鈴屋さんと月白の騎士団っ!〈3〉
おまたせしました。
年末は時間がなくて、週イチ更新も厳しいですね。
ついでにSAN値も、色々なところで削られて厳しいですね。
そんな中、なんとか更新です。
野営地にもどった俺は、騎士団とは少し離れたところに自分のテントを設営しはじめた。
鈴屋さんもそれに気がつくと、エメリッヒに軽い会釈をし、小走りで俺のもとにやってくる。
ちゃんと帰ってくるところが、なんとも意地らしい。
騎士たちの恨めしそうな視線に、優越感を得てしまう。
ハロウィンの時のハチ子に対してもそうだったが、もしかしたら俺は独占欲が強いのかもしれない。
「営業、おつかれさぁ〜ん」
労をねぎらいながら飯の準備を進めていると、ジト目を浮かべた鈴屋さんが俺の隣りに座ってきた。
そして黙ったまま俺の耳を引っ張り出す。
「いて、いてぇって、なんだよ」
「あいつ、超めんどくさいんだけど」
「だからって俺に当たるなよ。無視してもいいんだぜ?」
「あんなのでも英雄だからね。仲良くしておいたほうが色々と便利でしょ」
そう言ってようやく俺の耳を開放すると、マグカップをグイと差し出してきた。
相当なストレスだったのだろう。
俺が黙ってホットミルクを注ぐと、ちびちび口をつけ始めた。
「なに話してたの?」
「これまで討伐したモンスターがどうとか、王様から直々に英雄の称号を受勲したとか、そういう自慢話〜」
うへぇ……と舌を出して肩をすくめる。
よくもまぁ、そんな恥ずかしいことができるものだ。
「あー君のが凄いのにさ……あー君が今まで倒したモンスターについてとか、よっぽど言ってやりたかったよ」
「それじゃぁ、営業にならんぜ」
「だから我慢したもん」
やはり不服そうだ。
俺としては、鈴屋さんが本気を出したらどうなるかを、エメリッヒに教えてやりたい。
エメリッヒの行為は、龍に対して虎の倒し方を自慢しているようなものなのだ。
「あーっ、お腹すいたっ!」
鈴屋さんが足をパタパタとして、ワガママモードにシフトする。
「なんか美味しいもの食べたいっ!」
「干し肉しかねぇって。騎士団に言えば、なんか分けてくれるんじゃねぇの?」
「あー君が、もらってきてよ~」
「俺じゃくれねぇですよ。鈴屋さんが行ったほうが良い肉くれるって」
むしろ俺は嫌われているんだから……と、口にしかけた時だった。
騎士団のテントから、ガシャガシャと鎧の音を立てて近づく音が聞こえてきた。
「ほぅ〜ら、鈴屋さんなら言わなくても来るじゃん」
冷やかすようにニヤニヤと笑いながら、こちらに近づく騎士の方へと顔を向ける。
しかし、そこに立っていたのは鍋を抱えた赤髪の騎士、リーンだった。
「よかったら食べるッス」
リーンが鍋を地面に置くと、スパイシーな香りがする鶏もも肉のスープをよそい始めた。
鈴屋さんが俺にジト目を投げかけてきているのは、初めて素顔のリーンを見たからだろう。
「どうぞッス」
満面の笑顔を添えて、皿を渡してよこす。
今にも溢れそうなほど、たっぷりと注がれたスープには、大きな肉や野菜がゴロゴロと入っていた。
「おぉ……うまそ……」
スープの香りに心を奪われていた俺は思わずそう呟くと、すぐに胃袋へと送り込んでいった。
喉元を流れぬけていく熱いスープが胃袋に到達するや否や 、体の内側から全身へとその熱を広げていく。
「あのぅ……」
俺がスープを堪能していると、鈴屋さんが申し訳なさそうに声をあげた。
「なんか私の……少なくない?」
見れば鈴屋さんの皿には小さな肉片と、溶けて形が崩れた芋と、わずかな量のスープしか入っていなかった。
「たいして働いてないんだから、当然じゃないッスか?」
「むっ……」
おぉ、鈴屋さんが驚きの表情を浮かべつつ、お怒りになっておられる。
しかしリーンは気にとめることもなく、笑顔を添えて俺にエール酒を注いで渡す。
「むぅ〜」
唸る鈴屋さんに、リーンはエール酒を注がない。
お酒が飲めないことを知っているのだろう。
代わりに鈴屋さんの胸元をちらりと見て、にんまりと笑みを浮かべた。
「ミルクじゃ胸は大きくならないッスよ?」
「んなっ……それ、どういう意味っ!」
俺としては、顔を真赤にして怒る鈴屋さんが可愛いくてたまらないのだが、当の本人は本気で怒っているようだ。
何故か俺の頭をバンバンと叩き始める。
「安心するッス。エメリッヒ様は胸の大きさなんて気にしないッス」
「あんなの興味ないからっ!」
「そうやって誰彼かまわず色目を使ってる間に、お前の大事な人は俺がもらって行くッスよ」
なにそれ、イケメンの言うセリフ。
少女漫画によく出てくる万年発情期のヒロインなら、今ので恋愛モードスタートだろう。
いかんせん俺にとってリーンは、妹のような存在なのだが……
「何なの! さっきから、失礼すぎるんですけどっ!」
とりあえず、バンバンと俺の頭を叩くのは何故なのだと、そこを突っ込みたい。
尖った耳の先まで真っ赤に染め上げる鈴屋さんとは対象的に、リーンは涼しい顔をして鍋を抱える。
「じゃぁ、またッス。アークさん♪」
「あぁ……つぅか、リーン……お前さ。さっき、俺が話したこと覚えてる?」
呆れる俺に対し、リーンは笑顔を返して騎士団のもとへと戻っていった。
「なんでラット・シーの人たちって、あんなにも、あんななのかなっ!」
鈴屋さんはそう言いながら、怒りの矛先をすべて俺の頭へと向けてくる。
「痛いってば。それより、鈴屋さんさ」
「なぁにっ!」
「あそこ、あれなに?」
怒りの矛先を逸らそうと、茂みの奥を指をさす。
「え……?」
鈴屋さんも叩く手を止めて、茂みを注視し始めた。
長いまつげをススッと落とし、目を細めていく。
「赤い……炎?」
そうだ。
先程から茂みの奥では、燃える石炭のような赤い光が、チロチロと見え隠れしていたのだ。
「でも、おかしいよ。火の精霊がいないもん」
火の精霊がいないということは、炎属性ではないということか。
「まぁ、そもそも炎にしては火の粉が舞ってないしな。他に精霊はいる?」
「まわりにいるの闇の精霊で……あれは光の精霊……っぽいのと……ん〜、ここからじゃよくわかんない」
「光っぽいって何よ?」
思わず吹き出すと、鈴屋さんが頬をぷぅと膨らませて不満げな視線を向けてくる。
「だって……っぽいんだもん。それよりも、あー君。あれ、こっちを見てるみたいなんだけど」
「だな。そのわりに、距離も詰めてこないけど」
さて、これはどうしたものか。
俺一人で偵察に行ってもいいんだがと、顎に手を当て考える。
「あとあと面倒になりそうだから、騎士団の人たちも巻き込んだほうが良くない?」
「さすがだね。俺も、それ考えてた。下手にぶっ倒しでもしたら、あいつらの仕事を取っちまうことになるしな」
カカカと笑い立ち上がると、鈴屋さんが腕をグイと掴んで引っ張った。
なんだと見返すと、否定的に首をふるふると横に振っている。
「私が行ってくるよ。その方が来てくれるでしょ?」
「あぁ……たしかに。んじゃぁ、心強い英雄様の召喚を頼むよ」
「もう〜そうやって拗ねる〜。ほんとは、私とあー君で偵察に行ったほうが早いんだけどね」
どうやら鈴屋さんも、同じことを考えていたようだ。
一応は雇われているわけだし、角が立たないように配慮したのだろう。
「できた嫁で、あー君は嬉しゅうございまする」
「はいはい、できた嫁デスヨー」
鈴屋さんは何故かすねた口調で言い返すと、騎士英雄を召喚すべく立ち上がった。
俺はと言うと、心のどこかで騎士英雄に助けを乞うように感じ、複雑な心境でいた。




