描きのロジーヌ様にラフを投げて、綺麗に清書をしてもらい、もどってきたイラストに背景をいれたり馴染ませるために色々と処理してみました。※イラストの編集は許可を得て行います。

お似合いの二人……


 店から出ると別の塔へとつながる通路を渡り、塔の外周を回り、また別の塔へと移動する。

 そして今度は階段を降りて、さらなる下層へと向かう。

「あのさ、ラフレシア」

 くりっとした目を見開いて、顔を上げる。

「こういう高低差だらけ、階段だらけでそのスカートはどうかと思うのだ」

 ただでさえ、ひらひらと揺れ動く短いフレアスカートだ。

 こんな格好で歩いてたら、ちょっと下から……なんて考える変態紳士がいても可笑しくない。


「そういう考え、引くぞ?」

「いや……純粋に注意喚起をしているのだが」

 ふむ、と少し考える素振りを見せる。


「オレとしては、アキカゲがこういう格好を好んでいると思ってな。これからしばらく一緒に生活するんだから、好感度は上げておくべきだろうという真摯な気持ちだ」

「いやまぁ、俺の性癖に刺さるかどうかはともかくよ」

 ふむ、とまた考える。


「オレが見知らぬ男から、そういう目で見られるのは嫌か?」

「嫌というか、あぶねぇだろうと」

「オレは強いから、危ないってことはないぞ?」

 まぁたしかに、あのナイフさばきは只者ではない動きだった。


「だとしてもよ。いらぬトラブルに巻き込まれたりするだけだろ?」

「トラブルよりも、女心を優先したんだけど?」

 真っ直ぐに見つめてくる。

 まじで何を考えているのだ、こいつは。

 七夢さんの言う通り、本当に思考が読めない。


「まぁアキカゲなりの心配だってのはわかった。ちょっと引くが」

「ちょっと引くのかよ」

 ラフレシアがクスクスと笑う。

 楽しいらしい。

 なんか未知の生物を観察している気分だ。


「ちょうどあそこに、オレのことをそういう目で見ている奴らがいるな」

 ラフレシアが手すりにもたれかかって、顎をくいっと動かす。

 その視線の先には四人組の若者が、ラフレシアを見ながらニヤけ面を浮かべていた。

 こういう輩は、こんな未来の世界でもいるんだなと半ば呆れてしまう。

「気持ち悪いし腹立たしい。アキカゲに見られてるほうがマシだ」

「それって俺は喜ぶべきポイントですかね?」

 思わず苦笑する。

 さてどうするかと考えていたら、ラフレシアがコートのポケットから二センチくらいの玉をいくつか取り出した。

 なにそれと興味深げに覗き込むと、彼女はいたずらっぽく笑って返す。


「さて、アキカゲ。今日の予定を覚えているか?」

「予定? 飯食って……あぁそうだ、運動して、俺ん家に行くとか?」

「正解だ、アキカゲ。じゃあ実践を楽しもうじゃないか」

 言っている意味がわからず首を傾げていると、ラフレシアが手の平に乗せた複数の玉を目の前まで持ち上げる。


「ロックオン。ショット!」

 その言葉をきっかけに玉がふわりと浮き上がり、弾丸のように加速して四人組に襲いかかる。

 次の瞬間、着弾した玉が弾け、色とりどりの塗料がぶちまけられた。

 四人組は「うわ!」だの「ぎゃあ!」だの、月並みな悲鳴をあげたのち、最後は「てめぇ!」と怒りをあらわにする。

 てめぇってことは、なぜか怒りの矛先が俺に向けられているらしい。

 現実世界に帰った初日に、この展開はあんまりだ。


「おい……何やってんだ」

 この理不尽極まりない展開に抗議するが、当のラフレシアは舌をベッと出して笑うのみだ。

「ほぅら、がんばれ、男の子!」

 そして、どこかで聞いたこのセリフ。


「大丈夫、安心しろ。アキカゲは、あの世界と同じ感覚で戦えばいい。あ、でも気を練ろうとしても無駄だからな」

「いやいや、お前なぁ。これはあまりにも、理不尽すぎるだろうよ」

「アキカゲはオレの貞操を守ってくれないのか?」

 ラフレシアが、ひらひらと挑発的にスカートをはためかせる。


「あぁ、くそ。選択肢なしかよ」

 俺は頭をバリバリと掻きながら、四人組と距離を詰める。

 この状況……どうみても、いきなりペイント弾を撃ち込んだこっちが悪い。

 なにかこっちに正当性を持たせるとしたら……


「さっきから……俺の女にいやらしい目を向けてんじゃねぇよ、お前ら」

 これで、一応の筋は通ったか。

 あいつらがラフレシアのことを見ていたのは事実だし、もし彼氏ならこの行動は当たり前のはずだ。

 たぶん。


「あぁ? いきなりこんな事して、ただですむと思うなよ!」


 うぅむ。

 やはりレーナ初日を思い出す。

 問答無用で、やるしかないようだ。


 軽くステップを踏み出す。

 確かにラフレシアの言う通り、レーナにいた時と比べても体の動きに遜色はない。

 まったく同じ感覚で動けている。

 それなら……


 タタンッと低い姿勢で飛び込む。

 一人がその動きに合わせて拳を振ってくるが、体勢をさらに低くし不規則なステップで揺れ動く。

 シメオネの八の字ステップを完全にトレースし、そのまま体を回転させて足払いを放った。

 エイジアン・アーツの、後ろ掃腿という技だ。

 俺は相手が派手にすっ転ぶのを確認し、そのまま回転を止めずに飛び上がる。


 標的は……視界に入った一番近い男だ。


 空中で体を捻り、飛び後ろ回し蹴りを放つ。

 これもエイジアン・アーツで、旋風脚という技である。

 俺の足先は相手の頬を捉え、ぐるりと一回転させて吹き飛ばした。


「カカカッ、まじかよ!」

 思わず自分の動きに歓喜してしまう。

 ここには魔法の武具も、術式もない。

 気を練ることも出来ない。

 しかし、あちらで毎日のように行なっていた筋トレや習得した体術は、ここでも力として体現できるのだ。


 残りの二人が同時に殴りかかってくるが、その緩慢な動きに笑ってしまう。

 お前らは水の中にでもいるのか、と言いたくなるほどだ。


 着地と同時に横へ飛び、稲妻のようなステップで相手の脇腹に膝を入れる。

 そして、くの字になった男の背を蹴り、最後の一人に旋風脚を決めた。


 あっという間に四人組を倒すと、踵を返してラフレシアの元に走り出す。

 そしてそのまま彼女を抱き上げると、手すりを蹴って塔の外へと飛び降りた。


「きゃぁ!」


 一瞬、だれの悲鳴かと思ったがラフレシアで間違いないようだ。

 もはや現代の忍者となった俺には、常人を超えた動きを可能としていた。

 落下をしながらも下の層の手すりを右手で捉え、左手でラフレシアを強く抱き寄せる。

 そしてひらりと回転するように、一層下の通路へと着地した。


「どっちに走ればいい?」

 目を丸くして驚いているラフレシアを再び両手で抱きかかると、とりあえず俺は駆け出す。

「あ……あぁ、なびげーとスル……」

 さすがに俺の動きは刺激が強すぎたのか、いまだに目をパチパチとしている。

「カカカ、きゃぁ、とか可愛い声出すのな」

 先程のお返しとばかりに笑ってやると、ラフレシアはみるみると耳の先まで真っ赤になってしまった。


「落ちたらどうする気だ、バカ……」

「あぁ、まぁ行けると思ったからな」

 とは言え、いま思えば危険な行為だったと思う。

 さすがに反省するべきだろう。


「まぁ、下まで落ちれば反重力装置が働くから、怪我はしないんだケドナ……」

 まだ赤い。

 天才ハッカーも、こうしてみると普通の女の子だ。


「まじか。じゃあ下に行くなら飛び降りたほうが早いんじゃないのか?」

 しかしラフレシアは首を横に振る。


「反重力装置を作動させると、けっこうな罰金が請求される。もちろんゴミのポイ捨ても同様だ」

「なんだ。残念だな」

 しかし階段を降りるよりも、楽な移動手段を覚えられたと思う。

 罰金覚悟だが、いまのような状況なら全然アリだろう。


「アキカゲ……」

 後ろから追われてないかを確認しながら、なんだと返す。


「なんでもない……」

 ラフレシアはそう言うと、フードの先をぎゅっとつまんで顔を隠してしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ