鈴屋さんと月白の騎士団っ!〈9〉
珍しく木曜更新です
ルクスはいい男…
ホットドリンク片手にまったりとどうぞ~
二人の見事な止めに安堵の息をつき、その場でへなへなと座り込む。
ルクスも片膝をつき、大きく息をついていた。
リーンは飛んでいったカーバンクルの首を探しているようだ。
「あー君!」
心配そうに駆けつけてくる鈴屋さんに、やれやれと肩を竦めてみせる。
足の傷は一見すれば、さほど深くないようだ。
ただしそれは大穴が開いてないというだけで、貫通された痛みは強く残っている。
正直、歩くこともままならない。
もしあの赤い光が腹や頭に当たっていたらと思うと、背筋が寒くなる。
「大丈夫、足しかやられてないし。これなら快気功で何とかなりそうだ」
話しながらも、呼吸を整えて練気を始める。
シメオネ先生直伝の自己治癒スキルだが、これは回復に時間がかかる。
全快するには数分を要するだろう。
「よく我慢したね」
鈴屋さんが労うように頭をワシャワシャと撫でてくるが、俺はやはり肩を竦めてみせる。
我慢というより、何もできなかったというのが正直なところだ。
最初に背後から一閃を放てれば、どれほど楽だっただろう。
加勢してからのレーザーモードは相当に手強かった。
「あー君、また知らない技だしてたし……いつの間に習得してるの?」
「あれは、むがむちゅー。属性付与で変化した複合スキルが、たまたま本番に発動してんだよ。理由はよくわかんないけど」
ふぅん、と鈴屋さんが頷く。
何か考えているようにも見える。
属性付与とは火炎バフの『不知火』、雷バフの『絶界雷』、氷結バフの『雪月華』のことだ。
例えば二刀で三回転斬りを放つ『颶風・回転斬り』は、炎属性で『炎月輪』、雷属性で『雷落とし』、氷属性で『氷輪牙』に性質が変化する。
2つのスキルをかけ合わせるため、複合スキルとも呼ばれている。
一閃の場合は、横一文字に真っ赤な線が走る『雷光陣』、十文字に真っ赤な線が走る『爆炎陣』、そして今回の青色の筆の線が地から天へと真っ直ぐに走る『氷面鏡』になる。
一閃の発動条件が『背後からの攻撃』となるため、普段の練習では試すことができない。
そのせいで、どうしても実戦での開眼になってしまうのだ。
「首あったッスよ。なんか、頭についてた宝石も取れてたッス」
リーンが真っ赤な宝石を、不思議そうに覗き込みながら持ってくる。
恐らくあれが、カーバンクルのドロップアイテムなんだろう。
「アークさんのおかげで倒せたんだし、これあげるッスよ?」
さも当たり前のように言う。
意外に物欲がない奴だ。
「それ、けっこうなレアアイテムだと思うぞ。何ならエメリッヒの狙いは、カーバンクルの宝石だったんじゃねぇの?」
リーンが、むぅと唸る。
「うちらは、討伐に来ただけッスよ?」
「まぁ、止めを刺したのはルクスなんだ。何なら、ラストアタックの褒美でルクスにあげるよ」
「そんな、アーク様……それならエメリッヒ様に報告を」
「んなもん、わざわざ言わないでいいよ。もし聞かれたら、倒した時に割れてた〜とか俺が言っておくさ」
それでも、生真面目なルクスは考え込んでしまう。
生真面目はいいとして堅物にならなければいいのだが……と思いつつ、傷の具合を確かめようと近寄ってみる。
ルクスの立派な鎧には、幾つもの穴が開いていた。
傷は肩や足、それから腕……よくもこの傷で、あんなに動けたものだ。
「がんばったな、ルクス。すぐに騎士団を呼ぶからな」
「すみません……」
ちらりと鈴屋さんの方を見ると、黙って頷いて応えてくれた。
エメリッヒのスリープを解き、風の精霊を使って助けを呼んでくれるのだろう。
「ルクスは無理しすぎッス。アークさんの真似なんかしちゃ駄目ッスよ」
「あんな危ない攻撃、リーンに受けさせるわけにいかないだろ」
視線を落とすルクスに、リーンがため息をつく。
「連携して戦わないと意味ないッスよ。それに、アークさんは強いんス。ルクスは、そんな無理しない方がいいッスよ」
「うるさいな。俺がリーンを守りたいんだよ」
きょとんとするリーン。
これはさすがに通じたかと、黙って観察してみる。
「ま……まぁ、さっきのはありがとう……ッス」
赤くなった鼻の頭を指先で掻きながら、呟くようにリーンが答える。
おぉ……効いてる、効いてる。
これはいい、なんかいいぞ。
見れば鈴屋さんも、ポワポワしている。
良い栄養補給ができているようだ。
俺はとりあえずルクスの傷を洗い、包帯を巻いていく。
穴が開いているのだから、そう簡単に血は止まらないだろう。
止血だけでも……と思い、包帯を巻いている時だった。
ふと、ルクスの胸元で光る宝石に目が奪われた。
青く光るその宝石は、どこか見覚えのあるものだ。
ルクスも俺の視線に気づき、青いネックレスを持ち上げる。
「あ、これですか? 昨夜、エメリッヒ様に渡された魔晶石です」
魔晶石……魔力の回復ができる宝石だっけか……
たしか精神力切れの時に使える便利なアイテムで、ゲーム中でも重宝していた記憶がある。
この世界では古代王国時代の失われた技術でしか精製できないらしく、数に限りの在る貴重品のようだ。
そんな貴重な代物を、なぜ魔法の使えないルクスに……なんて理由は、考えるまでもないだろう。
これは間違いなく餌だ。
恐らくカーバンクルは、魔力が好物なのだろう。
鈴屋さんや俺に興味を持っていたのも、全身が魔法装備だったからだと予想できる。
もしくは鈴屋さんの持つ膨大な魔力に、目を奪われていたのかもしれない。
そして魔晶石は、魔力そのものだ。
餌としては最高なはずである。
つまりエメリッヒは、討伐対象がカーバンクルであることを知っていたのだ。
知っていたのに隠していたのは何故か。
討伐が目的なら、相手が何なのか事前に情報を公開するだろう。
であるならば、目的が討伐だけではないということになる。
ルクスに手渡された、赤い木炭のような光を放つカーバンクルの宝石に視線を移す。
十中八九、これが目的だ。
「やっぱり、その宝石はルクスが持っていろ」
ルクスが怪訝な表情を浮かべて、首を僅かに傾ける。
「心配すんな。エメリッヒからは、宝石の奪取なんて依頼はされていない」
「ですが……」
「気になるってんなら……そうだな。それは俺が手に入れて、ルクスにあげた物だ」
「アーク様がそこまで言うのなら……」
それでも、どこか後ろめたそうに頷く。
本当に素直な男である。
「それが何なのか、月魔術師ギルドにいる知り合いから聞いておくよ。今は、それよりも傷の手当てだ」
俺はそう言って、向こうの丘から馬を走らせてくる騎士たちに、手を上げて呼び寄せた。
カーバンクル、もう少し続きますー




