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泡沫の夢〈6〉

ちょっと忙しくて遅筆です。

話も大詰め、頑張ります。

 ハチ子との戦闘中、アカゼの動きがしばらく止まっていた。

 歴戦の傭兵であるシェリーがその機を逃すわけもなく、すかさず各部隊長に指示を飛ばし一斉に挟撃を仕掛ける。

 八岐之大蛇と窮鼠の傭兵団の戦闘は熾烈を極めていたが、強力な個の力と統率力で押してくる窮鼠の傭兵団を前に大蛇の体は徐々に削られていった。

 アカゼは劣勢に苦しみながらも、なぜか赤い触手を繭のように固めて動かないでいる。

 背中の八岐之大蛇さえ封じ込めることができれば、勝機も見えてくるはずだ。


「姉御! あとは月白の騎士団に任せて下がってください!」

 触手による前方の攻撃を封じ込めたことにより、今度はアルフィーの後ろから月白の騎士団が現れた。

 リーンが得物のハルバードをくるりと回し、鋭い槍先をアカゼに向けて突進攻撃を仕掛ける。

 ルクスも遅れを取ることなく、リーンを守るようにしながら進軍の指示をする。

 騎士英雄と若い二人の英雄見習いが、騎士団の士気を見事に上げていた。

 海竜戦でこれができていれば、どれほど楽だっただろうとアルフィーは思う。


 最前線でアカゼの攻撃を一手に受けていたアルフィーは、挟撃するための時間を稼ぎ、前方への攻撃手段も封じ込めた。

 とりあえずアルフィーとハチ子は、役割を果たしたと言えるだろう。


「あーちゃん……」


 空虚な瞳のまま、誰に向けるでもなく呟く。

 そして力なく壁にもたれ掛かると、そのままズリズリと座り込んでしまった。

 アレは、やはりアークだ。

 ハチ子はそれを確信し、攻撃することを辞めた。

 結果、アカゼの赤い触手の攻撃をまともに受けた。


 いや……


 多分あれは攻撃ではなかったのだろう。

 アカゼの動きが止まっていたのは、もしかしたらハチ子と対話をしていたのかもしれない。

 そのあと赤い触手から強い光が漏れ、触手が解かれるとハチ子の姿は消えてしまっていた。


「そっか。あーちゃん、ハッチィのこと助けたんね」


 戦意を無くした彼女を傷つけないよう、アークが何かしたのだ。

 そう思わずにはいられなかった。


「これでよかったん?」


 このままアカゼが倒されたとして、アークはどうなるのだろう。

 本能と直感で行動した自分の選択は、本当に間違っていなかったのだろうか。

 自問をするが、明確な答えは見つからない。

 何よりも、自分にはもう戦況を眺めることしかできない。


 その時だ。

 突如、目の前に強い風が吹き荒れる。

 アルフィーは、たまらず右手で顔を隠し目を閉じた。

 やがて風は何事もなかったかのように凪いでしまう。


「ごめんね、アルフィー」


 聞き覚えのある声だった。


「あとは私の仕事だから……」

 目をゆっくりと開けると、水色の髪をなびかせた美しいエルフの少女が目の前に立っていた。


「私のせいで、みんなに辛い思いをさせて……ごめんなさい」

 少女は今にも泣き出しそうな顔をして頭を下げる。


「……なんで謝るん?」

 アルフィーが見上げるようにしながら、優しく問いかける。

 しかし少女は質問には答えず、ただ弱々しく首を横に振るだけだった。


「あー君にも、酷いことしちゃった……」

 そして、なぜか涙をこぼす。


「酷いこと?」

 少女が小さく頷く。

「私、嘘つきだから……ずっと嘘ついて、隠し事してて……だから、あー君は許してくれないと思うんだ」

「なんだか、よくわかんないんだけど……話してきいたらいいん。ハッチィはそうしたん」

 それには首を横に振る。

「きっともう、話してくれないよ」


 いつになく不安な表情だ。

 いや……彼女は時折そうだった。

 ふとした瞬間に、どこか悲しげで、何か思い詰めた表情を見せていた。

 しかしアークの一番近くにいた彼女が、どうしてそんな顔をするのかアルフィーには理解できないでいた。


「当たって砕けろなん。あーちゃんなら、絶対に応えてくれるん」

 アルフィーが明るい笑顔を浮かべて続ける。

「鈴やんなら、大丈夫なん」


 根拠のないその言葉に、しかし胸の奥が熱くなる思いがする。

 泡沫の夢は、言わばAIだ。

 その人格は数え切れないゲームプレイヤーのデータを蓄積し、複雑に形成されている。

 アルフィーのもととなった人物も現実世界にはいるわけで、その人物もきっとアルフィーのように優しく強いのだろう。

 それでもこの世界にいるアルフィーは、ひとりの個人として生きていると思えた。

 彼女は生きている。

 自分で考え、悲しみ、喜び、憂い、戦い、支えようとさえしてくれる。

 そんな彼女を前にして、現実という絶対的に優位な世界を持つ自分が、これ以上逃げるわけにはいかないのだ。


「ありがとうね、アルフィー」

 ふわりと彼女に近づき、強く抱きしめる。


「大好きだよ」 

 エルフの少女はそう告げると優しく微笑んだ。


「鈴やん?」

 アルフィーが不思議そうに首を傾げる。


 エルフの少女はアルフィーを解放すると、再びシルフを召喚し空へと舞った。

 そして、アカゼに向け真っ直ぐに宙を駆けたのだ。

コミカライズ版、最新話更新されました。

活動報告、または本編「第7部分 鈴屋さんとクリスマス!」のあとがき、Twitterなどで掲載されております。


なんでもないイチャコラ話のようで実は序盤から色々と伏線はっていて、思っていたより端折れないね〜と、最近よくロジーヌさんと話しております。


わかりやすく回収する伏線と、考察を重ねないと気づけないような伏線をよく蒔いております。

気づく人がいいれば凄いなという気分なので、あまり説明してません。(笑)


復習がてら、ぜひコミカライズ版もお楽しみください。

しかしハチ子登場まで、意外に長い……(笑)

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