鈴屋さんと夕凪の塔!〈14〉
終わりはあっけなく……な「夕凪の塔」の最終話です。
短めですので、さらっとワンドリンク片手にどうぞ。
視界の中で、両断された魔法生物が一斉に崩れ落ちていく。
──何が起きた?
自分でも、理解できない。
忍殺一閃は、背後からの攻撃で発動できるスキル。
一撃で倒せない相手には特大ダメージを与え、オーバーキルの時のみ一撃死のエフェクトが入る。
両断できたのは、全員オーバーキルできる程度の強さだったからだろう。
考えられるのは……
やはり、範囲攻撃か。
発動条件は『攻撃範囲内にオーバーキルできる対象が複数いた場合のみ』とか、そんな感じだろう。
さすがは導入予定だった、最新スキルだ。
「馬鹿な……馬鹿なぁぁぁぁ!」
「いよぅ、レイノルズ。どうした。顔色が悪いぜ?」
まるでこの結果が、当たり前かのように振舞ってみせる。
実は一番驚いているのは、俺なんだがな。
「剣で一瞬のうちに……この数を……まるで魔法のよう」
ラナも目を見開いて驚いている。
範囲攻撃は魔法系の専売特許だ。
物理でそれを行うこと自体、あり得ないのだ。
「まだだ、まだまだまだまだまだぁぁ!」
レイノルズが杖を大きく振るう。
「魔を統べる王、ベール。我の声に応えよぅぅぅぅ!」
さらに鈴屋さんの柱が光を帯び始める。
俺はダマスカス刀の稲妻が消えていることを確認すると、落ち着いて事の成り行きを見守った。
柱の光はさらに強まり──
ゆっくりと、鈴屋さんが目を開ける──
そして瞬きを2度して──
「きた……きたきたきたきたぁ! きましたよぅぅ!」
ひとりで盛り上がるレイノルズをしり目に、鈴屋さんは視線を室内へと泳がせた。
「さぁ、私の声に従うのですよ!」
まるでそれに応えるかのように、右手をガラスの柱に触れ、何かをつぶやく。
次の瞬間──
バリッィィィィィン!
ガラスが飛び散り、中から物凄い勢いで液体が流れ出した。
「さぁ、その邪魔者をぅぅぅぅ!」
「うるさい、黙ってて」
迫力のある声でレイノルズを制し、俺へと視線を向ける。
俺はその美しい瞳に吸い込まれそうに……
「まず、あー君は目をつむる!」
一喝されてしまった。
「は、はぃ!」
思わず飛び上がり、背を向けて正座をする。
もちろん目はがっつり閉じている。
「あのぅぅ、魔王ベール……さま?」
「だぁれがぁまおぅぅだぁぁぁぁ!」
全裸の鈴屋さんが、そのすべての怒りをレイノルズにぶつけているであろう光景は、音だけで聞いていても恐ろしいものだった。
作戦の顛末は簡単なものだ。
まず俺が背後に転移し、魔法生物の一団に一閃を放つ。
一撃で全滅させてしまったのは、嬉しい誤算だった。
その後ハチ子も転移をし、ディスペル・フィールドを展開。
そうして、鈴屋さんとアルフィーのスリープを解除したという訳である。
それからはもう、復活した鈴屋さんの独壇場だ。
途中でアルフィーも参戦し、レイノルズは文字通りフルボッコにされてしまった。
最期は、鈴屋さんのスリープで昏睡させて終わりである。
あとの処理はラナにお任せだ。
塔に残る他の魔術師に事件の概要を説明し、使い魔を学院へと飛ばして、学院からの使者を待つ。
レイノルズの身柄は、その時に渡すのだろう。
ちなみにラナは、使者が来た後も事後処理のため、数週間拘束されてしまうそうだ。
俺達は使者が来るまでを護衛の依頼とし、塔での2日目の昼を迎えたのである。
バゴンッ!
「いってぇぇぇ!」
いきなり後ろから殴られて、頭を手で押さえる。
「どう、あー君。記憶消えた?」
「消えるかよ!」
塔の一室で、俺は鈴屋さんに何度も本の角で殴られていた。
「鈴やん、もうあきらめぇよぅ~。見られたもんは仕方ないん」
アルフィーはいつも通り……という訳でもなく、けっこう気まずそうに顔を赤くしていた。
これはこれで、調子が狂う。
「だって、全部なんだよ?」
「……俺にどうしろと言うのだ」
「その部分だけ、記憶を消して?」
笑顔で無茶苦茶な要求をしてきやがる、くそかわいい。
「その辺にしてあげてください、鈴屋。アーク殿は、ものすごい活躍をしたのですよ?」
「……そんなの見てないもん」
ぷぅと頬を膨らませるのとか、それもかわいいです。
「でもほんとに、ゼ・ダルダリアの時も……魔法生物の大群の時なんて、見たこともない剣技で一掃して……ほんとに、かっこよ……」
ハチ子がハッとして、言葉を飲み込む。
どうせなら、最後まで言ってほしいのが男の心情だ。
「……だから見てないもん」
「ハッチィだけ、ずるいん」
そして、2人してジト目である。
「まさか、ハチ子さん。私たちが寝てる間に、変なことしてないよね?」
「へっ、変なことって……小川でのあれは、そういうのではなく……」
おーい、ハチ子さん。
「なんなん、まさかキスとかしたん?」
「しっ、してないです。あれは、解毒薬を飲ませようとしただけで……」
おーい、ハチ子さん。
ワザとだよね?
それ、絶対ワザとだよね?
……てか、解毒薬を飲ませようとしたってなにっ!?
「わっ……わたしだって、何度も抱きしめられたり、アルフィーの盾で脱がされたりして大変だったんです!」
バゴンッ!
「いってぇぇぇ!」
「死ぬのかな? むしろ死んだ方がいいのかな?」
「待て待て、いや、待ってください!」
俺が慌てたところで、ハチ子は止まらない。
「ハチ子は嘘をついておりません♪」
「……あぁ、まぁ……はい」
「また、アヤメって呼んでくださいね♪」
「はい……じゃねぇしっ! なに言わせてくれちゃってるの!」
楽しそうに笑うハチ子と、背後から放たれる『鈴屋一閃』に、俺は成す術がなかった。
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レビューは他の作者様もよく言うんですが、なかなかつかないんですよね。(笑)
次回は、久々にハチ子さんが主役です。