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爪痕〈1〉〜明是ルート〜

さぁ、ラブコメの時間だ

 目が覚めたら、見覚えのない天井があった。

 ゆっくりと瞬きをするが、光が強すぎて焦点が合わない。


「う……」

 小さな呻き声をあげて、体を起こそうとする。

 しかし、誰かが俺の肩を押さえて邪魔をした。


「流石だね。いきなり起きようとするなんて」

 若い女の声だ。

 聞き覚えはない。


「まだ動かないほうがいいよ。いま、あの女を呼んできてやる」

 到底、看護士が口にするような言葉遣いではないが、俺のことを診ていてくれたのだろうか。


「君は誰だ?」

 うっすらと目を開ける。

 ド派手な蛍光グリーンのコートを羽織った少女……いや、胸は結構あるな……もとい、十八歳くらいの女性だ。

 茶色の髪に茶色の目をした、一般的に見ても可愛い部類に入るタイプだろう。

 ただ室内でフードを被ったりしているあたり、ちょっと厨二病の臭いを感じる。


「三年の眠りから目覚めて、いきなりオレの胸をガン見するとか……アンタ、ほんと凄いな」

「人聞きの悪いことを言うな。ちょうど視線の先にあっただけだ。オレっ娘に興味はない」

 心底残念そうに言ってやる。

 しかしあちらは、もっと呆れているご様子だ。

 俺だって目覚めていきなり、知らない女からジト目の洗礼を受けるとは思っていなかったぞ。


「で、君は誰なんだよ?」

 女は、ぷぅとガムを膨らませる。

「そのうち紹介されるから、それまで楽しみにしてなよ」


 うぅん……なんだか、やさぐれている感がある奴だな。

 しかし部屋から出ていこうともしないし、何かの関係者か。


「なぁ……なんか眩しくて視界が白くボヤけるんだが……」

 まだ部屋の明かりが強すぎるように感じる。


「当たり前だろ。アンタは三年も目を使ってないんだ。見えてるだけでも凄いし、いきなり声を出せているのも凄いと思うよ」


 あぁ……本当に事故から三年間、俺は眠っていたんだな。

 やはり事故前の……というか『TOKYO2020』の記憶すらあやふやだ。

 ほぼ『THE FULLMOON STORY』のレーナで過ごした記憶しかない。

 とりあえず確認したい事といえば、やはりこれだ。


「ここって、ほんとに宇宙船なのか?」

「そうだよ」

 即答である。

 記憶をなくした俺の知識は、ゲーム内で得たものしかない。

 正直、未来の世界に来たような感覚だ。


「あの……地球は?」

 恐る恐る聞いてみる。

 もはや俺の持っている知識など何のあてにもならない。


「だいぶ昔から、第二氷河期中だよ」

 そして斜め上の答えが帰ってきた。

「まじか〜。あぁ、それで宇宙船暮らしなのか。ほんとにSFだな」

「アンタさ……」

 予想していた反応と違ったようで、女が目を丸くしている。

 どうせ俺にとっては全て知らない現実なんだから、いちいち驚いてはいられないのだ。

 まずは現状と現実を把握したいのである。

 

「まぁその辺の説明は、あの女に聞いてくれ。オレの役目はその後だ」

「あの女って誰だよ。それに役目って?」

「うるさいなぁ。それも、そのうち説明されるから」


 不機嫌である。

 なんか理不尽である。


「あのな、俺はゲームの世界で三年過ごした記憶しかないのよ。ちょっとは可愛そうだと……」


 ふわりと茶色の髪が鼻先をかすめる。


「思うよ」


 なぜか彼女が、寝ている俺を抱きしめてきたのだ。


「いや……あの……」


 しかし彼女は動かない。

 ベッドに片膝をついて太ももをあらわにし、力いっぱいに抱きしめてくる。

 この娘は一体……


「いま、太もも見てたでしょ?」


 そして秒で見抜かれていた。

 ほんとに何者なのだ。

 目が覚めて早々に、ラブコメの呪いが発動しているのではと思ってしまう。


「あの……刺激が強すぎて混乱が増えるだけなので、冗談は程々にしてほしいッス」


 スッと彼女が耳元に唇を寄せる。

 そして……


「ヘタレ」


 壮絶な一撃を放って部屋から出ていった。

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