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【初笑い】特別読み切り「鈴屋さんと年賀状大作戦っ」

年明けに初笑いを……と思い、お正月用の特別読み切りを書いてみました。

後から追いかけている読者様にはタイムラグがありすぎて、本編途中で「何だこれ?」なんですが、ご了承ください。

飛ばして後で読んでもOKですよ。


年明け初笑いに、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 ──とある年の瀬の昼下がり


「ふんふん」

 白毛の女戦士が興味深そうに頷く。

「だからな、それが正月ってやつで、年が明けたら色々とするんだよ」

 この世界にも年号はあり、もちろん新しい年もやってくる。

 そこにはやはり、元の世界から持ち込めるビジネスチャンスってやつがあるわけで……俺は正月の風習について説明をしていたのだ。


「うん。それで、それが年賀状ってやつなん?」

「そうそう。日頃お世話になってる人とかな、なかなか会いに行けない人に手紙を渡すんだよ」

「内容は、おめでとうなん?」

「そうだな、特に何もなければな。あとは近況の報告とかだな」

 アルフィーが何度も頷いて考え込む。

「つまり、だ。アルフィーの白鼠宅急便でだな、その風習を宣伝して手紙を運べばいい稼ぎになると思うんだ。ここには大事な手紙を知らない人に託す文化はないが、年始の挨拶くらいなら受け入れてくれるだろう。何よりも一般階級で気軽に手紙を送れるっていうのは、ウケると思うんだ」

「面白そうなん。宣伝はどうするん?」

DH(ダイレクトハンド)っていうのがあるんだがな。ここでは印刷なんて無理だが、ラット・シーにはマンパワーがある。人数に物を言わせて、みんなで手書きの広告を作るのさ。それを配達している顧客に手配りするんだ」

「ふんふん、面白そうなん。うちらの中には、絵を描きうつすんが得意な娘もいっぱいおるん」

 思った通りだ。

 ラット・シーの技術と数のパワーは、計り知れないものがある。

「じゃあ早速、準備開始だ。チラシの大元を製作して複製増刷、DHで配り歩くぞ!」

「おーー!」

 こうして俺とアルフィーの新たな商売、年賀状作戦が始まった。





 ──年が明けて


「おはよー、あー君。あけおめ~」

 麗しきエルフ嬢が、笑顔で起こしてくれる。

「あけおめ、鈴屋さん。ことよろ~」

 そうだ、今日は元旦……ここでは何というのかは知らないが……とにかく無事、年が明けたのだ。 

 俺はあれからDH作って手配りをし、手紙の受付と配送ルートを決めていった。

 きっと今頃は、白鼠宅急便が手紙を運び終えているはずである。

 上手くいったのだろうかと、窓の外に目をやる。

「どうしたの?」

「あぁ、いや。アルフィー来てる?」

「朝早くに例の年賀状配りしてたんでしょ? 今日は、お昼まで寝てるとか言ってたよ」

 そりゃそうか……日の出とともに配り歩いていたわけだしな。

 俺は小さく伸びをすると、そのまま肩をまわして立ち上がる。

「あー君、お出かけ?」

「ちょっとラット・シーまで、ぶらついてくるよ。鈴屋さんは?」

「お昼から南無っちの家で、お餅つきするんでしょ? 道具は作ってくれているはずだから、私は足りないお買い物してくるね」

 なんとよくできた嫁か。

 感極まって抱きしめてしまいそうだが、年明け早々に頬を紅葉柄にするわけにもいくまい。

「んじゃ、また後で」

 俺はクールにそう言うと、結果の確認を兼ねてラット・シーに向かうことにした。




「おぉアークさん。おめでとうさん!」

「おぅ、おめでとう」

「あーっくーーっ、おめでたっ!」

「おぅ、おめで……た?」

 ラット・シーに向かう間、やたらとこのような挨拶を受けていた。

 まぁ年始ってそんなものかと思いつつも、何かが引っかかる。


「アークじゃねぇか、ついになんだってな。いや、めでたい!」

「あぁ、おめでとう。ついにって……?」

「あ、アークさん! やる時はやるんですね、アークさんって。前々から、そうかな~とは思ってたんですけどぅ~、うふふっおめでとうございます♪」

「う、うん、おめでとう……やるって?」

 やはり何かおかしい。

 何と言うか、会話のズレというか……何かが噛み合っていない気がするのだ。


 そうこうしているうちにラット・シーに到着し、今度は灰色の髪をした男が手を上げて挨拶をしてきた。

「アーク君。挨拶の手紙、すごく評判がいいよ。あれ、アーク君が考えたのか?」

「やぁ、ジュリーさん。まぁね、繁盛できた?」

「繁盛も繁盛。年明けから、いい小遣い稼ぎになってるさ。これはダブルで、おめでたいよ」

「おう……ダブル?」

 俺が首をかしげると、ジュリーさんが満面の笑みを浮かべて頷く。

 またしても何か違和感を感じてしまう。

「いやぁ、ようやく観念したんだねぇ~」

「観念? 何の話だよ?」

「いいからいいから、照れるなよ。男なら通る道さ」

 やはり、さっぱり話が見えてこない。

 これは誰に会えばすっきりするのか、そう考え始めた時だった。


「あーーくどのーーーーっ!」

 今度は遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 この呼び方は確認するまでもない。

 黒いワンピース姿のハチ子が屋根から屋根へと飛び移り、軽やかに俺の目の前に着地をする。

 そして息を切らせながらも、ぐっと俺に顔を近づけて目を覗き込んできた。

 たまに思うが、ハチ子はキスでもするのかと思うほど顔を近づけてくることがある。

 今度しっかり注意しておいたほうがいいだろう。

「こ、こ、こ、こ、これは、どういったご乱心なのですか!」

 もうなんかハチ子の目が、往年の漫画でよくある『混乱してグルグルしている』やつに見える。

「落ち着け。ご乱心しているのはハチ子さんの方だ。いったいどうした?」

「こ、こ、これです、これ!」

 ハチ子がそう言って一枚の手紙を渡す。

「あぁ、アルフィーの年賀状か? ハチ子さんにも届いたの?」

「届きましたとも! というかですね、あの鼠、そこら中にこれを配ってるんですよ!」

「そこら中って……まぁ、挨拶なら別にいいんじゃ……」

 話しながら絵を見て、おれは固まってしまった。


挿絵(By みてみん)


「なんじゃぁこりゃぁぁぁぁ!」

 そして俺は顔面蒼白のまま、身動き一つとれなくなってしまったのだ。





 ──その日の午後

 俺はいつの間にか気を失っていたらしい。

 というか、強力な力を持った何者か……多分エルフ……に眠らされたようだ。

 おそらくは精霊魔法のスリープだろう。

 眠らされた俺は、そのまま南無子の家まで運ばれて今に至るわけだ。

 これから何が始まるのか、今はそれしか考えられない。

 なぜなら俺は……

「あー君、目が覚めたかな?」


挿絵(By みてみん)


 巨大な臼に閉じ込められた俺は、恐る恐る目を開ける。

 そこには巫女姿に扮した美しいエルフが、大きな杵を握りしめて立っていた。

「あぁ、鈴屋さん。お正月だから巫女なの?」

 恐怖のあまり、話をそらしてしまう。

 もうこの状況について説明は不要だろう。

 間違いなく見たのだ、アレを。

「異議申し立てを言うのなら、今であぁぁる!」

 どうやら巫女じゃないらしいことも理解した。

「ま、待ってください、お奉行様!」

「あー君は、あんなものを町中に配るために年賀状なんていう入れ知恵をしたのかな?」

「そんなわけない、アレはアルフィーが勝手に!」

 ほうほうと、鈴屋さんが目を細める。

 怖い、まじで怖い。


「アルフィーは何か言いたいことある?」

 鈴屋さんの視線の先には、ミケを抱いたアルフィーが立っていた。

「あたしは近況報告しただけなん。あの絵だって嘘じゃないん。うちの部隊の娘が、いつの間にか描いてたん。それをみんなで複製したんよ」

「こう言っているけど?」

 もはや尋問である。

 というか、ラット・シーのマンパワーと技術力の高さが恐ろしい。

 あの絵をみんなで完コピして描いたというのか。

「いやまぁ……たしかに、あの絵は嘘じゃないだろうけど」

 アルフィーの言う通り最近ミケと三人で、ああして過ごすことは多い。

 しかし問題はそこではない。 

「産まれましたってデカデカ書いたろうよ。他にも三人で暮らしてるとか、それは嘘……」

「あーちゃん、子供の前でそんなん言うん、ひどいん!」

 アルフィーが大袈裟に頭をふって、ミケを抱き寄せる。

 ついでに言うと、すごく白々しい。

「ミケはあたしらの家族なん。違うん?」

「うっ……ずりぃぞ、それ」

 ミケまでいては何も言えない。

 こうなると、なぜか俺が罰を受けるしかない。

 理不尽である。

 俺はこのまま杵でスライムになるまで叩かれるのだろうか。

 毎年元旦になると何の罪もない真っ白なお餅が、無慈悲な鉄槌を一身に受け続けていたのかと思うと、涙が出てきそうだ。

 人間はなんと罪深い生き物なのだろう。


「あー君って、お餅に似てるよね?」

「私は団子に似てると思うわ」

 鈴屋さんと南無子が失礼なこと言っているが、手に持つ杵が恐ろしくて何も言えない。

「アーク殿……」

 悲しげな瞳で俺を見つめるハチ子の手にも杵がある。

「あーちゃん~この際、覚悟しぃ~」

「パパぁーっ!」

 二人の手にも杵が握られている。

 君たちは今から、父親的存在の俺を撲殺しようとしているのだぞ。


 そうか、これは夢なのだ。

 恐ろしい夢なのだ。

 ならば、好きにするがいい。

 俺は全てを受け止めてやるぞ。

 そして神という名の存在Zを、必ず泣かせてやるのだ。


「判決を言い渡すぅ!」

 鈴屋餅奉行が声を上げて、杵をぽいと手放す。

 あぁ、今日が俺の命日になるらしい。


「あー君は今日一日、顔に落書きされた状態で、みんなと遊ぶこと!」

 それを合図に全員が杵から炭に持ちかえた。


「慈悲深いでしょ?」

 そう言っていたずらっぽく笑う鈴屋さんに、俺は不覚にも顔を赤くしてしまうのだった。

今年もネカマの鈴屋さんを、よろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

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