表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんとハチ子さん!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/521

鈴屋さんとアウトサイダー!

ちょっと真面目な本編モードです。

しっとりとした気分でどうぞ。

 真っ白な月が、港町レーナを照らしていた。

 碧の月亭の屋根の上は、俺の指定席でもある。


「白い月が綺麗ですなぁ……」


 ハチ子は、酔うと口調が変わる。

 本当に酔っているのかどうかは、実のところわからないのだが……

 いやハチ子に関しては、わかっているようで、何ひとつわかっていない。


「アーク殿、今宵はハチ子へのご褒美なんですよ~」


 猫なで声で、もたれかかってくる。

 うん、これで酔ってないとなると、俺はロールを見抜けない人だ。

 きっと現世でも、詐欺にかかるタイプなのかもしれないな。

 ……しかし……

 なんか妙に薄着だし……こちらとしても、自制心を保つのに必死だぞ。


「寒くないの、ハチ子さん」

「心配してくれるとは……アーク殿はお優しいですなぁ」


 目のやり場に困るし、鈴屋さんがどっかで見てそうで怖いし、俺のクールはどこかに旅立ったようだし、色々とピンチです。


「アーク殿、私がこんな格好でいる意味はおわかりですか~?」

「……わかりません……」

「ではこの格好、どう思いますか~?」

「端的に言うと……適度に隙だらけで……とても魅力的ですけども」

「にゃは~」


 うん、酔ってる。

 鈴屋さんに見せられないくらい甘えてくるし……そして、かわいい。


「アサシンとしての装備をすべて外している意味……決して軽くはないのですよ〜♪」


 あぁ……まぁ、そうだよね。

 俺も完全に武装を解くことなんてない。

 盗賊系は、だいたい用心深いからな。

 俺を信用してくれているという、意思表示でもあるんだろう。


「まぁ何よりも、今日は師匠もおりませんので……故に、このような格好でいられるんですよ~」

「……ん? ……ってことは、いつもは、セブンがハチ子さんのことを見張ってるの?」

「いつもではありませんね~。でも〜いつ見張ってるかも、わかりませんね~」

「……なにそれ……ハチ子さん、大丈夫なの?」

「まぁた、そうやって心配してくださるのですね。でも、大丈夫です。今朝から4日間は、確実に不在ですから。まずこちらには、いませんよ♪」


 随分はっきりと言い切るけど……4日間……任務か何かかな?


「つまりですねぇ~私からいろいろ聞き出すなら、今がチャンスなのですよ~」


 ……お見通しか。

 しかし改まってそう言われると、どこまで突っ込んでいいのやらだ。


「……けっこう突拍子もないことを、ズバズバ言うけど……いいのかな?」

「アーク殿……私は今、師匠の意志に反した行動をとっています。だからこれは、私の独断……話せる内容は話しますが、それがアーク殿のためにならないようなら、話しませんよ~」

「うん、十分。むしろ、自分の身の安全を最優先にお願いするよ」


 ハチ子は顔をほんのり赤くしながら、にゃは~と嬉しそうにもたれかかってくる。


「んじゃぁ……ハチ子さんは、プレイヤーなの?」


 直球を投げつける。

 何より知りたいのは、これなのだから。


「せっかちですなぁ、アーク殿は〜」


 その瞳が、少し悲しげに見えたのは気のせいだろうか。


「アーク殿は、どうしてそう思われるのですか?」

「まずは、そのシミター。それはゲーム内の賞品だったからな。それから色々と……リアルの話題もしてたろ?」


 ハチ子が一考する。

 話していいのかどうか、考えているのだろう。

 その眼差しは、先ほどまでと違い真剣だ。


「……このシミターはですね……師匠の物です。私の戦い方も……その“リアルの話題”というものも……師匠から聞いたものですね」

「……え?」

「私はアーク殿の言うところの、“プレイヤー”ではありませんよ~」


 その笑顔は、これまでの彼女には似合わない……酷く寂しげなものだった。

 俺は驚きを隠せなかった。

 プレイヤーじゃないとしたら、此処の住人……つまり、NPCみたいな存在になるのか?


「やだなぁ、そんなに混乱しないでくださいよ~。アーク殿の考えてる通り、私は酷くあやふやな存在なんです」

「……待て……待て待て待て。じゃあ、つまりセブンはプレイヤーで、ハチ子さんはこの世界の住人?」


 ハチ子が黙って頷く。


「プレイヤーという言葉が、よくわかりませんが……この世界の人ではない……外側の人(アウトサイダー)と認識してます」


 思考が混乱する。

 俺は目の前の……こんなにも親しくなった人が、急に遠くの存在に感じた。


「ハチ子さんは、ここの住人でありながら……向こうの話を聞かされて、協力してるっていうの?」


 やはり黙って頷く。


「師匠に自分の正体……というか、この世界と外の世界のことを聞かされて……色々と教えてもらいました。この世界の住人で、この事を知っているのは、たぶん私一人ですね〜」

「ここは……なんなの?」

「それは……ん〜……私から言うべきではないですね~。今それを話すと、取り返しの付かないことになってしまうかもしれませんし……その役目は、もっと他の誰かかもしれませんね~」

「……他の誰か?」

「はい。つまりは、アウトサイダーですね」

「俺と同じプレイヤーってことか……」

「ん~……アーク殿は……」


 一瞬、言葉を飲み込む。


「アーク殿は、アウトサイダーで間違いないのですが……もうちょっと複雑ですね」


 なんで、そんなにも胸を締め付けるような目で見てくるんだ。


「……突拍子もない話だけど……例えば俺がこの世界……俺はここを、ゲームの中の世界と仮定してたんだけど……ここから、もとの場所にもどったら、ここは……ハチ子さんはどうなるの?」

「……さぁ? 何事もなくアーク殿のいない世界として、続いていくのかもしれませんし……消えてしまうのかもしれませんし~」


 消える……という言葉の重さに、目がくらむ。

 そんなこと、あっていい訳がない。


「ハチ子は、そんな存在なのですよ〜」


 そして、またもたれかかってくる。


「アーク殿の優しさも、この日々も……ハチ子にとっては泡沫の夢なのです。あるいは、ハチ子が泡沫の夢そのものかもしれませんが……まぁ、ハチ子にとっては、どちらでも同じことなので~」

「……なに言ってんだよ。それでいいのかよ」

「いいも悪いも、それが事実なんですから」

「……じゃあ俺が、ここにずっといるって言えば……ハチ子さんは、ここにいられるの?」

「いられますよ。でもそれは、アーク殿の帰還を邪魔する行為ですから。そんなことをしたら……大体、鈴屋に怒られますよ?」

「いや、でも……事情を話せば、鈴屋さんだって……南無子だって……」

「ハチ子のためにそう思ってくれて、悩んでくれるのは、本当に嬉しいですよ〜?」


 よりかかるハチ子の重みが、妙に儚げに感じた。


「でも、アーク殿の鞘はここではありません。戻るべき場所に、帰るべきです」

「……でも……」

「アーク殿は今日、自分の意志で踏み込んできました。帰りたいんですよ、アーク殿は……鈴屋と……」

「……俺は、この世界が好きだよ? ハチ子のことも……気に入ってんだ」

「駄目ですよ~。ここに残るなんて考えちゃ。それでは、ハチ子が唆したことになってしまいます。ハチ子はアーク殿の犬として、元の世界へ帰すお手伝いをします。だから、アーク殿は鈴屋と帰るんです」


 かける言葉が見つからなかった。

 ハチ子に限らず……グレイだってそうだ。

 色々な人と出会って、つながってしまったのに、俺はそれをすべて断ち切らなきゃいけない。

 できるのか、いまさらそんな事。


「アーク殿の心の真ん中にいる人が鈴屋なら、いつものアーク殿でいればいいんですよ~」

「……つまり、鈴屋さん中心に俺は動いてればいいってこと?」

「そうです、それで世はこともなし、です。私はその手伝いと、今日みたいに楽しい日が送れればそれで……」


 嘘だ。


 そんな人間、いるものか。


 だって君は生きている。


 この世界がどういうものかもわからないけど


 それがどんなにあやふやでも


 君は生きている。


 だから、そんなふうに割り切って考えられるはずない。


「アーク殿は、お優しいですなぁ。そんなに悲しい顔しないでください。アーク殿なら……また明日になれば、こんな話は聞いてなかったかのように振舞って、いつもと変わらず接してくれると、ハチ子は信じてますよ」

「無茶言うなよ……」

「いえ、アーク殿は常に期待に応えてくれる人です」

「俺はそんなんじゃないよ」


 ハチ子は、いいえ……と、首を横に振る。

 やめてくれ。

 そんなに真っ直ぐな目で見つめられると、俺の選択肢がなくなってしまう。


「オーケイ……わかった、ハチ子さんが、それを望むのならそうする。まだ、頭の中がぐちゃぐちゃで整理出来ないけど……ハチ子さんのこともなんとかする」

「……ハチ子を?」

「あぁ。まだ何も考えつかないけど……考え続けるから……」

「アーク殿は…………いえ……ハチ子は、それを信じます」


 本当はもっと……色々と真相に迫る話を聞けそうだったと思う。

 でもそれは、ここじゃない……

 今じゃない……ハチ子からじゃない……

 帰る理由、すべてを知らなくてはいけない理由。

 そして、守りたい人も増えた。


「さぁ、アーク殿。もう一献、いかがですか?」

「あぁ……これからも、たまにこうして飲もうぜ」

「ハチ子は、さながら第二夫人のようですなぁ~」


 そんなの鈴屋さんに怒られるよ……と、苦笑すると、ハチ子は「秘密にしておけばいいんです」と、いつものように笑っていた。




 自分の部屋に戻ると、鈴屋さんがベッドの上にちょこんと座って待っていた。


「おかいもー。あー君、遅いよ〜」


 鈴屋さんは不機嫌なふうでもなく、わずかに笑顔をみせている。

 対して俺は先ほどの話のこともあり、少し沈んだ気持ちでいた。


「うん、ただいも……」


 ハチ子の言うようにいつもの自分でいられるのだろうか、と思い悩んでしまう。


「……あー君?」


 鈴屋さんが俺の異変に気づいたのか、ベッドから降りて近づいてくる。

 駄目だな、こりゃ……すぐバレそう。


「……あー君、ハチ子さんに何か言われたの?」

「どうしてさ?」


 鈴屋さんが、俺の顔を覗き込んでくる。

 澄んだ瞳に、心の奥底まで覗かれているような気がした。


「鈴屋さん、聞いてくれる?」

「……ん…………なぁに、あー君」

「俺、やっぱり帰りたいや。鈴屋さんと」

「……ん……」

「改めてね、そう思った」

「……うん……」

「ハチ子さんはね、いい人だよ」

「……うん……」

「俺は惑わない。迷わない。鈴屋さんを信じてるし、鈴屋さんと帰りたい」

「……うん……」

「だからさ……」

「あー君……」


 そこで鈴屋さんが、俺の頭を正面から抱きしめた。

 思わぬ不意打ちに、内側からとめどなく熱いものが込み上げてきていた。


「ありがとう……あー君。がんばろうね」


 その……すべてを見通しているかのような言葉が……ぬくもりが……俺の堰を切るには十分すぎるものだった。

【今回の注釈】

・おかいも、ただいも……これ、うちの固定だけだったのだろうか…普通に使ってました

・俺は惑わない……「星は惑わない」惑わない星の台詞ですね。あの人の漫画はペース遅いけど純血のマリアとかも楽しかったです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ハチ子はその世界はああああや鈴谷さんたちを中心として展開する仮定で話しているだけど  …それ、ああああパーティーより先に居るアウトサイダーが居る自体大分無理が有るし…居たとして全員が関…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ