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泡沫の夢〈7〉

キリが悪かったので投稿してしまいます。

かなり短いので、休憩がてらにどうぞ。

 戦意を失くしたハチ子が近くにいては、巻き込みかねない。

 少なくとも戦う意志のない者にとって、制御を失くした魔王の攻撃は危険極まりないのだ。

 そのため彼女を、他の『七夢』にドリフトした。

 どうやってやったのか、それを言葉にして説明することは非常に困難なのだが、魔王になってから感覚的に色々なことを出来るようになっていた。

 この魔王というアバターは、南無子ほどではないにしろシステム管理者に近い権限を持っているらしい。

 そこに漂流者(ドリフター)の『無自覚なドリフト』が上手く作用した……といったところだろう。


 『最果ての斑鳩(いかるが)』は、鈴屋さんが報告書を読み上げている時に言っていた他の『七夢』のひとつだ。

 俺が知っている他の『七夢』は、『TOKYO2020』と『最果ての斑鳩(いかるが)』しかなく、とっさに出たのが何故か『最果ての斑鳩(いかるが)』だった。


 これが最適な判断だとは、思ってはいない。

 しかし魔王の体は、徐々に制御が効かなくなってきている。

 その証拠に八岐之大蛇は、既に俺の支配下にない。

 ハチ子と戦い始めたあたりから、二本の赤い触手を動かすことで精一杯だった。

 脳裏には幾つもの強力な魔法が浮かんでくるのだが、それを使わないように思考を回さなければならない。


 とにかくこれで、ハチ子を傷つけることは無くなっただろう。

 あとは……俺の信頼する家族……窮鼠の傭兵団だ。

 彼らは本当に強い。

 いま思えばハチ子さんを救出する時も、海竜戦も、彼らがいなければ俺は何も出来なかっただろう。

 そう考えると、猫に襲われていたジュリーさんを助けて本当に良かったと思える。

 あの時の俺は、鈴屋さんに頼まれたからそうしただけで、正直面倒くさいとすら思っていたのだ。

 それが、だ。


 運命とは、もっともふさわしい場所へと魂を運ぶものだ。


 きっと、今、この時、俺を倒すために彼らとは出会ったのだろう。

 窮鼠の傭兵団からアルフィーへと繋がり、アルフィーからはリーンへと繋がり、リーンから月白の騎士団へと道は繋がった。

 この繋がりは、必然だったのだ。


 俺が、この世界を壊すなんてことは出来ない。

 この世界を否定することは、これまでの生活、彼らとの繋がりを否定することと同義だ。

 であるならば、俺がとる行動はひとつしかない。

 魔王となって、この世界から排除される側に立つことだ。

 もともと俺はこの世界の住人ではないのだから、これが自然というものだ。

 これだけの数の『この世界の住人』から、『この世界から出ていけ!』という思いを一身に受ければ、きっと俺は『元の世界』とやらに帰れるはずだ。


 ……はずなのだ。


 しかし、なぜだろう……この空虚で悲しい感情は……


 この世界から……人から……否定され、拒絶される。


 それは自分が想像していたよりも、ずっと辛いものだった。


 早くこの気持から逃れたい。


 誰か終止符を打ってくれと、弱い自分が願ってしまう。


「おまたせ、あー君」


 それは突如として目の前に現れた。

 俺を倒す最後の存在。

 絶対的な存在。

 この物語を終わらせられる存在。


「……帰ろっか」


 彼女はそう言って静かに微笑むのだ。

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