鈴屋さんと鈴屋さんっ!〈10〉
もう七月なんですね。
ネカマの鈴屋さんは、今年か来年にいったん完結させようと思ってたのですが、今年中は無理かなって感じですね。
気長に楽しんでもらえれば、幸いです。
そして今回は、真面目な話になったり、ラブコメになったり忙しい話。
「はぁ?」
俺がようやく出せた言葉がそれだった。
しかしそれ以上、言葉が続かない。
鈴屋さんは表情を変えることなく、南無子をじっと見つめている。
「別にこっちは、偽者とするってんなら構わないんだけどさ……南無子は、それでいいのかよ?」
などと呆れ顔で発言したのは、すっかり空気と化していたドッペルゲンガーである。
お前は今どんな心境なのか、本気で問いたい。
「偽者風情が、よく言うわ」
吐き捨てるように出した南無子の台詞に、「何ガメッシュだよ、お前は……かっこいいな」とか思ってしまう俺も、どうかしている。
この特殊な状況に俺自身どう反応していいのか、わからないのだ。
「どうなの、鈴ちゃん」
「なにが?」
鈴屋さんが目を細めて、首をかしげる。
あれは、すごい怒っている時の目だ。
「していいの?」
「それが南無っちの答えなの?」
あくまでも挑戦的に返す鈴屋さんに、南無子が小さく舌打ちをする。
「さっきも家で話したけど……あんたが、いつまでタラタラ遊んでるからでしょ。いい加減にしないと、私がサル……」
そこまで言って、我に返ったかのように言葉を切る。
そして一瞬だけ俺に視線を移し、軽く唇を噛んだ。
「もういいわ……」
南無子が肩を落とし、俺の方へと体を向ける。
そして俺の首筋に右手をかけて、すっと顔を近づけてきた。
「ま、待て待て待て。なにやってんだ、お前は」
たまらず俺が、両手で南無子の肩を掴む。
「鈴屋さんも何をムキになってんだよ。どうしたんだよ、二人とも」
しかし二人は口をとがらせて、目も合わせようとしない。
「いいよ。じゃあ私は、こっちのあー君とするから」
鈴屋さんが不機嫌な表情のまま、ドッペルアークと向かい合う。
「ちょ……ちょちょっ、鈴屋さん! なに言ってんだ、早まるなっ!」
「いいんじゃない? たかが、アバター同士のキスじゃない」
「いやそんなメタ発言……そんなの、いいわけないだろ!」
「おいおい、偽者のアークさんよ。お前だけだぜ、反対しているのは。俺は別に構わないんだぜ?」
ドッペルアークの言葉に頷いて同意する二人。
「なにが“構わないんだぜ?”だ。お前、マジで潰してやるからな!」
「ほら、どう見てもこっちのアークのが柄悪いじゃない?」
南無子が憤慨する俺の腕に、胸を押し付けるようにして絡まってくる。
「何を言ってるんだ。鈴屋さんが、俺を見間違えるわけないんだよ。俺たちは一言では語り尽くせないほど、深いところで気持ちを通じ合わせてるんだ。歴史がちげぇんだよ、歴史がよ……」
ドッペルアークが、遠くを見つめるように目を細める。
……やめてくれ、俺の顔でそんな恥ずかしい台詞を言わないでくれ……
ほら見ろ、隣で鈴屋さんが笑いをこらえているじゃないか。
「ていうか鈴屋さん、いま笑ってたよね? ほんとは、わかってるんだよね?」
しかし鈴屋さんは、水色の髪をさらさらと揺らせて、悪戯っぽく首を傾げるだけだった。
あぁ、くそ……とぼける顔も可愛いな、もう!
「ところで、アーク。さっきから私の胸が当たっていることに、もうちょっと反応したらどうなの?」
「うるせぇ、破戒僧。そういうのは、もうちょっと色気を備えつけてから言いやがれ」
「んなっ! 酷いっ! 私だって、女の子なんだけどっ!」
いよいよ鈴屋さんが、耐え切れずに吹き出してしまう。
やっぱりアレは、わかって楽しんでいる。
「偽あー君、それはひどすぎるよー。南無っちがかわいそうだよぅ、ぷぷぷっ」
「ほんとだぜ。俺もさすがに、そんなことは言わないぞ。よく聞け、偽あー君。俺は女の子には優しいのだ。それに、南無子は可愛いぞ」
いけしゃあしゃあと言い放つドッペルアークに、俺の怒りは有頂天だ。
「特に絶対領域には目がはなせない」
「んあっ!」
そして偽者の言葉に、顔を真赤にして動揺する南無子。
「ずっと見てたい」
「ちょ……ばかっ」
しっかりとツンデレをしながらも、スカートをおさえつける仕草がとても可愛く……じゃなくっ!
「お前が動揺してどうすんだよっ!」
「あ、あんた、普段あんな風に思ってたわけ?」
「思いっきり、偽者の言葉に惑わされてんじゃねぇか。敵を見誤るんじゃねぇぜ」
南無子が口を真一文字に結んで、ドッペルアークを睨みつける。
それに対しドッペルアークは、少し切なげな表情で笑顔を浮かべた。
「だがすまない、南無子。俺は鈴屋さん一筋なんだ」
ドッペルアークが、鈴屋さんの長い耳に触れる。
「ちょ……あー君……」
「俺が好きなのは、鈴屋さんだけなんだ」
少し引こうとする鈴屋さんと見つめ合うようにしながら、ドッペルアークが優しく頭を撫でる。
すると鈴屋さんは大きく息を飲み、みるみると耳の先まで朱に染め上げていった。
「君がかわいくて、誰よりも愛しい」
「ふぁっ……ちょ、これ……やばっ……」
鈴屋さんが明らかに動揺している。
鉄壁のロールが崩れかけるとか、なんてレアな光景なのだ。
しかし、俺自身が羞恥の極みで死にそうだ。
「お前っそれ以上、俺の姿で恥ずかしいこと言うなよっ!」
「あぁ? 俺は本気だぜ? 鈴屋さんが好きだ。好きで好きでたまらない。一生♪ 一緒に♪ いてくれ♪」
「YA♪ ……って……だ、だめ……ほんと、これ、だめ……」
完全に乗せられて、鈴屋さんはもうすっかり茹でダコ状態だ。
「鈴ちゃん!」
打つ手なしかと思われた状況の中、見かねたツインテールが救い船を出してくれた。
「アークは、そんなイケメンなことを言えるような男じゃないわよ!」
「……わかってる……わかってるけど……」
「愛してる、鈴屋さん。君が欲しい」
「ふひゃん!」
ふにゃぁと鈴屋さんの全身から力が抜けていく。
「しっかりして! アークはもっとヘタレだから!」
「だって……こんなの耐えられるわけ……」
「結婚して、二人で小さな喫茶店でもやろう」
「ふぁひゅぅぅぅぅん」
鈴屋さんが変な擬音とともに頭から煙を吹き出し、へなへなとその場に座り込んでしまう。
あのロールの神様である鈴屋さんを、こんなに簡単にオーバーヒートさせるなんて……魔神、恐るべしだ。
「鈴ちゃん、アークは絶望的に女心がわからない、ここぞで決めれないリアルQBKよ!」
「わかってるけどっ!」
「お前ら、ちょっと待ていっ!」
たまらず俺が割って入る。
「いや、ほんと頼むから、これ以上俺を傷つけないでくれ。俺がなにをしたって言うんだよ」
なぜに俺がこんな目に合わねばならんのだと、額に手を当てる。
「なぜそれほど否定する。この気持ちは本物だぜ? 例え俺が偽物だったとしても、魔神バルバロッサが“〆変身”をすれば、能力や記憶の全てを手に入れるんだ。嘘はついてないはずだぜ?」
「お前、いま自分で名前を……」
「鈴屋さんは愛してるし、南無子の絶対領域は絶対だ。いいか、大事なことだからもう一度言う。絶対ニダ!」
「お前、マジでなに言ってんの? 」
さすがに、これでわかっただろうと二人に視線を戻すと……
「愛して……ルぅ……」
「ちょ、ちょっとこっち見ないでよ、スケベ!」
すでにこの二人にとってどっちが偽物かなど、どうでもいいことのようだった。
今回のネタは、わかりづらいので久々の【今回の注釈】
・偽者風情……ギルガメッシュがアーチャーに言った台詞ですね
・俺の怒りは有頂天……怒髪天じゃないです。「俺の怒りが有頂天」で、ぜひググってください。まさに語彙力の崩壊
一生♪ 一緒に♪ いてくれ♪ YA♪……三木道三とか、知ってるほうがもうレア
・QBK……や・なぁ〜ぎぃ・さぁわっ!が、無人のゴール前で、ゴール外にいたキーパーめがけて蹴ってしまったときの試合後のコメント『急にボールが来たので』 を略したもの。
他にもよく「宇宙開発」をする。(ゴールマウスから大きく外れて天高く飛んでいくシュート)
ちなみにボールがないときの動きや、スペースの入り方は天才的。
さらに余談で、QBKK(急にボールが来たので決めた)という本田圭佑版もあったり。




