鈴屋さんとバトルロイヤルっ!〈2〉
バトロワの2話目です。
誰が勝つのか予想してください。(笑)
それでは、息抜きついでに鈴屋さんでもどうぞ。
「なんだろうか、これ。デジャブ的要素を感じるのだが……」
レーナの街から少し離れた小高い丘の上で、俺は胡座をかきながらボヤくように呟いた。
「前に鈴ちゃんとハチ子さんが、ここで似たようなことをしてたわね。そしてあの時も、なぜか関係のない私まで巻き込まれた気がするわ」
「そうだ、確か……お酒で勝負とかいう、鈴屋さんが圧倒的に不利なやつ……」
隣で体育座りをする南無子が、うんうんと何度も頷く。
ちなみに、その間違いだらけの提案をしたのは俺だったりする。
「しかしまぁ、一人増えたら、ガチバトルになっちゃうのねぇ」
「ガチって……怪我でもしたらどうすんだ」
「あんたは誰かと喧嘩をしたとして、双方無傷で終わるとでも思ってるわけ?」
もちろん、それは理解している。
だがしかし武器と魔法を使うのだから、殴り合いの喧嘩とは別物すぎるだろう、という話なのだ。
この場にプリーストが、2人もいるということだけが唯一の救いだ。
「あの3人も馬鹿じゃないんだから、殺さない程度でやるでしょ」
「南無子は大人だなぁ。ほんとに、中身は15歳なのかよ」
「……あら……だとしたら、いくつに見えるのかしら?」
「20代、OL」
即答すると、南無子が少しだけ驚いたように目を見開き、やがて笑い出す。
「それなら、アークより年上になるんだけど?」
「まぁ南無子は、それだけ気苦労が多いんだろうよ。なんせオッサンに転生だからなぁ」
「……おかげで、あんたの薬がないと生きていけない体になってしまったわ……」
そんな、俺が薬漬けにしたみたいに言うなよ、人聞きの悪い……と、つい口にしてしまったが、考えてみれば本当に不憫な娘である。
「始まるみたいね。私的には、私が全装備をプロデュースしたアルフィーに勝ってほしいけど」
「……もうこれ、俺って、そんなに関係ないよね?」
「そうね。ハーレム的な要素よりも、単純に強さのランキング付けをしたいって感じね。で、あんたは誰が勝つと思ってるの?」
「……ほんとに本気を出せば鈴屋さんの圧勝だろうけど……手加減するなら、ハチ子さんが強いんじゃないか?」
南無子は、ふむ……と顎に指を当てて一考し、小さく頷く。
やがて何か思い至ったのか、僅かに口元を緩ませた。
「……まぁ、それでも私は鈴ちゃんが強いと思うけどね」
その確信めいた言葉には、妙に説得力があるように感じられた。
丘の上で対峙する、3人の少女たちに緊張の色はない。
お互いが強さを認めあっているからこそ、ただ純粋に自分の力量を測りたいのだろう。
「ルールは……ん〜、そうだね。相手を怪我をさせたら負けで、負けたと思ったら片意地はらずに降参と自己申告すること、でいいかな?」
「そんでいいよ〜」
アルフィーがサーベルを引き抜いて、くるくると回し始める。
「ハッチィにはこないだ負けたけど、今回はあたしも装備変わってるかんねぇ〜?」
「侮るつもりはありません……が、アーク殿が見ている以上、負けるわけにもいきません」
ハチ子が冷静な眼差しで返す。
「あはぁ、たぎるねぇ〜」
歴戦の傭兵と、元アサシン教団というだけで、見ているこちらが緊張してくる。
むしろ「鈴屋さん、大丈夫なのか」と心配になるが、意外と落ち着いた表情をしていて、なんだか逆に怖い。
「んじゃぁ、とっとと始めちゃいなさい」
南無子が気の抜けた試合開始の号令をかけると、3人が同時に動き出した。
まず最初に攻撃を仕掛けたのはハチ子だ。
「一番厄介なのは……」
迷うことなく鈴屋さんに向かって一気に間合いを詰め、そのままシミターを振り下ろす。
青い残像を残しながら迫りくる剣閃に、しかし鈴屋さんは顔色一つ変えることなく精霊の名前を呼んだ。
「ヴァルキリー!」
名前を呼ぶだけで召喚できてしまう、この世界ではチートすぎるスキルにハチ子が眉を寄せる。
何せ、その刀身による攻撃も、残像による斬撃も、ヴァルキリーの構える大盾によって、あっけなく弾かれてしまったのだ。
「やはり……厄介っ!」
当然だ。
金色の鎧に身を包む女騎士は、シメオネや海竜の一撃すら防ぐ盾を持っている。
あげく、背中とくるぶしには光の翼が生えていて空も飛べるし、強力な投擲槍も放つ。
物理主体の戦士相手には非常に強力な、攻守ともに最強クラスの精霊なのだ。
「さぁ、私は傍観してるから、先に2人で決着つけて?」
余裕のセリフである。
俺なら、2人で協力して先に鈴屋さんをどうにかしよう、と提案するだろうが……
「まぁ、鈴やんはラスボスなん、わかってるん」
「……仕方ありませんね。アルフィー、まずはあなたと決着をつけましょう」
もうこうなるとトーナメントに近い。これも鈴屋さんの計算通りなのだろう。
仕切り直すように2人は距離を取り、体を向かい合わせる。
「では……行きますよ、アルフィー」
やはり先に動いたのは、ハチ子のほうだ。
先に牽制の剣閃で結界を描き、鋭くアルフィーにシミターを突きつける。
アルフィーは瞬きもせずにその剣先を目で追いかけ、それを難なく受け流すと、カウンターの一撃を結界の隙間を縫いながら鋭く返す。
その冷静さと正確さは、さすがという他ない。
たまらず距離を開けようとするハチ子に、そうはさせないと、さらに距離を詰めていく。
徹底した『後の先』による、守り攻めだ。
これほど、やりにくい相手はいない。
「ならば……!」
ハチ子が、でたらめにシミターを振り、斬撃の網を作り出す。
まさに、進軍を拒む斬撃の壁……さすがにこうなっては、アルフィーも……
「セイクリッドシールド!」
叫び声とともに海竜の盾に神の加護が宿ると、バチンバチンと甲高い音と衝撃を生みながら、ことごく斬撃を弾いていく。
「なんと!」
今度はアルフィーが、止めとばかりにサーベルを突きつける。
「ダークネス!」
ハチ子が「これは回避できない」と判断し、ワンピースに宿る闇の精霊の力を開放する。
すると瞬時に闇の霧が生まれ、スルリとサーベルを通り抜けて、そのまま数メートル後方へと移動してしまう。
闇はすぐに霧散するように消えていき、その中から再びハチ子が現れた。
「まったく。厄介なんは、そっちなん〜!」
アルフィーが、嬉しそうに構え直す。
息をもつかせぬ攻防に、俺は思わず感心してしまう。
確かにあの無敵移動、消費する精神力がどれほどかはわからないが、かなり強力だ。
「あれは、やばいな。なんならヴァルキリーも通り抜けて、鈴屋さんに攻撃できるんじゃないか?」
「……そうねぇ、相性的にはそうなんだろうけど。ただ、相性でっていうなら、今回はアルフィーが有利ね」
南無子が両手を組んで、不敵な笑みを浮かべる。なにか、装備に細工でもしてあるのだろうか。
「ハッチィ。あの時、私のパリィを抜いた技、見せてみぃよ〜?」
白毛の戦士が、いつもの挑発モードで、サーベルをくるくるとさせて言う。
「なにか策があるようですね……いいでしょう。では今一度、あの時の技を使いましょう」
ハチ子も、どこか嬉しそうだ。
見てみたいのだろう、己の技をどう破ろうとしているのか。
「行きますよ……フォーグ・オブ・ダークネス!」
ハチ子が『フロム・ダークネス』に宿る闇の精霊シェードに、術の行使を命じる。
すると、たちまちハチ子を中心に闇の霧が生まれ、爆発するように広がっていく。
その暗闇は、アルフィーまでも飲み込んでしまった。
「目くらましの精霊魔法か!」
闇の霧を生み出すシェードの力でアルフィーの視界を奪い、闇の中を移動して攻撃をする……なんて恐ろしい技だ。アサシンであるハチ子に、うってつけの戦い方だといえる。
しかし隣で悪役のような笑みを浮かべる南無子に、悪い予感しかしない。
「ディスペル・フィールド!」
暗闇の霧の中で叫んだのは、アルフィーだ。
聞いたことのない呪文に、それが神聖魔法ではないとすぐに理解する。
「んなっ!」
ハチ子の驚きの声とともに、闇の霧が一瞬にして晴れてしまう。
その中央では、海竜の盾を天に掲げるアルフィーが満面の笑みを浮かべて立っていた。
「あれこそが『海竜の角』の特殊効果、あらゆる魔法の効果を解除するディスペルよ!」
たしかに解除魔法は月魔法にも存在するが、空間丸ごとディスペル状態にしてまうとか聞いたことがない。
「な、な、な、な、ななななっ、きゃぁぁぁぁ!」
驚きは、やがて悲鳴に変わる。
「あぁ〜……、あのワンピースって、ほとんどシェードの力で出来てたのね……」
気の毒そうにしながら、同情を混じえて引きつった笑みを浮かべる南無子に、俺は同意するしかない。
そこには、ディスペルで闇の精霊の力が解除されてしまい、ワンピースごと消されてしまったハチ子が、蹲るようにして座り込んでいたのだ。
「どどどど、どうしてぇーーっ!」
「あぁ〜ごめん、ハッチィ。このフィールドから出れば、解除の効果はなくなるから、多分ワンピースも元に戻ると思うんよぅ〜。んでもぅ〜、そう簡単に出すわけにはぁ〜、いかないよねぇ〜?」
ニマニマとするアルフィーに、ハチ子が顔を真っ赤にしつつ涙目で睨み返す。
「わ、わかったから、わかりましたから! 私の負けです!」
かくして、アルフィーは見事(平和的に?)リベンジを果たしたのである。
最近、ハチ子さんが散々な目にばかり合っているような気が…(笑)




