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鈴屋さんと夕凪の塔!〈8〉

塔です、やっと塔です。

引き続きハチ子がヒロインです。

ワンドリンク片手に、まったりとどうぞ。

「やぁ、よく来てくれましたね。私がこの塔の管理者、レイノルズです」

 真っ赤なローブに身を包んだ魔術師が大きな机を隔てた先に座り、笑顔を向けてそう名乗った。

 年齢は25歳くらいだろう。

 濃い紺色の瞳に、首筋まで伸びた綺麗な銀髪。

 魔術師にしては珍しく、爽やかで大人びた……イケメンだ。


「まさかあの、ゼ・ダルダリアをその人数で倒してしまうとは……冒険者というものは本当にお強い」

 ……しかし、なぜだ。

 どうにもいけ好かないのは、イケメンだからなのか。

 なぜか俺の脳内で、こいつは好きになれないという言葉がでっかく表示されていた。

「あの魔物の毒は非常に興味深い。冒険者ギルドから支払われる討伐報酬とは別で、是が非にもあの死体は買わせていただきたいですね」

 うん、まごうことなきド変態。これぞ、魔術師だ。なんなら、安心感すら覚えてしまう。

 今のところ、ラナにその要素がないことは本当に救いだ。

「それは任せるよ。金額は冒険者ギルドと交渉してくれ。それよりも、ここの被害はどんな感じなんだ?」

 確かラナの依頼は『不確定モンスターの討伐と、塔に残る魔術師たちの救出・安全の確保』だった。

 つまりそれは、討伐だけで終わりじゃないということを意味している。

「この塔には16人の魔術師が常駐していますが、ゼ・ダルダリアとの戦闘で、ほとんどの者が毒でやられてしまいまして……もちろん、すでに解毒薬で回復していますが、今は大事を取って休ませています」

 ……なるほど、薬が足りない理由はそれか。

「まさか、あれほど遠くまで攻撃する手段があるとは思いもよらず、余計な被害を出してしまいました。しかし、よく接近戦が弱点だと見抜けましたね?」

 レイノルズが感心したように言う。

「俺達も最初は、遠距離攻撃でやられたからな。しかもダークトロールの肌に、矢は通らないだろうし。単純に選べるような戦術がなかっただけだよ」

 それに、近距離が弱点ってのは間違いだ。

 相打ち上等、決死の覚悟で挑まなくてはならないからな。

「なるほど……さすがはドラゴンスレイヤーですね。あれほどの化け物を相手に、情報がない状態で勝ててしまうなんて」

 たまたまだよ、と肩をすくめる。


「あの……レイノルズさま……」

 ラナが三角帽で表情を隠しながら、怖ず怖ずと前に出てくる。

「なぜ、連絡が途絶えてしまったのでしょうか。学院からは、それを聞いてこいと言われておりまして……」

「導師ラナ、それは簡単です。あの魔物を調査する際に、使い魔もやられてしまったのですよ。おかげで皆さんに情報をお伝えすることができず、危険な目にあわせてしまいました。本当に申し訳ないと思っていますよ」

 ラナがトントンと杖で床を叩く。

「なるほど……了解しました。学院には、その旨を伝えておきます」


 ……ふむ。


「俺からも、ひとつ。いいか?」

「えぇ、なんなりと」

 やはり判で押したような、爽やかな笑顔が返ってくる。

「ゼ・ダルダリアは、どこからやってきたんだ? 伝説級の魔物なんだろ。急に出現したってのか?」

 レイノルズは困ったように首を傾げ、やはり笑顔をみせて答えた。

「私にもそれは、皆目見当がつきませんね。ただあの森に出現した、としか」

 俺の質問に何かを感じ取ったのか、ラナがじっと見つめてくる。

 淀みのない琥珀色の瞳が、鈍い光を放っているようにもみえた。

 あぁ、なるほど……と、俺は少し真相を理解し始めていた。

「まぁ、そりゃそうだよな。その辺は専門家に任せるよ。とりあえず、解毒薬が出来るまで世話になるぜ?」

「もちろんです。ささやかながら、賓客としてもてなしますよ」

 俺は小さく礼を言うと、レイノルズの部屋を後にした。




 ハチ子とラナを連れて自室に戻ると、俺はとりあえず二人の椅子を用意した。

 そこまで、三人の間に会話はない。

「さて……」

 とりあえず何から話そうかと考えながら、ベッドに腰を下ろす。

「ハチ子さん、どう思った?」

 わざと乱暴な質問を投げつけてみる。

「あれは、嘘つきの目です。アーク殿」

 その答えに、思わず満足してしまった。

 打てば響くってぇのはいいものだ。

「俺もそう思う。初めはイケメンだから、いけ好かないだけかと思ったんだが……」

「イケメンじゃないです。アーク殿のほうが、かっこいいです」

 その直球、今は打ち返せませんよ、ハチ子さん。

 シリアスな話をしようとしているのに、顔がにやけてしまうだろうが。

「あぁ、まぁ、なんだ。とにかく……ラナ。この依頼、まだ先があるんだろ?」

 ラナは三角帽子をテーブルに置くと、杖でトントンと床を叩く。


「アークさまは、どこまで……?」

 それは、この先があると認めているのと同じだ。

 どうやら俺の考えは当たっているらしい。

「討伐は嘘じゃないだろう。実際にそれが冒険者ギルドからの依頼だしな。しかし学院が本当に依頼したい内容は、レイノルズの身辺調査とかじゃないのか?」

 ラナは杖で叩きながら、次の言葉を促してくる。

 ……これだけでは満足しないということか……なら……

「学院が探していたのは、強力な魔物を倒す実力があって、なおかつ塔で内部調査ができる冒険者じゃないのか?」

 このパーティには、隠密行動を本業とするニンジャの俺がいる。

 何より、かつて“不殺のアサシン”として名を馳せた、潜入ミッションのエキスパートであるハチ子がいる。


「……続きを」

 まだ、欲しがるのか。

 俺もあまり不確定な状態で、予想の全部を曝け出したくはないのだが……

「じゃあ、ここからは完全な想像だ。レイノルズが怪しげな方法……学院にとって禁忌に触れるような魔法で、ゼ・ダルダリアを呼び出した。目的はわからないけどな」

「……そうなのですか? ラナ殿」

 ラナはそこで、ようやく一度だけ頷いた。


「アークさまは本当に、聡明な方ですね」

「そうなんですよ〜そうなんですようぅ〜♪」

 なぜにハチ子が、悶えながら喜んでいるのだ。

 心做しか、パタパタと尻尾を振っているように見える。

「私のもとで魔法を学びませんか?」

「それは、駄目です」

 なぜにハチ子が、辛辣な表情で答えるのだ。

「勉強は苦手っす。で、どうなの?」

 ラナは杖で床を叩きながら、ゆっくり深く頭を傾ける。

「概ね、その通りです。レイノルズさまには、禁忌に触れる魔法や実験をしている疑いがあります。そして、今回の事件。おそらく何らかの儀式で、ゼ・ダルダリアを受肉させた、と私は予測します」

「受肉って……魔法陣で召喚、みたいな感じじゃなく、か?」

「ゼ・ダルダリアは、ゼロ対価で召喚するには大物すぎます。間違いなく人……か、それに変わる生贄を使用しているはずです」

 一気に話がやばくなってきたな。

 そうなると、俺には疑問がまた増えていくのだが……

「恐らく、レイノルズさまの個人での召喚……他の魔術師たちはその尻拭いとして、討伐に駆り出されたのだと思います」


 ……ふむ。


「もしそうなら……レイノルズも、ゼ・ダルダリアは倒したかったんだよな。だったら相手が、ゼ・ダルダリアであることくらい、学院なり冒険者ギルドなりに知らせても問題なかったんじゃないか?」

 いかに使い魔がやられても、また契約すればいいだけだ。

 それに、ゼ・ダルダリアは腐敗の道筋にいる。遭遇を回避することは容易いはずである。

 であるならば、意図的に討伐相手を教えなかったと考えるほうが自然だろう。

「そうですね……たしかに。隠蔽する気もなく討伐を希望していたのなら、情報を開示してもいいはず……」

 ラナが視線を落として思考を巡らせる。

「……討伐はしたかった……しかし相手の情報を知らせなかった……強い冒険者を呼ぶ理由……禁忌の魔法……生贄……召喚……」

 ぶつぶつと、目に見える事実だけを摘み取っていく。

 流石にハチ子も、わかっていないようだ。

「俺の推測だが、いいか?」

 ラナがはっと顔を上げて、小さく頷く。

「ゼ・ダルダリアは、何らかの生贄で召喚された。しかし、何かが不完全で制御できなかった。自分たちで討伐できなかったため、強い冒険者を呼ぶ必要があった。ここまではいいか?」

「はい、概ねその通りだと思います」

「ではなぜ、相手の情報を知らせなかったのか。それはまさに、この状況を作るため……じゃないのか?」

 金色の髪がさらりと落ち、そして何かに気づく。


「ゼ・ダルダリアを討伐した上で、あわよくば毒に侵されて動けなくなった……強力な“竜殺しの称号”を持つ冒険者を塔に招き入れたかった……とかはどうだ? 討伐してもらって、良質の生贄も補充できてで一石二鳥だろ?」


 2人が声を失う。

 どんなに強い冒険者でも、初見であいつの毒をくらわずに倒せるはずがない。

 誰かひとりは毒に侵さて当然というものだ。

「……なんという外道……」

 ハチ子が吐き捨てるように言う。

 全くもって同感である。

「今思えば、解毒薬が俺の分で最後とか……それも嘘じゃないのかね。スリープ状態の2人を、わざわざ解毒してまで起こす必要がないからな。寝たままのほうが向こうも色々便利だろうよ」

 カカカと笑うが、正直おぞましすぎて吐き気がする。

 どうせどこかに、解毒薬も隠し持っているんだろう。


「では……レイノルズさまは、また禁忌を……?」

「なんなら、ゼ・ダルダリアよりも厄介な……それこそ、高位の魔族でも呼び出したいんじゃないのか?」

 ラナが、愕然とした表情を浮かべた。

 仮にも同じ学院に所属している同志なのだ。多少なりともショックを受けたのだろう。

「とにかく今は、鈴屋さんとアルフィーの安全を確保すべきだ。全員この部屋で、まとまった方がいい」

 ハチ子が鍵をかけたとはいえ、そんなもの魔術師なら解錠の魔法で一発だし、合鍵だって普通にもってそうだ。

「この部屋の鍵はラナの魔法で、なるべく魔力を集中してかけてほしい。解除魔法で簡単に解けないレベルで頼む。あと……一応、鈴屋さんたちがいた部屋にも魔法で施錠してくれ。時間稼ぎにはなるだろうし」

「はい、お任せください」

「俺とハチ子さんで、塔を調べる。最優先は解毒薬の調達。次にレイノルズが禁忌を犯した証拠だ。それでいいよな?」

 ラナが頷くのを確認し、今一度深く考える。

 潜入ミッションなんて俺に出来るのか……実際のところ不安しか無いのだが、どうやらそんな事は言ってられないようだった。

次回、ラブコメ全開です。

緊張感どこいった。(笑)

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