ハチ子と鈴屋さんの露払いっ!〈5〉
なんか出来たので更新しちゃおうの日。
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「お前らは、何だ? ただの冒険者だとは言わせないぞ?」
いきなり出てきて、どこまでも不躾な男だ。
いや、この男の身なりは……
「あなた、イーグル?」
男が、ぴくりと反応する。
そうだ、見間違えるはずもない。
その灰色のロングコートは、教団支給の物だ。
「狙いはなんだ!」
勝手に盛り上がる男に対し、思わずため息をつく。
「あのですね。私はいま、彼女と大事な話をしているんです。邪魔しないでもらえますか?」
「ハチ子さん、さっきの話はもうお終いだよ? あんまり話していいことじゃないし」
「鈴屋、あなたは何をひとりで背負っているのですか?」
「お前ら、俺の話を聞けっ!」
男がダガーを逆手で構える。
「あなた、私を知らないということは、粛清には参加していなかったのですね?」
「なんだ、それは?」
男が怪訝な表情を浮かべる。
どうやら演技ではなさそうだ。
そうなると、順位が気になるところだけど、と顔を注視する。
短めの黒髪、痩せた顔つき……あれ?
「あなた、エリーチカの?」
「なっ!?」
男が声を上げて、大げさに驚く。
どうやら当りらしい。
やはり朝みた男のようだ。
「お前ら、俺の家族に何をするつもりだ!」
家族……ということは、エリーチカの夫は教団のイーグル。
もちろん家族には、そのことを隠しているのだろう。
そうなると……
「鈴屋。アーク殿がここへ来たら、いよいよ話がややこしくなります」
テレポートダガーを屋根の上に置き、シミターを抜く。
「ここは、私がやりましょう」
「え、殺すの?」
ざわりと男が殺気立つ。
「物騒なことを言わないでくださいよ! これでも、不殺の暗殺者と呼ばれていたのですよ」
「……殺さずの……1位になって、すぐに退団したとかいう女か?」
「さあ、どうでしょうね」
……それは知られているのね。
それでも、顔が知られていないという事実は、とても有り難い。
「少しの間、お相手をしましょうか。どうせ、まともに話は聞いてくれないのでしょう?」
「話など必要ない。お前らは、ここで死ね!」
男がさらにダガーをもう1本引き抜くと、くるりと回して逆手で構えた。
二刀流とはアーク殿のようだ。
ただ彼の場合は、ニンジャ刀と呼ばれる片手剣とダガーだけど。
「一応、忠告しておきます。教団は私達に手を出せないはずですよ?」
「……知ったことか。俺の仕事と家族を知っている。理由はそれで十分だ」
やはり話にならない。
思っていた以上に、直情的だ。
私達と戦うということは、教団が窮鼠の傭兵団を相手にするのと同意なのだけど……それは知らないようね。
「これでも、ゼクスに勝ったことがあるんだ。このフロッガー様を、あまり舐めんなよ?」
ほぅ、と素直に感嘆のため息をもらす。
ゼクスは残念な男だが、強さは本物だ。
テレポートダガーのような、とんでもない魔法の武器でもない限り、正攻法では勝てないだろう。
「それが本当なら、あなたの順位は相当高いのですね?」
「身を持って知れ! いくぞ、不殺!」
フロッガーがダガーをハの字に構えて、高速でステップインをしてくる。
シミターの攻撃範囲の内側へと、飛び込むつもりなのだろう。
……相当な勇気が必要なはず……インファイトに絶対の自信があるのね。
ここの足場は、傾斜の強い三角の形をした屋根だ。
しかも、連続して連なっているせいで、安定感もゼロだ。
一歩の距離が読みづらい。
「アーク殿なら、この足場すら利用して戦うはず……」
彼の姿が頭によぎり、目の前に投影されていく。
すると体が自然と反応し、気がつけばその動きをトレースしていた。
タタンッと屋根と屋根を蹴って三角飛びをし、剣線による残像を残していく。
相手を囲うように──
行動範囲を狭めるように──
空間の陣取りを──
「あうっ!」
フロッガーが青白い残像に触れ、肩口に傷を負う。
「くそ、なんだその武器!」
ここで親切に説明をする気なんてない。
そのまま斬撃の鳥かごを作っていき、スキが生まれるのを待つ。
「降参するならお早めに。この武器は一度攻撃に転じれば、手加減が難しいんです」
「……舐めるなって言ってるんだよ、ころさずの!」
スッとフロッガーの姿が、突如として消える。
……魔法?
いや、これはまさか!
「影渡りっ!?」
気づくのが少し遅かった。
背後に感じる殺気から逃れるように、シミターを振るう。
しかし、フロッガーが凄まじいダガー捌きで斬撃を弾き……
「つうっ!」
ほんの少しダガーの刃が、左腕をかすめてしまった。
そして、うっすらと赤い筋が浮かび上がる。
……失念していた。
いや、この男の言う通りだ。
私は舐めていたのだ。
「まさか、3位以内だとは……」
フロム・ダークネスの力で闇となり、大きく後方へと距離を取る。
「また、なんだそれは。魔法装備だらけだな、ころさずの」
「それでこの体たらくは、恥ずかしい限りですね。しかし、これは……」
話している間にも、体が酷く重くなっていく。
そして遂には立っていられなくなり、片膝をついてしまった。
これは……毒?
「悪いな、ころさずの。これは麻痺魔法が付与された短剣、デッドリーパラライズだ。普通の人間相手なら、かすめた時点で俺の勝ちよ」
「なるほど……これなら確かに、ゼクスにも勝てますね」
「そういうことだ。お前らには恨みはないが……」
体がどんどん痺れてきている。
普通に考えて、圧倒的に絶体絶命だ。
ただし、この場には鈴屋がいる。
私には、まだそこに安心感があった。
「そこのエルフも、すぐに動けなくしてやる」
フロッガーが、ダガーを構え直す。
しかし、鈴屋はいつも通りの涼しい顔だ。
「それは無理じゃないかな〜?」
挑発しているわけでもない。
彼女は、本心でそう言っている。
「抵抗するっていうなら、この女の命はないが?」
今度はダガーの剣先が、私の首筋に向けられた。
「ん〜。じゃあ、私はなにもしない」
意外とあっさり受け入れてしまい、フロッガーが拍子抜けをする。
いや、それでは私も困るのだけど……
一応、助けを求めるように視線を送ると、鈴屋が肩をすくめて笑ってみせた。
「大丈夫だよ、ハチ子さん。呼べばいいだけだから」
その言葉の意味がわからず、見つめ返す。
「ピンチのときはね、名前を呼べばいいの。あの人の名前を言ってみて?」
……あの人?
……彼?
「あ……」
その名前を呟こうとするが、痺れが喉に達したのか、うまく声が出ない。
私は大きく息を吸い込み、もう一度その名前を呼びかけようとする。
「アーク殿っ!」
鈴屋の精霊召喚じゃあるまいし、こんなことで助けてもらえるはずが……と、自分でも呆れてしまう。
しかし──
「ほらね」
彼は──
「あー君は来るんだよ。そういう人なの」
赤いマフラーをはためかせて、私の前に現れた──
そこにいるのが、さも当然のように。
その背中は、いつだって私を守ってくれる。
そして私の耳に、低く唸るような声が聞こえてきたのだ。
「あんた、ハチ子になにしてんだよ……」
愛用のダガーを握り、狼のようにギラついた目でフロッガーを睨みつける。
「お前、どこからっ!」
「うるせぇよ」
彼が問答無用でダガーを投げつける。
フロッガーがそれをかわすと、狙っていたかのようにトリガーを発動し……
「忍殺一閃!」
背後からの手刀で、あっさり昏倒させたのだ。
ウィザードリィだとニンジャは手刀で首はねるんだよなぁ……危ない……




