鈴屋さんと月白の騎士団っ!〈4〉
いつもより1000字ほど短いですが、キリがいいので投げちゃいます。
書いてて悶死しました。
「本当に、この茂みにいたんスか?」
リーンがランタンを持ち上げて、茂みを照らす。
鈴屋さんが召喚した助っ人は新米騎士のリーン、そして若い男の騎士である。
若い騎士は初めて見る顔で、名前をルクスという。
年の頃なら十七、八歳といったところだろう。
薄い金色の髪は短く切られていて、俺に似たツンツンと逆立つ髪型をしている。
いかにも爽やかな好青年といった顔立ちで、青い目が綺麗な……まぁ、俺よりよほどモテそうな男である。
事実、鈴屋さんが横でしきりに「イケメンだね〜」を連呼していた。
「アーク様、大きさはどれくらいでしたか?」
「あぁっ……と、多分ゴブリンとか子熊とか……それより少し大きいくらいだと思う。なんつぅか、赤い石炭みたいな光を額の辺りから発しててだな……」
ルクスは、最前線で索敵をしていた俺の横に並ぶと、しきりに頷きながら話を聞いてきた。
礼節をわきまえた、純粋で熱い志を持つ青年騎士といった感じか。
種族や身分で差別をする感情は持ち合わせていないようで、非常に好感の持てる男だ。
「どうせ、酔っ払ってたんじゃないんスか?」
のっけから失礼なのは、リーンである。
兜もかぶらずに話しかけてくるとは、本当に俺の話を理解しているのだろうか。
「おい、リーン。失礼だろ」
「いいんスよ。アークさんには、こんな感じで」
「いい訳ないだろ。全く……どうしてリーンは、アーク様にだけ失礼なんだよ」
ルクスが呆れた表情で、リーンを嗜める。
この口ぶり的に、ルクスは入団の時の一件を知らないのだろう。
リーンもルクスに対しては、相手が俺の時と同じ言葉遣いで接している。
ということは新米騎士……リーンと同期ってところか。
「んまぁ、アークさんは俺に色々と失礼なことをしたから、頭が上がんないんスよねぇ〜?」
この野郎、調子に乗りやがって……と思いつつ、この場は気まずそうな笑顔を浮かべてやる。
俺としては、こちらの方がいつものリーンなわけで、むしろ心地よくも感じるのだ。
鈴屋さんはどこか不満気ではあるが、興味深そうに目を輝かせて二人を観察していた。
なんというか、少女漫画のような乙目(女)をしている。
「それにしたって、あの竜殺しの冒険者様なんだぞ。あと、女の子が俺とかいうなよ」
「相変わらず細かい奴ッスね。今さら誰も、俺のことを女として見てないッスよ」
「そんな訳ないだろ。リーンはカワ……」
何かを言いかけて、ルクスが慌てて口を抑える。
リーンはというと、首を傾げてルクスの目を真っ直ぐに見つめていた。
ルクスの顔が、みるみると赤みを帯びていく。
えっ、何これ。可愛いんですけど。
尊いんですけど。
あと隣で鈴屋さんが、なんかポワポワしてるんですけど。
「と、とにかく、そんなこと言うなよ。リーンはこの騎士団初の女騎士で、紅一点なんだから!」
「ルクスは大袈裟ッスよ〜、考えすぎッス」
「ちょっとは自覚をしろよ! みんなだってお前のことを……俺は気が気でなら……」
そこでまたハッとして、口を覆う。
ちょっとまて。
なんて尊いのだ、お前は!
そして首を傾げてんな、リーン。
阿呆なのか、お前は!
「これは極上でごじゃるよぅ〜〜」
鈴屋さんが謎のセリフとともに、ヨダレを拭うような仕草を見せる。
どうやら、他人の恋愛模様で栄養補給をしているようだ。
「あぁ〜お二人さん。やはり索敵するのに、新米騎士では危険だと思うんだが」
緊張感を取り戻す意味を込めて、あえて釘をさしてみる。
するとルクスは慌てて頭を下げて「失礼しました」と、大きな声を上げた。
いやだから索敵だってのに声大きいな……とか突っ込んだら、また謝られそうだ。本当に生真面目な青年である。
「アークさ〜ん、そんなにルクスを苛めないでくださいよ〜」
「あほぅ、お前にも言ってんだよ」
「なんスか〜? 俺とアークさんの仲じゃないスか〜。もうちょっと素直になったらどうッスか〜?」
そう言いながら、俺の右腕に腕を絡めてくる。
そして耳元に唇を寄せて……
「嬉しいくせに」
濡れた声で、そう呟くのだ。
「ばっ、おまっ!」
慌てて他の二人に目を配らせる。
鈴屋さんはいつものようにジト目……ではなく、やはり目を輝かせていた。
その理由はすぐに理解できた。
「リーン、お前……アーク様と……?」
驚きのあまりに目を丸くしたルクスが、ようやく声を絞り出す。
──そうだ。
鈴屋さんは、テレビで人気の『恋愛観察バラエティー』を楽しんでいるのだ。
そしてその展開は、鈴屋さんにとって最高のものとなる。
「あぁ〜、ルクスには言ってなかったッスね。俺とアークさんは、同じ床について寝た仲なんスよ(はーと)」
リーンがとんでもねぇ誤解を招くようなセリフを吐いたところで、鈴屋さんの目がより一層キラキラと輝き始めたのだ。




