鈴屋さんとリーン!〈4〉
キリの都合で、短めです。
コロナに負けないように、少しでも娯楽を提供できれば幸いです。
条件反射で身をかがめる……が、棒立ちのリーンを見てげんなりしてしまう。
「すいません、アークさん。しゃがむの、けっこう大変なんス」
「おっさんかよ!」
思わず声を上げてしまった。
しかしフルプレートって南無子も着てたけど、もっと動けてたよな。
あいつ、絶対領域まで作ってたし、動きやすい工夫でもしていたのかもしれない。
「奇襲をかけるんスか?」
「阿呆か。今から襲われる合図だよ、ありゃあ」
あきらめて背中を合わせるように立ち上がり、ダマスカス刀を抜く。
「背中は守ってやるから、しっかり戦えよ」
「なんスか? 口説いてるんスか?」
この野郎め! と、喉まで来た言葉を強引に飲み込む。
そう言えば、アルフィーもこの手の挑発が上手い。
「じゃあ、軽くひねってやるッスかね」
リーンがハルバードをくるりと回して、矛先を正面に向けて構える。
さて……俺がやるべきことは相手の数の確認と、戦闘のサポートだ。
俺が全部倒してしまっては、意味がないからな。
「不知火……」
術式を唱え、二本の指でリーンのハルバードをなぞる。
たちまち、ハルバードの先端部分に炎が宿る。
ハルバードはポールウエポンという両手武器に属しており、先端が槍状で、さらに斧と槌が付いている。
これ1本で『突き・斬り・叩き・足払い』ができる万能武器だ。
「おぉ……すごい。魔法の武器みたい」
キラキラとした眼差しで武器を眺めてる……と、思う。
俺はダマスカス刀にも不知火をかけると、逆手に持ち替えて、左手でテレポートダガーを握った。
ダマスカス刀特有である木目状の模様に炎が重なり、豪炎が渦巻いていく。
ここまでの強い炎が宿ったのは初めてだ。
ちらりとリーンのハルバードに目をやるが、やはりダマスカス刀の炎のほうが大きい。
もしかしたら、ダマスカス刀には属性付与強化の効果があるのかもしれない。
そうなってくると、もうちょっとした魔法の武器レベルだ。
これはほんとに、ツンデレ鍛冶師を愛でに行かねばな。
「来たぞ……」
まわりの草が揺れる。
すでにいくつもの影も視認できていた。
「何匹いるんスか?」
「……正確にはわからんが、20匹くらいか? 思っていたよりも大きな群れだ」
普通に考えれば理解ることだが、2対20はかなり絶望的な数字だ。
どんな達人でも20匹から一斉に襲われて、無傷でいられるわけがない。
ましてや相手は、半分魔獣化した狼である。
中堅クラス2人では、到底太刀打ちできないだろう。
つまりこの試験は、端から合格させる気なんてなかったということだ。
「ハチ子さんのシミターがあれば、牽制しながら戦えたんだがな……」
もしかしたらその辺で、こっそり見ていそうな気もするが、期待するわけにもいくまい。
ガルルゥゥッ!
背後からの鳴き声。
すかさずリーンが矛先をガルムに向け、鋭く突きを入れる。
そして炎が真っ直ぐに線を描き、飛びかかってきたガルムに直撃をした。
ギャインと鳴き地面に転がり落ちると、距離を保ったまま威嚇するように唸り声を上げる。
アォォォォォォン!
咆哮が轟く。
攻撃の合図だと直感し、足のバネに力を貯め重心を落とす。
次の瞬間には、視界の中でいくつもの影が動き、一斉に襲いかかってきた。
「ひとつ……ふたつ」
数えながら、ガルムに斬りかかる。
その度に火の粉が飛び散り、火線が走っていった。
「みっつ、よっつ」
ダマスカス刀が炎の尾を伸ばしながら、一撃のもとに次々とガルムを屠っていく。
どうやら今の俺には、それほど驚異となる強さではなさそうだ。
「いつつ!」
数え五斬できっちり5匹を倒し、背中越しにリーンの様子をうかがう。
リーンは、ようやく1匹目を倒したところだ。
横薙ぎで炎を残しながら牽制をしているし、言われたことは守っている。
目に見えて動きが良くなっていた。
……なぜだろう、可愛く感じてくるものだな。
ガルムは次々と襲いかかってくるが、俺は防御に専念してやり過ごすことにする。
時間はかかっているが、リーンが少しずつ数を減らしていき、なんとか10匹目を屠った。
これで半分といったところだろう。
試験では10匹を討伐することになっていたのだから、十分すぎる結果だ。
「や、やったッス!」
「あぁ、よくやっ……」
振り返って、ねぎらいの声をかけようとした時だ。
リーンの上にある木の枝から、ぼとりと何かが落ちてきた。
「へ?」
それはリーンの首元でうねうねと動き、その鎧の中にするすると入り込んでいく。
「はへ、ややややや、なんか入った、なんか入ったッス!」
慌ててハルバードを落とし、届きもしない背中に手をまわそうとする。
「ばか、毒蛇だ!」
というか、まだガルムも残っている。
俺はすかさずテレポートダガーを投げて、暴れるリーンの首をひっつかみトリガーで離脱する。
「痛っ、いたたた!」
どこか咬まれたのかと思ったが、今はそれよりもガルムだ。
「トリガー!」
俺はガルムたちの背後に転移をし、ダマスカス刀を後ろへと引く。
ここは一気に終わらせるしかない。
「忍殺──」
視界がモノクロになり、真っ赤な筆の線が十文字に走っていく。
……十文字?
前は確か、横一本だった気がするのだが……
しかし自然と体がそれに反応し、剣線をなぞらせる。
「一閃!」
刀を振り抜いた瞬間に炎の舌が真っすぐと伸び、ガルムたちを飲み込んでいく。
そして、まっすぐ地面に刀を突き付けた瞬間……
ゴォゥゥゥゥン!
地鳴りをともなった爆音が体をビリビリと震わせて、俺を中心に爆炎が生まれた。
爆発……やはり前と違う。
違いは、ひとつしかない。
ホモンクル戦では雷属性だった。
つまり忍殺一閃も、属性で技の性質が変化する複合スキルなのだろう。
その一撃はすさまじく、見事にガルムの群れを一掃してしまった。




