鈴屋さんとKBFっ!〈後編〉
さすが師走………と、追い込みのかかる時期ですが、ここは気軽に読めるネカマの鈴屋さんでもどうぞ。
SAOインテグラル・ファクターをダラダラやり始めました。
そして早くも放置気味です。
ヒロインの絵を変えられないのが残念です。
KBFは、町の近くにある小高い丘の上だ。
俺は2人とは少し離れたところで、ちょこんと座っている。
隣には、移動の途中に捕獲した南無子が、仏頂面で体育座りをしていた。
「なんで私が……」
「そう言うなよ。もうこうなると、中立の南無子だけが頼りなんだから」
「……中立……ねぇ」
なぜか、いつもの呆れた表情とジト目を投げかけてくる。
「勝負の方法は、どうするんですか? ハチ子は、何でも受けて立つ所存ですが」
……まさか対人……というか、タイマンとかじゃないよね?
ハチ子は、例のぴったりとした黒のタンクトップに、キュロットスカートという薄着装備だ。
一応シミターは持ってきているようだけど……対して鈴屋さんは、フル魔法装備である。
……さすがにそんな大人げないことは……
「もちろん、戦闘かな」
……そのまさかだった。
「ちょっと、鈴屋さん。それは駄目だよ。ゲームならまだしも、怪我するって!」
「アーク殿、私はかまいませんよ~」
いや、ハチ子さんもアサシンの目になってるよ。
……この2人は、ほんとに危ないな……
「あのね、ハチ子さん。鈴屋さんは、サモナーだよ? 短時間なら、DPS最強のボス専用決戦兵器みたいな存在だからね?」
「アークんの言ってる意味が、よくわからないですなぁ」
「……ちょっと……その呼び方、やめてくれないかな?」
……と、言いながらじろりと俺の方を見る。
先日のあの約束のことですよね、鈴屋さん。
わかってるんだけど……今はちょっとそんな空気では……
「鈴屋……ひとつ疑問なのですが。そこまで気にしなくとも、アーク殿は、鈴屋のことしか見てないですよ?」
「……そ、そういう問題じゃないの」
「まぁ……今は、隣の女の方ばかり見てますが……」
はぁ?と、鈴屋さんと南無子から攻撃的な視線が向けられてきた。
お願いハチ子さん、これ以上ややこしい方向にかき回さないでください。
「な……なに見てんのよ、アーク」
「いや、せっかく南無子が服を新調したようなので堪……拝見させていただいておりまして……」
「そ、そ、そ……そういうのは、せめてバレないように見なさいよね」
顔を赤くしながら、ふんっと顔を横に向ける。
なんですか、南無子まで……ここはツンデレ王国ですか?
「と、とにかくだ。戦闘で決着なんて、とても容認できないぜ」
「……ふぅん……じゃあ勝負の方法は、あー君が決めてよ」
「なぜにっ!」
「ハチ子も賛成です。これはアーク殿の問題でもあります。なにより、それが一番公平かと~」
……ぬぅ……いやしかし……これは、チャンスだ。
なんとか平和的に……うやむやにしたい。
「よし、じゃあここはひとつ、花見酒で勝負といこうじゃないか!」
「おぉ……アーク殿、それは名案ですな♪」
酒なら公平かつ平和的かつ、酔っぱらってしまえば、うやむやにできるだろう。
我ながら名案だ。
「ちょっと、アーク。鈴ちゃん、未成年でしょ?」
「あ……」
しまったーーっと鈴屋さんの方を見てみると、今にも泣きだしそうな顔でこちらを見つめていた。
「……あー君の馬鹿……」
はぃ……おっしゃる通りで……
「……あー君の裏切り者……」
そんなつもりはないのですが……
「まぁまぁ。鈴屋、もう一献いきましょう♪」
何も言えずにいる俺の目の前で、鈴屋さんがトン!クッ!っと二杯目を空ける。
その飲みっぷりたるや、えらい男前なんだけど……如何せん、顔色はすでに真っ赤だ。
これでは勝負は見えている……と言うか、俺のせいで負けてしまう。
「あのぅ、ハチ子さん。これはちょっと……俺の失言だし……勝負にならないし」
「まぁ、アークんがそう言うのであれば、ハチ子は従いますよ~?」
「……ちょっと待ってくれるかな。これは、そうやってすり寄るのを辞めさせるための……私と、あなたの戦いなの!」
目が座ってる。早すぎる。
「……南無子、たすけて」
「嫌よ。この際だから、トコトンやらせなさいよ」
なぜに南無子まで、そんなに不機嫌なの……って、飲んでるしっ!
「ちょっと、南無子。お前まで飲んだら……てか、一番年下だろっ!? 一番のんじゃ駄目じゃん!」
「っるさいわねぇ……私だって、飲まなきゃやってらんないっての」
あぁ、これはやばい。
なぜか、四面楚歌になりつつある。
できることなら逃げ出したい。
「あー君のそういうとこだよ~」
鈴屋さんが、ごろんごろんと横に転がりながら、俺への日ごろの不満を愚痴り始める。
しかし、ものすごいアクションだ。
……ちきしょう、録画とかできたら後で見せるのに……
「鈴屋は少し甘え過ぎでは? アーク殿はみなに優しいですが、鈴屋だけ明らかに特別扱いしてますよ? それで、不満を言うなど贅沢です」
「私はいいんだもん、役得だから」
「ほら……そこまで分かっていて勝負とか、ひどいと思いませんか、アーク殿。すでに勝敗を喫しているのに……」
ハチ子の訴えに、俺はなんて答えればいいのかわからなかった。
「まぁ……俺は、鈴屋さん一筋だと明言してるわけだし……」
すると鈴屋さんが、顔を真っ赤にしながら俺の背中をバンバンと叩き始める。
「痛い、痛いって、なに、どうしたの?」
「あー君のそういうとこだよ~(ハート)」
今度はごろんごろんと嬉しそうにしながら転がる。
その悶えるやつ、可愛すぎてものすごく録画したい。
「これはなに? 私たちはいま、何を見せつけられてるわけ? 罰ゲーム?」
「南無っちも今の聞いた? ねぇ、聞いた?」
目をキラキラとさせながら、南無子に詰め寄る。
「うわ、めんどくさっ! 鈴ちゃん、そんな酔い方するのね」
にんまりとしながらのろけ始める鈴屋さんに、南無子もドン引きのご様子だ。
「ささ、アーク殿も一献どうぞ♪」
「い、いやいやいや、俺まで飲んだら収集つかなくなるし」
「アーク、飲んだほうが楽よ?」
OLかなにかですか、南無子さん。
ものすごい説得力を感じるんですが……
「くそっ……ええぃ、ままよっ!」
俺も覚悟を決めて、飲み始める。
「あー君、私のも飲んで~」
「任せろ!」
「おぉ、さすがアーク殿♪ ささ、もう一献♪」
「おうさ!」
「……ま、飲んだ方が楽よねぇ……」
「おう……」
そこから俺が意識を失うまで、そう時間はかからなかった。
「気持ちよさそうに寝てるわね~」
南無子の声が聞こえた。
俺はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
次第に意識がはっきりとし始めるが、まだ頭の中がぐわんぐわんしている。
体は横に寝かされていて……
ええっと……右の頬に感じる人肌の感触……これはもしかして……
……憧れの膝枕では……
目を開けて確認したいけど、きっと起きたらこの至福の瞬間は終わってしまう。
これは寝たふりをすべきだろうと、そのままスヤァしておく。
「あー君、そんなに強くないんだね」
声が近い。
鈴屋さんの膝枕で間違いなさそうだ。
……と言うか、なぜ酔ってないのだ。
「アーク殿は、ゆっくりちびちびと飲むタイプなのですよ」
ハチ子もいるっぽい。
こちらも、酔ってるふうではない。
「鈴ちゃん、途中から水の精霊の力で、酒を真水に変えてたでしょ?」
「そうだよ~。あっ……今、あー君が起きてたら、てへぺろコツンしたんだけどなぁ」
大丈夫です、君のてへぺろコツンアクションは脳内再生できます。
とてもかわいいです。
「鈴ちゃん……意外にずるいわね」
「南無っちだって、キュアポイズンで、酔い抜いたでしょ?」
何それ、酒って解毒魔法で抜けるの?
でも、俺は放置なの?
「アーク殿もキュアポイズンしてあげれば……」
「いいの……あー君は、このままで」
言いながら、俺の頭をわしゃっと撫でる。
撫で方がいつも雑だけど、なぜか嬉しい。
「……で、ハチ子さん」
鈴屋さんが声のトーンを落とす。
「あなたは、アウトサイダーなのかな?」
いきなりだな、鈴屋さん。
そう言えば、その話は鈴屋さんにはしていなかったはずなのに、いつの間に情報を仕入れたんだ。
「……その質問をするということは……アーク殿から聞いてないのですね。では、お答えしかねます」
「白状しちゃいなさいよ。そこ大事なとこでしょ?」
南無子も知ってるふうに話している。
「私はアーク殿のことを好いております。だからアーク殿の希望を第一に尊重します。故に……鈴屋、あなたがアーク殿と帰るべきだと考えています」
「それはつまり……あなたはここの?」
「はい。でも、いま言った通りです。それが、師匠に背く行為だとしても……」
「師匠って、アークが前に話してた、7位のイーグルだっけ?」
「……さすがに、師匠については話しませんよ?」
「ふん……ここの人を巻き込むようなやり方をする奴なんて、あいつらくらいしか、いないけどね」
南無子は、きつめの口調だ。
それにしても……話の内容が半分くらい見えて来ない。
俺がハチ子のことを説明しなかったように、鈴屋さんや南無子も、俺の知らないところで調べているんだろうか。
今度、情報のすり合わせをしなきゃな。
しかし、完全に起きるタイミングをなくしてしまった。
ここらで無理やりにでも、起きたほうがよさそうだ。
「んん……鈴屋……さん?」
起きたふりが見抜かれないか、冷や冷やしながら寝返りをうってみる。
「おはよ、あー君」
うっすら目を開けると、優しい笑顔が見えた。
「……あれ? 勝負はどうなったの?」
「ん~。とりあえず保留かな。あー君が、しっかりしててくれれば、ね」
「そなの? ……ま、いいか。んじゃあ、帰ろうよ」
体を起こして、軽く伸びをする。
「アーク殿、宿で飲みなおしますか?」
「ん~そだな。みんなで、なんか食おうぜ」
いつの間にか、ハチ子も受け入れてもらえたようだ。
ここは素直に、酒でうやむや作戦が上手くいったと思っておこう。
「あー君のハーレムが止まらないのが不満だけど、ね」
「俺はずっと鈴屋さん一択なんですけどね」
うっ……と言葉を詰まらせて、顔を真っ赤にしながら背中にパンチをしてくる鈴屋さんに、当分はこれで遊べそうだなと俺は笑ってみせた。
【今回の注釈】
・DPS……秒間ダメージ数。効率や性能を求め始めるとこの数値が気になり始める
・トン!クッ!……テキーラボンバー。ショットグラスで炭酸を爆発させてこぼれる前に全部飲め!という恐ろしい飲み方。即致死量
・スヤァ……( ˘ω˘)スヤァ…って打ちたかった…




