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【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんとハチ子さん!

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鈴屋さんと熊ネズミ!〈後編〉

お昼に…休憩に…さらっと読める鈴屋さんです。

楽しんでもらえれば幸いです。

 汚水道に比べれば、下水道は幾分マシなのだろうが……それでも、このむせる臭いと、まとわりつく湿度は不快極まりない。


「絶対臭い残るわよ、これ……」


 南無子が袖口をくんくんと臭いながら、心底嫌そうに言う。


「あぁ~、その装備は買い換えるしかないな」

「……なによ、他人事じゃない」

「他人事だねぇ。俺の黒装束とマフラーは魔法の品だし、鈴屋さんの装備もそうだよ」


 魔法の装備は基本、半永久的に劣化しないエンチャントが施されている。

 この装束やマフラーもほつれたりしないし、洗わないでも臭いはしない。

 汚れも同様で、数時間もあれば綺麗になっていく。

 つまり、新品の状態を維持するのだ。

 まぁ当たり前だ。

 経年劣化する魔法の道具なんて、作る意味あるのかって話さ。


「ハチ子さんのコートもだろ?」

「そうですね。もしここで泳いでも、下着以外は数時間でもとにもどりますよ」 

「……うわぁ、ずるい……私なんか、今日は全身通常装備よ?」

「それ言ったら、鈴屋さんに唆された汚水道組のグレイとか、ぜったい通常装備だぜ。気の毒に……」


 ちらりと鈴屋さんの方を見ると、久々にてへぺろコツンをしていた。

 こんな場所でも、かわいいんですね。


「鈴屋さんなんか、下着も魔法装備だしね。ファンに貢がれたイベ賞品の……永遠の純白だっけ?」

「あー君は、何を言っているのかな?」


 笑顔でマフラーの両端を握り、おもむろに引っ張り始める。


「むっ……昔、自慢げに見せてくれたじゃん!」

「……鈴ちゃん……すごいわね……」


 おぉぉ……力がどんどん強く……手加減なしですか!


「な・に・を・い・っ・て・る・の・か・な?」

「ごめっ、忘れます! まぢでっ、ギブギブ!」

「あー君、10分以内に忘れてね(はーと)」

「無茶なっ! メメントじゃあるまいし!」

「あー君、ハイかイエスで答えてね(はーと)」

「ハ、ハエスっ!」


 まったくもう……と、溜め息一つ付きでようやく解放された。

 こんだけ怒るってことは今でも使ってるな。


「いいなぁ……フル装備……」


 南無子さん、ご愁傷様です。

 新たな絶対領域の入荷をお待ちしております。


「アーク殿、奥に何か大きな影が……」


 ハチ子がシミターを構えて、目をすぅっと細める。

 通路の先を注視すると、たしかに大きな影が動いていた。

 さすがの索敵能力だ。

 この人ってほんとに8位なのか?

 俺、よく勝てたよな……


「熊ネズミかな?」


 俺もダガーとニンジャ刀を引き抜く。

 これで本日、16匹目の熊ネズミだ。


「アーク殿、あれは……」


 ハチ子がつばを飲み込む。

 あぁ、あれは少しばかりこれまでのとは違うようだ。

 うっすら見えるシルエットだけでも、それがわかる。


「おいおい……なんの冗談だよ、ありゃ」


 そこには、下水道の天井に頭をこすりそうなほどの巨大な熊ネズミがいたのだ。




「あの熊ネズミ、頑張るわね!」


 南無子が、三発目の聖撃を放つ。

 神聖魔法で数少ない攻撃魔法だが、あれでなかなか侮れない。

 拳から放たれる衝撃波の爆風だけでも、その威力を窺い知れた。


「駄目、大きすぎる!」


 大型熊ネズミが、ものともせず進軍してくる。

 ハチ子が懸命に斬撃の結界を張って足止めをしているが、これではハチ子のスタミナもいつか切れるだろう。

 こいつはやばい。

 あんなデカブツ、俺のダガーじゃどうにもならない。

 正直、今は俺が一番役立たずだ。


「南無子、そろそろ温存してくれ。こんな不衛生なところで怪我なんかしたら、たまったもんじゃない」


 オケリーと南無子が返事をして、傍観モードに入る。

 鈴屋さんはサラマンダーを召喚し、大型熊ネズミを火あぶり中だ。

 これはこれでかなり効果があるのだが、鈴屋さんが得意とするド派手な大技がここでは使えない。

 ボス戦においてサモナーの大召喚は重要なダメージソースなんだが……さぁ、どうする?


「アーク殿、このままではジリ貧です!」

「あー君っ!」


 なんとかしてくれるんでしょって目だ。 

 あったりめぇだ!

 ハチ子がタンク代わりになっているんだ、俺がアタッカーになるしかない。

 こちとら、短期決戦型パーティだ。

 さっさと終わらせる!


「鈴屋さんはシルフを召喚して、全員浮遊させて!」


 鈴屋さんは一度だけ頷くと、理由を聞くこともなくすぐさま行動に移す。

 サラマンダーを送還し、新たに風の精霊(シルフ)を召喚した。


「シルフさん、私達を浮かせて!」


 随分とぼんやりとした指示だが、しっかりと伝わったようだ。

 すぐに全員の体が、宙に浮き始めた。

 俺はニンジャ刀を逆手に持ち、刀身を右手人差し指と中指で撫でる。

 すると刀身に青白い稲妻が走り出した。


「雷のエンチャント?」


 ハチ子がちらりとこちらを見て、一瞬で意図を汲み攻撃を止める。


「さすがだよ、ハチ子さん!」


 叫びながら、刀を大型熊ネズミの足元に投げつけた。

 バリバリバリッと、落雷のような音が数秒鳴り響く。

 水面からヤツの身体まで青白い稲妻が何度か走り、やがてヤツの動きが止まった。


「アーク殿、お見事です!」


 ハチ子はその隙を逃すことなく、シミターでヤツの首を薙ぐ。

 そして、アサシンらしい見事なクリティカルで、大型熊ネズミを絶命に追いやった。




 結局、下水道に巣食っていた熊ネズミは15匹で、最後まで頑張っていたのは、突然変異した熊ネズミの亜種だったようだ。

 合計16匹の巨大ネズミの討伐結果をギルドに確認してもらい、なかなかに美味しい報酬をドブ侯爵からいただけた。

 南無子はその足で服を買い換えると言って商店通りに直行していた。

 絶対領域はなくさないでください……と、お願いしたら、顔を真赤にしながら「バカじゃないの!?」と返してきたので、きっとこの思いは届いたはずだ。

 鈴屋さんと俺は、一足先にお風呂に行き、ヘトヘトになりながらも碧の月亭にもどってきていた。

 食欲もほどほどに、今日は飲んで寝るぞ!と思っていたのだが……俺達の円卓には当たり前のようにハチ子が待ちうけていた。


「長風呂でしたね、お待ちしておりましたよ」


 ぴったりとした黒のタンクトップに、短めの黒のキュロットスカート。

 今まで見せたことのない仕様で、目のやり場に困る。

 ……いや綺麗な人だとは思っていたけれども……

 急にこんな格好で現れると、ギャップ萌えが凄い。


「あー君、目がやらしい……」


 うっ……チェック早いっす、鈴屋さん。


「……いや……あぁ……えっと、ハチ子さん、なにしてんの?」

「なに……とは?」

「いや。今日はみんなお疲れで、このままお開きなのかと思っていたんだけど」

「……約束の一献……ハチ子は、今日したいのです」


 ぐぅっ……そう来たか。

 鈴屋さんの手前、これを受けていいのか?

 それともコソコソ飲むよりは、この方がいいのか?

 ……いやでも、しかし……と、悩んでいると、鈴屋さんがマフラーをちょいちょいと引っ張ってきた。


「いいよ、あー君。今日、終わらせちゃって。私、部屋で待ってるから」

「お……おぅ……?……え? ……部屋で待ってるの?」

「そ、そういう意味じゃないから! 変な勘違いしないでっ!」


 真っ赤になりながら、べ〜と小さな舌を出す。

 ツンデレとの合わせ技一本で可愛いすぎて、俺は今すぐここでゴロゴロと悶えてしまいたいです。


「あまり長くは貸さないから」


 鈴屋さんはそう言ってハチ子を一瞥し、そのまま2階に小走りで上がっていった。

 どうして、ここまで仲が悪いのだろう。


「……んじゃぁ、一献やるか。まぁ、飲みたい気分だったしな。屋根上でいいんだろ?」

「はい……月を見ながらがいいですね」


 ハチ子が小さく笑う。

 こうしてると本当に美人なのに……と、俺はしみじみ思いつつ、彼女と何をどこまで話すべきか考え始めていた。

【今回の注釈】

・メメント……クリストファー・ノーランの映画で、たった10分しか記憶を維持できない男が、ある日1人の男を殺し、10分の行動を一つひとつ遡っていき真相を突き止めるという天才的ストーリー

・ハイかイエスで答えてね……某ゲーム内でのアスナさんの素晴らしい名言

・熊ネズミ15匹と熊ネズミの亜種(あの熊ネズミ頑張るわね)……ガンバと15ひきの仲間でしたごめんなさい

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