鈴屋さんとバトルロイヤルっ!〈3〉
バトロワ、決着です。
……下衆ぃ、度し難いぞ、鈴屋さん!
って内容です。(笑)
メイドインアビスの映画も期待通り、度し難いものでした。ボンボルド編は、やっぱりヤバいなぁ。
ナナチの可愛さも度し難かったです。
ではホットドリンク片手に、どうぞお楽しみください。
「お疲れ様、ハチ子さん」
同情しつつ労いの言葉をかけたのだが、当の本人は顔をうつむかせ、無言のままである。
解除魔法エリアから出るとワンピースも元通りになったのだが……なんというか、もう可哀想としか言いようがない。
顔を真赤にして涙を堪える様子が、声をかけないでほしい、と訴えかけているようでもある。
「しかし、強いな。月魔法の解除魔法が、あの盾の特殊効果なのか」
「空間ごとの、ね。レーナの女湯の入口にも、そんな魔法具が設置されてたはずよ」
たしかに、そうだった。
南無さんが南無子になって女湯に行った時、強制解除された事件を思い出す。
あれはもう不憫で不憫で、いま思い出しても笑ってしまう。
「そ、そ、それ、早く言ってくださいよ。私が、もしこれでお風呂に行ってたら……」
「そのワンピースのほとんどが精霊で出来てるなんて、いま知ったばかりなんだから仕方ないじゃない」
「そう考えると、それってほぼ裸だったってことなんだな」
「……やめてください……ほんとに、やめてください……」
懇願するようにして、ボロボロと涙をこぼし始める。
羞恥の極みってやつだ。
「ハチ子はもう、お嫁にいけないです……」
「おぉ……まさか往年の台詞を、生で聞ける日が来るなんて……」
「……バカなんですか?」
いやしかし、その台詞はかなりレアなんだぞ、と力説しても怒りを買うだけだろう。
「さて……鈴屋さんはどう戦うつもりかな」
見た感じは、圧倒的に鈴屋さんが有利だ。
何せ、ヴァルキリーを召喚している時点で「2対1」なのだ。
これをどうやって、アルフィーが切り崩せるのか。
「……しかしですね、アーク殿……」
ハチ子が、涙を拭いながら続ける。
「鈴屋は自ら“相手に怪我をさせたら負け”と言ってました。私やアルフィーは寸止めによる加減ができますが、魔法攻撃は加減の調整など出来ないと思うのですが……」
「たしかに……精霊相手にそんな複雑な命令もできないだろうし……そもそも、鈴屋さんって火力お化けだし……」
「あんたらねぇ……」
南無子がため息を混じえながら、心底呆れた表情を浮かべる。
「鈴ちゃんは、精霊魔法使いの最上級職である“サモナー”なのよ。つまり精霊魔法は、ほぼマスターしているの」
南無子が何を言いたいのか、イマイチ掴めない。どちらにしろ、精霊魔法も加減は効かないと思うのだ。
「あんたまさか、精霊魔法って攻撃呪文しかないとか思ってない?」
「……へ、違うの?」
「呆れた……精霊魔法って行動阻害魔法のオンパレードじゃない」
「えぇ、そうなの? だって、そんなの使ってるとこ見たことないぜ?」
「それはゲーム内だと、ボス敵には問答無用で効かない仕様だったからでしょ。雑魚戦の効率周回でも“火力でドカーン”だし、使い所が難しかっただけよ」
「そんな魔法いつ使うんだよ」
「普通に冒険してたら使うわよ。あんたらが、イベクエで効率戦闘しかしてこなっただけでしょ」
言われてみれば、たしかに俺たちは冒険らしい冒険などせずに、イベント戦闘を効率よく周回するか、戦争イベで暴れまわることしかしていない。
まぁ、本人も火力ゴリ押しが好きなプレイスタイルなわけだし、より一層に使う機会がなかったのだろう。
「だから“それでも鈴ちゃんが強い”って、私は言ったのよ」
ツインテールをかき上げながら、半目で鈴屋さんの方を見る南無子の横顔は、どこかつまらなそうだった。
「まさか鈴やんと、やり合える日が来るなんてねぇ」
サーベルをくるくると回しながら、アルフィーが距離を詰めていく。
「降参するなら今のうち、かな。アルフィーに勝ち目はないと思うよ?」
通常、その台詞は盛大な負けフラグなのだが、鈴屋さんは運営が用意したイベントを台無しにしてしまうほどの実力を持っている。フラグなど笑顔でへし折るのが、鈴屋さんなのである。
「あはぁ、鈴やん。ヴァルキリーだけであたしに勝てると思ってるん?」
「んん〜、勝てると思うけど……うん。じゃあ私が、地味な魔法でちゃんと戦ったら、どれほど強いのか教えてあげる」
そう言って、鈴屋さんが右手を上げる。
「ヴァルキリーさん、もういいよ。おつかれさまぁ〜」
まるで、バイト終わりのような軽いノリで精霊を送還すると、顎に指をあてて考える素振りをみせる。
「そんなんして、いいん? それとも違う化け物でも召喚するつもりなん?」
「ん〜、どのみち傷を負わせられないんだもん。召喚魔法は使えないし、どう料理しようかなぁって考えてるの」
ピキッ!
明らかにアルフィーの表情が変わる。そこまでコケにされては、黙っていられないのだろう。
「魔法なんか、使う前に斬ればいいだけなん!」
なんとも大雑把な考え方だが、実にシンプルで有効的な作戦だ。たしかに、魔法使い相手に戦士がとれる最良の作戦は、先手必勝の一手に限る。
「泣いても慰めないかんねっ!」
アルフィーが気を吐きながら、一気に草原を駆け抜ける。
その速さはハチ子に匹敵しかねないのだが、やはり鈴屋さんに焦りはない。
それどころか、緊張感すらない。
「ん〜と、じゃぁ……スネアーっ!」
鈴屋さんが可愛らしい声で、何かの呪文名を叫ぶ。
そして、その効果はすぐに現れた。
「うぇっ、んなぁぁぁっ!」
突如としてアルフィーはバランスを崩し、派手にすっ転んでしまう。
そしてしばらく何が起きたのか理解できずに、目を丸くしたまま鈴屋さんの方を見上げていた。
「ぷぷぷ〜、かっこ悪ぅ〜」
「んなっ、なななっ!」
アルフィーが顔を真赤にして立ち上がるが、その瞬間にまたしても……
「スネアーっ!」
ズデンッ!
その場でひっくり返ってしまった。
「土の精霊魔法ね。目標を転倒させるだけの……」
南無子の解説に、俺とハチ子は呆けるように口を開けたままだ。
「なんっ!」
「スネア!」
ズデンッ!
「こ、この……」
「スネア!」
ズデンッ!
「ちょ、待っ……」
「スネア!」
ズデンッ!
もはや可哀想すぎて、見るに堪えない。
しかしアルフィーも、戦士としてのプライドがあるのだろう。
立ち上がるのを諦めて、ズリズリと匍匐前進をしながら鈴屋さんに近づいていく。
「ん〜、スカートでそんな格好していいのかなぁ〜?」
「う、うっさいん。絶対に斬ってやるかんね!」
「んもぅ〜、こわいなぁ〜」
そんなことを笑顔で言うあなたが一番怖いですよ、鈴屋さん。
「ん〜と……じゃぁ、バインディング!」
またしても、知らない呪文を唱える。
すると草原から、何本ものツタがウネウネと生えはじめた。
「植物系の精霊魔法ね。あれも、動けなくするやつよ」
なぜにお前はそんなにクールなのだ、南無子さん。
ツタは、そのまま地面を這うアルフィーの身体へと絡みついていった。
そして見事に、その動きを完全に封じてしまうのだ。
「むあぁぁぁぁっ!」
「動くと食い込むよ〜?」
鈴屋さんの言葉通り、もがけばもがくほど、ツタはアルフィーの肢体に食い込んでいき……
「……いや、あの、ちょっとエロいっすよ、鈴屋さん……」
「んふふ〜、私を怒らせると怖いんだからね」
恐ろしい、全くもって恐ろしい。
「まだまだっ!」
アルフィーが、海竜の盾を掲げようとする。
解除魔法を発動させる気だ。
「はい、サイレンス!」
「…………っ!」
この魔法は知っている。風の精霊魔法で、あらゆる音を消す空間を作るってやつだ。
通称魔法使い殺し……なのだが、今は完全にアルフィー殺しである。
悲しいかな、口をパクパクと動かしているだけで、ディスペルを発動させられない。
「ん〜どうかな〜、まだやるのかなぁ〜?」
「…………! ……、…………っ!」
「あれぇ〜? なんて言ってるのか、聞こえないなぁ。どうしようかなぁ〜、スリープで眠らせて悪戯しちゃうかなぁ〜?」
「…………っ!」
涙目だ。
あのアルフィーが、涙目だ。
きっと「参った」と叫んでいるのだろうが、それすらも聞こえない。
「あー君、どうする〜? スカートでもめくってみる〜?」
「…………っ!」
さすがラスボス、えげつないことを言う。
アルフィーがめちゃくちゃ首を横に振って、俺に助けを求めてくる。
さすがに、これはもう見ていられない。
「もう、やめてやれ。勝負は決したぜ。鈴屋さんの圧勝だ」
「イ・エース! おまえらまとめて100年早いんだよぅ!」
勝ちポーズ付きで喜ぶ鈴屋さんに、俺達は二度と逆らうまいと思うのだ。
勝利台詞的に、鈴屋さんも格闘ゲーム経験者のようです。(笑)




