表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
264/504

鈴屋さんと月白の騎士団っ!〈10〉

カーバンクルのお話終わりです〜

あとコミカライズ版のゴブリン戦も更新されてますので、まだ見ていない方はどうぞ〜

 幻獣カーバンクルの討伐を終えた俺達は、レーナへと戻ってきていた。

 いま思えば鈴屋さんがエメリッヒを眠らせたのは、とても良い判断だった。

 エメリッヒも作戦中に眠ってしまった後ろめたさからか、ドロップアイテムについては深く追求してこなかった。


 まぁ、当然だろう。

 もし俺が声高らかに「こいつ、寝てたんだぜ? その間に倒しちまったよ〜」なんて言った日には、とんだ赤っ恥をかくことになるからな。

 しかも、あの場に俺たちはいなかったってことにして、手柄を丸ごと騎士団に献上してやってるんだ。

 文句なんて言わせねぇぜ。


「それで、月魔術師のギルドに行くんスか?」

 俺の右隣にはいつもの鎧姿……ではなく、ピンクのプルオーバーのシャツと同じ色のショートパンツという、ラフな格好をしたリーンが並んで歩いていた。

「なんで、あんたまで来るんよ」

 左隣にいるのは丈の短いライムグリーンのワンピースに身を包んだ、白毛の女戦士である。

 俺があの宝石について調べてくると話したら、この二人がついてきたのだが……これならルクスと二人で来たほうが平和だったかもしれない。

「これは冒険者の……あたしらの仕事なん。あんたは関係ないんよ?」

「姉御ぅ〜そもそもアレは、俺とアークさんが手に入れたもんスよ?」

「ここから先は冒険者の仕事って言うてるんよ」

「なんスか、姉御ぅ〜。アークさんのことになると、妙に噛み付いてくるッスね?」

「あーちゃんは、すぐ流されるから心配なん」

 さらっと、酷いことを言われた気がするが、俺は黙して語らない。

 なにか話したら、速攻で責められそうな気がするのだ。

 時をわきまえた沈黙は英知にして、いかなる雄弁より優れているのだ。


「姉御ぅ〜この際アークさんは、うちの部隊全員の旦那にしましょうよ〜?」

 さらっと、とんでもないことを言いやがる。

 それはもうハーレムじゃなくて、ただの種牡馬だ。


「あんたはもう、うちの部隊じゃないん。それにな~あたしは独り占めしたいん。旦那様は一人でいいん」

 さらっとラット・シーの歴史が変わりそうなことをアルフィーが口走る。

 出会ってから今までの間で、何がどうしてこれほど心境が変化したのだろうか。


「えーなんでッスか。そんなんズルいッスよ。みんなで〜」

「あんたにも、そのうちわかるん」

 頬を膨らませて抗議をするリーンに、アルフィーはいたって冷静な表情で返している。

 こういう女子バナは、せめて俺のいないところでやってほしいものだ。

 なにも発言できないぞ、これ。

 というか俺には気になることがひとつあった。


「リーンよ。ルクスとは、どうなんだよ?」

「どうって……なにがッスか?」

 リーンがアホみたいな顔で首をかしげる。

 ほんとに、アホなんだと思う。


「いやほら、お前を守る的な発言してたろ?」

 あっ、と返事をつまらせる。

 少し頬を赤らめるあたり、あの時のセリフはしっかり意識しているようだ。


「それは……ほら、仲間として、同期としてってやつッスよ?」

 まだそんなぬるい言い訳をするのか、お前は……と、呆れた表情で返す。

「そんな男とか、女とか、そんな……」

「なんでだよ。いい男だろ、ルクスは。イケメンだし、強いし、優しいし」

「そうッスけど……そういうんじゃないんス」

 どうにも歯切れの悪い答えだ。

 まだ戸惑っているといったところだろうか。


「あんなぁ、リーン。好いてもらえて、尽くしてもらえるってのは、いいことなんよ?」

「そうだぞ。あんなに分かりやすく慕ってもらえて、何が不満なんだよ」

 むぅぅと唸るリーンにとどめを刺すかのように、アルフィーが続ける。

「そうなん。世の中にはなぁ〜、どんなに気持ちを伝えて尽くしてもなぁ〜、答えを濁して、ふらふら逃げ続ける男もいるんよ〜」

 なぜかアルフィーが、腕を強く絡めながら言ってくる。

 何やら矛先が、俺に突き刺さっているような気がする。

 ちらりとアルフィーの方に目をやると、水色の大きな瞳が真っ直ぐに向けられていた。


「好きよ、あーちゃん」


挿絵(By みてみん)


 不意打ちのド・直球が、心臓にド・ストライクしてくる。

 その一撃で思考が停止してしまう。

 えっと……なに?


 助けを求めるようにリーンへ顔を向けると、リーンはこれ以上ないくらい顔を赤くして固まっていた。

 まるで『朝チュン』の現場でも見たかのような表情だ。

 そうなってくると、俺も『朝チュン』の現場を見られたかのような気恥ずかしさに支配されてしまう。

 しばらく二人で、どうしていいのか分からず『そして時は動き出す』というナレーション待ちをしていると、アルフィーが小さいため息をついて腕を開放してくれた。


「な〜? こうやって濁されるんよ?」

「うぐ……」

 それでも適切な返事を見いだせない。

 いや、何をどう切り返せばいいというのだ。

 女心を熟知した紳士がいたなら、どうかご教授願いたいものである。


「アークさん……ヘタレッスね」

「なぁ〜。だから、そうやってストレートに言ってくれる人は、大事にしたほうがいいんよ〜」

「了解……ッス」

 完全にリアクションをするタイミングを逃した俺は、気まずそうに月魔術師ギルドの入口へと足早で向かうのだ。




 月魔術師のギルド、通称『学院』にある『記録の塔』の六階に通された俺達は、思い思いに導師ラナの到着を待っていた。

 やはりこういったことは、ラナに聞くのが一番手っ取り早い。

 そういえばラナは、うちのパーティメンバーだった。

 あのロリっ娘月魔術師は引きこもり体質なので、どうしても忘れがちだ。いつか冒険に連れ出そう。

 そんなことを考えていると、不意に扉が開かれた。


 腰まで伸びた綺麗な金色の髪に、紺色の三角帽とゆったりとしたローブ。

 自分の身長よりも高い樫の木の杖を両手で持ち、神秘的な琥珀色の瞳をした美少女が小さく息を切らせている。

「お、お待たせしました。アークさま」

 ラナが胸を抑えて呼吸を整え始める。


「忙しいところ悪い。ああっと、リーンは初めてだよな」

 リーンに視線を向けて自己紹介を促す。

 なぜかリーンは、怪訝な表情を俺に向ける。

「月白の騎士団、騎士リーン……ッス」

 そして何故か口を尖らせる。

「あ、はい。私はアークさまのパーティの導師、ラナです」

 こちらは丁寧だ。

 そして、しばらくの沈黙。


「あの……?」

 首をかしげる美少女導師様に、リーンが目を細めていく。

 やがてアルフィーに向けて、形容しがたい表情を向けるのだ。


「姉御ぅ……」

 アルフィーが深く頷く。

「なぁ〜? これで、わかったん〜」

「苦労するッスね」

 二人してウンウンと頷き合うのだが、俺とラナは何の話をしているのか全く理解できない。

 仕方なく話をすすめることにする。


「こないだ話したと思うけど、幻獣カーバンクルの宝石についてだ。何かわかったか?」

「あ、はい」

 リーンとアルフィーのやり取りを眺めていたラナが、慌てて小さな紙を取り出した。

「えっと……カーバンクルは、真紅の宝石を額に宿した小さな幻獣ですね。体長は1メートルほどで、リスに似た姿をしていて……腹と背に竜の鱗が生えてます。あとは……光のブレスのようなものを額から出すそうです」


 光のブレス……だから、反射できたのか。

 光属性とか、いよいよレアだな。


「額の宝石は常に燃える石炭ような輝きを放っていて、その宝石を手に入れた者は富と名声を得られる……という言い伝えが在るようです」


 ふむ、と顎に手を当てる。

 これは決定的だ。

 やはりエメリッヒは、カーバンクルの宝石を狙っていたのだろう。

 もちろん富ではなく、名声のほう……つまり、本物の英雄になろうとしたのだろう。

 道具を使ってってのが、如何にもエメリッヒらしい。


「なるほどね。ありがとう」

 俺はそう言うと、ソファから立ち上がる。

「もういいのですか?」

「あぁ、すっきりしたよ」

 ラナに感謝の言葉を述べ、リーンへと視線を移す。

 リーンは少し複雑そうな表情だ。

 エメリッヒの狙いを理解できたのだろう。


「アークさん……」

 俺は極めて緊張感のない笑みを浮かべて返す。

「だ、そうだ。リーンは、ルクスを支えてやれ。この先あいつは、大きな試練の道を歩むことになるからな」

 英雄の側には、それを支える存在が必要だ。

 それが戦乙女(ヴァルキリー)のような存在であれば、どれほど心強いことだろう。

 この二人なら、大丈夫だ。

 俺はそう信じてやまなかった。

編集して遊んでみました(笑

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ