表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/504

鈴屋さんと鈴屋さんっ!〈3〉

第三話です。

さて、何が起きてるのでしょうかぁ〜?


休憩がてらに、サクッとどうぞ!

 三日目の夜──

 これまでの経験を活かし、俺は既にベッドの中にいた。

 昨日一昨日に現れた、鈴屋さんとハチ子が偽者だったと仮定して、目的は何だと自問する。


 身近な女性に変装し誘惑することにより、何らかの情報を得ようとする『間者』か。

 または、暗殺を企む『暗殺者』か。


 いずれにしろ、教団とは無関係だとして考えねばなるまい。

 それにしても、リーンのことを知っている風だったのは気になる。

 これだけ新しい情報を把握しているというのは、よほどのネットワークがあるのだろうか。

 もっと突っ込んだ質問ができれば、ほころびが生まれたか?

 そうなると、やはりおびき寄せる必要があるな。


「あぁ、くそっ……」

 ひとり悪態をつき、屋根に向かうべく右手をついて体を起こそうとする。

 しかしそれを拒むかのように、俺の両脇から白い手が差し込まれてきた。


「あーちゃん」

 思わずギョッとして、後ろに首を向ける。

 そこには薄着のアルフィーが、俺のベッドで横になり背中から抱きしめてきていたのだ。


 ──いつの間に……


 ──そもそも本物か?


 同時に沸き立つ疑問が、戸惑う感情を増幅させる。


「あーちゃん、もう少しこうしてたいん」

 いかにもアルフィーなら言いかねない台詞だが、今は猜疑心の方が強い。

 しかし、ここはあえていつも通りの反応をし、逆に情報を聞き出すべきだろう。

「お、おまっ……いつの間に!」

「ずっといたよ? あーちゃんが鈍感なだけなん」

「いや、にしてもよ……」

「あーちゃんは、リーンのために頑張ったかんね。ご褒美あげたいん」

 抱きしめてくる腕にぎゅうと力が込められ、あの日のことを想起させる。

 ダメだ、これは……油断をすると揺らいでしまう。

「なぁ、アルフィー」

 多少強引にでも、話題を差し込むしかない。


「覚えてるか、初めて会った時のこと」

 一瞬の間。

 その心情を読み取ろうと、一挙手一投足を見逃すまいと注視する。

「覚えてるよ」

 迷いのない言葉。

「ハッチィを助けにきたあーちゃんに、あたしは一目惚れしたん」


 ──本物だ。


 そう、判断せざるを得ない。

 いかな盗賊ギルドでも、こんな情報あるわけがない。


「あたしが、鈴やんとハッチィに勝てないのはわかってるん。でも……そんでも好きなん」

 これ以上、彼女を試す必要があるのか。

 この気持には、真摯に応えてしかるべきではないのか。

 しかし、この『疑わせない状況』を生み出したこと自体、彼女の能力だとすれば……

「ありがたいけど、俺には鈴屋さんがいるから」

 優しく、それでもきっぱりと答える。

「うん、それでいいん。そんな、あーちゃんが好きなん」

 抱きしめる腕が、わずかに震える。

 いや……これ以上は、俺も色々と限界だ。

 次の一手で、すべてを判断するしかない。


「あぁ、ありがとう。アルフィーとも、ここに来てから長いよな。そういやこのゲーム、なんて名前だっけか?」

 またしても、一瞬の間が生まれる。

 やがてアルフィーが、不思議そうに首を傾げて言った。


「ザ・フルムーン・ストーリーでしょ?」


 ぞわり、と背筋に悪寒が走った。

 確定した。

 こいつは間違いなく偽者だ。

 なぜならアルフィーは、ハチ子と違って俺たちの現実をしらない。

 あくまでも東方の国から来たとしか、知らされていないのだ。

 そして……なによりも、偽者だとして、これに答えられること自体が恐怖に値する。

「トリガーッ!」

 俺は迷わず叫び、転移をした。



「ひゃっ……」

 転移先で、驚いて声を上げる女性の口元を咄嗟におさえつける。

「うぉぃ、なんでダガー抱いて寝てるんだよっ。床に転がしとけって言ったろ」

 小声で問い詰めるが、当のハチ子は顔を真っ赤にしたままフリーズしてしまった。

 ……あらかじめ、転移脱出をするために預けておいたのだが…… 

 ハチ子は俺の言いつけを守らずに、ダガーを抱いて寝ていたのだろう。

 そして俺はものの見事に、ハチ子の抱き枕になってしまったわけだ。

 さっきとあんまり状況変わってないじゃねぇか、と思わず心の中で突っ込んでしまう。

「ど、ど、ど、どぅして……」

「ちゃんと説明してない俺も悪いけど……とにかく緊急事態だ」

「き、緊急……でも、そんな急にっ……ハチ子にだって心の準備が……」

「そうじゃなくて……とにかく、今からラット・シーに行くぞっ」

「ふぁっ……了解です、アーク殿っ」

 うん、ハチ子だ。

 この可愛い照れっぷりは、紛うことなきハチ子だ。

 やはり、昨日のハチ子も偽者で間違いないだろう。

 俺はハチ子の手を取りベッドから引き起こすと、交互トリガーをするべく窓を静かに開けるのだった。




 ハチ子と交互にトリガーをしながら海岸線を移動し、ほどなくしてラット・シーの入り口が見えてきた。

 ラット・シーの再建はかなり進んでいる。

 おしゃれ建築や商業施設のアイディアを、シェリーさんに色々と吹き込んでおいたので、入り口の辺りはちょっとしたリゾート地のようである。

 もう少しすれば、海上デッキの商業施設が出来上がるだろう。

「こうしてみると……ここは、こんなに綺麗なのですね」

 少しうっとりした表情を浮かべて、ハチ子がつぶやく。

「ちょっと奥に行けば、いつものラット・シーなんだけどな。もっと早めに助言しとくべきだったな」

「まぁ住むのは、昔から馴染みのある形のほうが落ち着くのでしょう」

 ハチ子は話ながらも、ちらちらと灯りのもれているお店に目を奪われてしまっている。

 なんというか……女の子ももれていて、とても可愛いです。

「たまには、こいうとこで飲むか?」

 パッと目を輝かせて、顔を向けてくる。

「いいのですか?」

「ま、たまにはな」

 嬉しそうに頷くハチ子に、笑顔で応える。

 いつもいつも『碧の月亭』か、その屋根の上とかってのも味気がない。

 たまには、そんな息抜きがあってもいいだろう。


 しばらくは歩いて奥へと進み、やがて居住区に差し掛かる。

 そこからは、また屋根の上を移動しアルフィーの家へと一直線に進んだ。

 ひょいひょいと屋根の上を進むさまは、まさに忍者だ。

 この動きに軽くついてこれるのは、ハチ子くらいだろう。

 軽やかに飛び上がっては、ワンピースを軽く押さえながら音もなく着地する。

 そのしなやかな動きは、ただただ見惚れるものがある。

「な、なんですか?」

 俺の視線に気づいたハチ子が、少し頬を赤くしながら聞いてくるが、俺はもちろん何も答えられない。

 かわりに顎先をクイと前に上げる。

「あそこだ、着いたぞ」

 言葉通り、俺の視界に見慣れたアルフィーの家が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ