鈴屋さんと海開きっ!〈前編〉
ウルトラライトにお届けする、気軽でお気楽な「ネカマの鈴屋さん」です。
休憩時間で読めてしまう導入みたいなものなので、珈琲片手にお楽しみいただければ幸いです。
「せっかく海があるんだからさぁ……」
とある日の昼下がり、碧の月亭の円卓会議中。
「やっぱり水着って文化をここで根付かせれば、一儲けできると思うんだ」
俺の渾身のプレゼンに対して、またかと、じと目を向けため息をつく南無子。
鈴屋さんに至ってはマグカップに口をつけたまま、すました表情で目も合わせてくれない。
「さすが、アーク殿~♪」
無条件で味方になってくれるのは、もはやハチ子だけだ。
「あのね、アーク。ここの人たちって、服のままか下着で泳いでるでしょ? 今さら水着なんて着るかしら」
「いやだから、海用の服として水着を売り出すんだよ、あの利便性とファッション性を知らないだけさ」
「……あー君は水着の女の人を見たいだけなんじゃないかな?」
「いや、ちゃんと濡れても透けなくて乾きやすい素材で作ればきっと売れると思うわけで……」
「私は鉄鍛冶だから、つくれないわよ?」
なぬ……南無子って武器・防具なら何でも作れるのかと思ってた。
いきなり計画が頓挫してしまいそうだ。
「アーク殿、ハチ子は裁縫得意ですよ」
「おぉぉ……ハチ子さん、さすが芸達者!」
しかし、南無子と鈴屋さんは不満気だ。
「あんた……ここんとこ、いつもここにいるわね」
「私はアーク殿の犬ですから。プライベートの時間は、主にアーク殿の観察にあててます」
すがすがしいほどのストーカー宣言、恐れ入ります。
断っておくが、断じて俺はモテていない。
「……あー君は水着の女の人を見たいだけなんじゃないかな?」
鈴屋さん、それ2回目です。
重要なコメントなんですね、きっと。
「そうなんですか? アーク殿は、誰の水着を見たいんですか?」
ぶばっと鈴屋さんが、ミルクを吹き出す。
「いや、誰のって言うか……」
「不特定多数ですか? 特定個人ですか?」
ハチ子、ここぞとばかりにグイグイ来るな……
「いや、あの……この世界の住人にも水着で海を楽しんでほしいとか……そういう志なわけで……」
「では、例えばこの中で誰の水着姿を見たいのですか?」
またも鈴屋さんが、ミルクを吹き出す。
ハチ子が絡むと鈴屋さんの珍しい反応が見れて、なんか新鮮だ。
「いや……南無子のはもう見たし……」
「なんか失礼ね……それにあれはアークの口車に乗せられただけで、結局下着だったんだけどね」
「……その節は誠に申し訳ございません」
そしていつもお世話になります、と心のなかで付け加えておく。
「それで、あー君は誰のを見たいの?」
掘り下げますね、鈴屋さん。
あとそれ、俺に選択肢ないですよね……と黙って見つめ返す。
おのずと俺の思いが伝わったのか、鈴屋さんがみるみる赤くなっていった。
「……さすがに、この問は鈴屋に軍配が上がりますか。では、試作品は鈴屋に合わせたサイズで作りますので2~3日お待ち下さい、アーク殿」
「ハチ子さんありがとう、本当にありがとう」
「アーク殿のお役に立てれば、ハチ子は嬉しいので♪」
「え……えぇっ?」
「まぁ、こうなると仕方ないわよね。鈴ちゃん、がんばっ!」
「ええええーーーっ?」
みなさん、ナイスアシストです……と、俺は仲間たちに感謝の言葉しか出なかった。