鈴屋さんと月白の騎士団っ!〈1〉
出張でしたが、なんとか更新!
コミカライズ版、2話目も限定公開中です!
コミカライズの今後については後ほど、ラジ何などで…
ハロウィン祭も無事に終わり、数週間後のことだった。
冒険者ギルドから、俺と鈴屋さん宛に特命の書状が届いていた。
『竜殺しの冒険者である鈴屋とアークの二名は、月白の騎士団に同行し、街道に出没する幻獣を討伐せよ』
冒険者ギルドからのオーダーは『強制』ではなく、あくまでも『要請』だ。
そのため、俺には断る権利がある。そして普段の俺なら、考えるまでもなく断っただろう。
だいたい討伐系のクエストは危険すぎるのだ。
しかも幻獣の種類を特定できていないのだから、作戦を立てることもできない。
未確認モンスターの討伐がどれほど危険なのか、ゼ・ダルダリアの時に嫌というほど味わっている。
その上、俺と鈴屋さんだけを指名なのである。
正直、フルメンバーでも御免をこうむりたいのだが……
「合流地点は町から出てすぐの、街道沿いでいいんだよね?」
鈴屋さんが、水色の髪を揺らせながら聞いてくる。
俺はコクリと頷くと街の方へと視線を向けた。
「あぁ、そろそろ来るんじゃないか?」
俺は、この危険な依頼を受けることにした。
理由は二つある。
ひとつは、鈴屋さんの行動をそれとなく観察してみたいということだ。
セブンの話しだと鈴屋さんは、俺がよほど危機的な状況に陥らない限り戦闘への介入をしない。
言われてみれば、思い当たる節がいくつもある。
そういった『何らかの意図がある行動』を、少しでも見極めたいのである。
そしてふたつ目は、この依頼が月白の騎士団からの協力要請であることだ。
彼らはつい先日、国王から月白の称号を与えられた栄誉ある騎士団だ。
通称『騎士英雄』の騎士団──
そう、彼らは『騎士英雄』エメリッヒの騎士団なのだ。
今やエメリッヒの騎士団は、騎士団そのものが英雄視され始めてきたのである。
俺からしてみれば月白の授与は、英雄が英雄であり続けるために、強力なモンスターの討伐をあてがわれ続けるシステムに他ならない。
要は困った時の英雄様一団頼みってやつだ。
こうなってくると、ある種の偶像崇拝に似たものを感じる。
まぁとにかく、エメリッヒが初任務の戦力として、俺と鈴屋さんを指名してきたのは明白だった。
指名した人数がフルメンバーでないのは、人数を減らすことにより手柄を持っていかれないようにするためだろう。
わざわざ俺たちだけ町の外で合流するあたり、人目を避けているのもバレバレである。
あくまでも、月白の騎士団の初陣に助力はなかった……ということだ。
そして何よりもエメリッヒは、俺が文句を言えないことを理解していた。
なぜなら──
「来たみたいだよ、あー君」
鈴屋さんが指をさす方向に、真っ白な鎧に身を包んだ騎士の一団の姿が見えた。
総数は十五人。
ほとんどの騎士が、同じ鎧を身に着けている。
おそらく月白の騎士団で正式に採用された鎧なのだろう。
先頭の騎士は鏡のように磨かれた魔法フルプレートアーマーに、魔法のグレートソードを携えている。
まるでヒロイック・ファンタジーの勇者様のように整った顔立ちをした銀髪の優男、エメリッヒだ。
そのやや後ろに続いているのは、魔法のフルプレートにハルバードを背負った最近話題の騎士。
窮鼠の傭兵団出身にして『一代騎士』の称号を得た女騎士リーン、その人だった。
そうだ。
彼女がいるから、俺はこの依頼を引き受けたのだ。
リーンとはあれから一度も顔を合わせていないのだが、少しでも話せれば……という淡い期待が半分、約束通り彼女を一代騎士にしたエメリッヒへの義理立てが半分……といったところである。
もちろん俺は、名誉や名声なんぞに興味がない。
それをリーンにあげられるというのなら喜んで力も貸そう。
エメリッヒは俺の考えを、そこまで読み取った上で指名してきたのだろう。
ここに俺とエメリッヒの利害が一致している。
とにかくそんな経緯で、俺はこの依頼を受けたのだった。
合流時の反応は、極めて素っ気がないものである。
エメリッヒは鈴屋さんにだけ騎士らしい挨拶を向けて、当たり前のように並んで行軍をし始めた。
俺は無視かよ……なんていう不毛なツッコミは、もちろん入れない。
まぁ、アレだ。
他の騎士たちもリーン入団時の事件を知っているわけだから、俺への反応が冷たくて当然というものだろう。
リーン本人は挨拶どころか、会釈もしない始末である。
相変わらずフルプレートなので視線まで確認することはできないが、とりあえず顔を向けることはない。
しかし、それも俺が蒔いた種なのだから仕方あるまい。
時折さびしそうな笑顔を向けてくれる鈴屋さんの優しさが、たまらなく胸に刺さる。
その気遣いだけで、俺は頑張れそうだ。
街道沿いの行軍は、夕方まで続いた。
そして日が暮れる前には野営に備えて川沿いへと移動をし、キャンプを張ることとなった。
「リーン、安全の確保をしろ」
エメリッヒの命令に、フルプレートの騎士がガシャリと音を立てて頭を下げる。
「承知しました!」
その懐かしい声に、一瞬で胸が熱くなってしまった。
油断をすると泣いてしまいそうで怖い。
「リーン、あっちの荷物をまとめてきてくれ」
「リーン、食事の準備を……」
「リーン、それが終わったら洗い物を……」
細かい指示がリーンに飛ぶ。
一番若いのだから、あらゆる雑務が回されて当然だろう。
リーンは入団したての騎士らしく、真摯な働きを示している。
贔屓目に見ても、本当によく頑張っていた。
「リーン、そっちの桶に水を汲んでおいてくれ」
「承知しました!」
元気な返事をし、桶を四つほど持ち上げようとする。
しかし、さすがのリーンも疲れがきていたのだろうか。
ぐらりと膝を落とし掛けてしまい、大きく体勢を崩した。
「うわっ……と!」
無理矢理に上体を起こし、今度は勢い余って後ろに倒れそうになる。
「わわっ!」
そして、そのまま背中から倒れ……ることもなく、壁のようなものに当たり支えられた。
まぁ──
俺の背中だ──
「あっ……」
支えになったのが、俺だと気づいたのだろう。
しかし、俺は無言のまま顔すら向けない。
俺はあくまでも『偶然』ここに立っていただけなのだ。
「あぁ〜のど渇いた」
偶然にも喉が渇いていた俺は、リーンの手から桶を二つ奪う。
「ちょ、ちょっと!」
慌ててリーンも追いかけてくるが、俺は構うことなく川へと向かった。