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鈴屋さんとハロウィンナイトっ!〈3〉

出張帰りからの更新です。

金曜日のたわわ。

「違うにゃ、もっと頭の中でリズムを作って緩急をつけるにゃ」

 朝っぱらから猫語尾が抜けきらないシメオネ先生が、お手本とばかりに低い姿勢で踊るようなステップを踏んでいく。

 後ろも見ずに大きく揺れ動くシメオネが海上デッキから落ちてしまわないかと、内心でヒヤヒヤしてしまう。

 前に此処で同じことをして海に落ちたことは、もう忘れてしまったのだろう。


 俺はフェリシモねぇさんに絡まれたあと宿で大人しく眠りについたのだが、日が昇る頃にはシメオネに叩き起こされていた。

 理由がまたデジャブめいたもので、「ハロウィンコスを見てほしいにゃ」というのだ。

 姉妹揃っての時間差攻撃に、俺としては「まとめて一緒に来いよ、なんで深夜と明け方なんだよ」と突っ込みたくて仕方がない。


 ちなみにシメオネのハロウィンコスは、ビキニベースに薄くてキラキラした布で出来たパンツを履いているだけだ。

 元の世界で言う『アラビアンナイト系』だろう。

 色もオレンジと黒というハロウィンカラーで、褐色の肌によく似合っている。

 何よりもシメオネは、俺の知人の中でも一番大きなメロンを持っているわけで、もはや鈴屋さんには見せられない兵器である。


「にしてもよ……当日、見せに来ればいいだろうに」

 しかしシメオネは、頭を横にふるふるとさせる。

「祭の日は、踊り子として呼ばれているにゃ。たぶんそんな時間ないにゃ」

 おぉぅ……姉妹揃って理由がしっかりしていらっしゃる。

 それでわざわざ見せに来るって、なんですか。甲斐甲斐しくて、有り難いじゃないですか。

 ねぇさんの方は、今ひとつ真意がつかめないけども。

 とにかく、そんなこんなで俺たちは練習をしながらアルフィーの家に向かっている最中だった。


「それよりも、ステップにゃ。八の字を描くようにステップを踏んで気を練るにゃ。練気の基本、螺旋で気を練るイメージをするにゃ」

 スッテプを踏みながら気を練り、あげく会話までしてしまう天然の天才っぷりに舌を巻く。


 シメオネ先生の『気闘法』と『エイジアン・アーツ』講座も、今やかなり終盤に差し掛かっていた。

 いよいよシメオネ先生ご自慢の『超回避ステップと高速練気』を教えてもらっているわけだが、これがすこぶる難しい。

 シメオネは踊り子でもあるわけで、おそらくリズム等の感覚も作用しているのではと思えてくる。

 俺も見様見真似で動いてみるが、うまく気を練り込めない。



 気の渦を作るように──


 低い姿勢で緩急をつけて──


 滑らかな動きで八の字を描いていく──



「頭の中でリズムを作るにゃ。なんなら、歌を唄うにゃ♪」

「歌って言われても……」

 そんなもの自体、ここ数年ちゃんと聞いていない気がする。

 歌……歌……なんかあったっけか……

 そこで反射的に、最近良く聞かされていた歌が頭の中で流れ始める。



『あ〜かのしっぷぅ〜、アークさまはぁ〜、この〜街を〜救った〜誉れ高きぃ〜どらごんすれいやぁ〜♪』


 可愛らしい声で、水色の髪を揺らせながら嬉しそうに唄うエルフの少女が浮かび上がってくる。


『誇ぉぅりぃ高ぁきぃ、せんしぃ〜♪』


 自然と足の運びが滑らかになっていく。



「そうにゃ、だいぶ良くなったにゃ♪」

 褒められたところで当の本人は、どこがよくなったのかも理解できていない。

 しかしこれでは練気ステップを使う度に、この歌を脳内で再生しなくてはならないことになる。

 なんという、恥ずかしい発動条件なのだ。


「いいにゃ、いいにゃ♪ それで練った気を……」

 シメオネがタタタンッと真っ直ぐにステップを踏み、木の壁に手のひらを当てる。

 俺もそれに続き、並んで右手を押し当てた。


「一気に開放するにゃっ!」


「おうっ!」


 二人同時に練りに練った気を開放し、凄まじい爆裂音とともに、壁が木っ端微塵に吹き飛んでしまう。

 軽い地響きと撒き散る粉塵を見て、俺は我に返った。

 そういえば俺たちは、何を吹き飛ばしたんだ、と。

 海風が粉塵をさらい、視界をクリアにしていく。


 そこには──


「あ、あ、あ、あー君……?」

「あぁくどの……?」

「あーちゃんっ!?」


 着替えの真っ最中だった三人の美女が、目を大きく見開いて顔を真っ赤にしていく。

 俺とシメオネは、あろうことかアルフィーの新築を吹き飛ばしてしまったようだ。

「あっ、ついやっちゃったにゃ……」

 ぎぎぃと首を軋ませて、顔を見合わせる。

 そして二人して大量の冷や汗を吹き出し、口元をひくひくと引きつらせてしまう。


 これは殺される。

 間違いなく、俺は死ぬ。


 ただ、これから始まる大謝罪祭に参加するのが、俺ひとりじゃないということは唯一の救いだった。




 ぽかぽかとした呑気な陽気が気持ちいい──

「平和だねぇ〜」

 俺がつぶやくと同時に、頭をげしっと鈍器のような物で殴られる。

 しかし、俺は気にしない。

 今さら怪我のひとつやふたつ増えたところで、どうということはないのだ。

 なにせ俺は今、全身包帯で巻かれたミイラ男になっているのだからな。


「あー君さぁ、少しは反省してよね」

 反省の表情を浮かべようにも、包帯に巻かれていて見えやしないだろう。


「すみません、アーク殿……やりすぎてしまいました……」

 この声は、クリティカルで往復ビンタを繰り出してきたハチ子だろう。

 申し訳無さそうなハチ子の顔を拝みたいのだが、包帯が邪魔でほとんど見えない。


「いくらあーちゃんでも、あたしの家吹き飛ばすって許せないん」

 それに関しては、全くもってアルフィーの言う通りである。

 俺が為す術もなく馬乗りで報復を受けたのは、仕方のないことだ。

「罰として、ハロウィンが終わるまで治療はしちゃダメなん」


 これが、全身包帯の理由である。

 できたばかりの家を木っ端微塵に吹き飛ばしてしまったんだから、甘んじて受け入れるしかないだろう。

 ちなみにシメオネはと言うと……


「うにゃぁぁ〜ごめんさぁぃぃぃぃ〜」

 頭上から泣き声が聞こえていた。

 恐ろしいことにシメオネは、逆さ吊りにされているらしい。

「おろしてにゃぁぁ〜〜っ!」

 暴力ではないとはいえ、あの格好をしたロリ巨乳を逆さ吊りって……

 いま一瞬でも見たいと思ってしまった俺を、誰が責められよう。


「すご……これって、あんな揺れるものなの?」

 鈴屋さんが小声でつぶやく。

「破廉恥です……あんなもの……あんなもの……アーク殿に見せるわけにはいきません」

 あんなとは、どんなだ。

「あたしより大きいん。ゆっさゆっさ揺れるヤシの実みたいなん」

 つまり『逆さ吊りのシメオネ=ヤシの実がなっている』状態なのか。

 たわわか……たわわなんだな。

「あれって、ゆすれば落ちるんじゃないかな?」

「試しにやってみますか? 鈴屋」

 なんだそれ、すごい見たい。

 思わず包帯を外そうと右手を目元に持ってくるが、またしても鈍器のようなもので殴られる。


「あー君は罰として、ハロウィンが終わるまで包帯取っちゃだめだからね」

 おぉぅ、鈴屋嬢……なかなかに手厳しい。

 話すこともままならないのだが、これは往年の看板コメントをするしかないのか?

 などとツッコミを入れようとしたところで、手に木の棒のようなものを握らされた。

 十中八九、看板だろう。

 さすがは鈴屋さんである。

「あーちゃん、とりあえずあたしの家なおすよう、ドブのドワーフに言うてほしいん」

 ドブのって、ドブ侯爵『ビッグ・ベン・アフラック』のことか。

 あの人には助けられてばかりだが、俺には選択肢がない。

 ここは、きちんとお金を支払って依頼するしかないだろう。


『わかりました。行ってきます』 


 俺は看板にそう書き込むと、包帯姿のままで侯爵のもとへと足を運んだ。

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