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鈴屋さんとバトルロイヤルっ!〈1〉

久々のフルメンバーです。

楽しんでもらえれば幸いです。

 遅く起きた朝の『碧の月亭』で、いつもの顔ぶれが思い思いに朝食を楽しんでいる時のことである。


「今日、来るみたいだよ?」

 透き通るような水色の髪を、ルーズ感のある“お団子スタイル”に結った鈴屋さんが、ホットミルクを持って円卓に現れる。

 髪の結い方が複雑すぎて、男の俺には作り方をまったく想像できない。これで本当にネカマなら、努力のベクトルを間違えていると言わざるを得まい。


「その髪、どうなってんの?」

 思わず的外れな返事をしてしまい、鈴屋さんが怪訝な顔をする。


「メッシーバンって言う結び方なの。それよりもあー君、私の話きいてた?」

 俺としては、その無駄に高い女子力を追求したいところなのだが……

「誰か来るとか、なんとか?」

「うん、南無っち。装備が完成したから持って来るんだって〜」

 思わず、おおぅっと手を打つ。

 そういえば南無子の存在を、すっかり忘れていた。

「……ふたりともミケに夢中で、忘れてたんでしょ?」

 ジト目の鈴屋さんに対し、俺とアルフィーは顔を見合わせて申し訳無さそうに頭を掻いた。

 実際、ミケがいた時はそれどころではなかったのだ。

「不憫ですね、南無子殿……」

 お茶のようなものに口を付けながら、ひどく同情しているのはハチ子だ。

 出会った頃よりも少し伸びた紺色の髪を、珍しくポニーテールにしていて、とてもよく似合っている。

「……いやまぁ、ニンジャ刀はともかく、俺のオロチは決戦用だからな。普段はテレポートダガーがあればなんとかなるし……」

「あーちゃんはいいけど、あたしは丸ごと全部だかんね。これでやっと、冒険の依頼受けれるようになるん」

 朝からステーキを頬張る白毛の女戦士も、いまや見慣れた風景だ。

 最近は武装をしないせいか短めのスカートなんぞ履いており、実は誰よりもスタイルがいいだけに目のやり場に困って仕方がない。

「もう何を頼んだのかすら、覚えてないけどな」

 そういえば、代金の話を一切してなかったが……まぁ、踏み倒せるだろうと高を括っていたりする。

「アルフィーの盾とサーベルと……それからスケイルメイルでしょ。あー君のダガー7本と、ニンジャ刀だよ。南無っち、かなり大変だったと思うんだけど……」

「そんなに頼んでたんだっけか。もう、多すぎて覚えてなかったぜ」

 カカカと笑い飛ばしたその時だった。


「ほほぅ〜、面白いこと言ってくれるじゃない」


 背後に生まれる強烈な殺気に、俺の笑い声がピタリと止まる。

 いま振り向けば死ぬ……そう直感し、助けを求めるように鈴屋さんの方へと視線を送るが、すでにマグカップで口元を隠して“関わらないで”モードに入ってしまっている。


「あーくぅ〜、ちょぅ〜っと話があるんだけど、いいかしら?」


 甘えるような声の裏に、ものすごい殺意の波動を感じる。

「はっ、ハチ子さん!」

「……味方をしたいのは山々なのですが……」

 憐憫のまなざしで返すハチ子に、俺の死が近いことを察する。

 いや、まだだっ!

「アルフィー!」

「あたしは、ちゃんと感謝してるん〜。あーちゃんとあたしの子供はぁ〜、あたしが立派に育てるからぁ〜、安心していいん〜」

 手をヒラヒラとさせながら、さらっと爆弾を混ぜるアルフィーに、俺の心臓は止めを打たれた思いだ。


「あらあらぁ……どういう意味かしらぁ? 私が一生懸命・缶詰状態で鉄を打っている間に、いったい何があったのかしらぁ?」


 俺の後頭部で、バスンッバスンッと拳を手のひらに当てる音がしていて、生きた心地がしない。

「あたしなぁ、あーちゃんとなぁ、金の満月の夜になぁ、ここの屋根の上でなぁ、豊穣の契を交わしたんよぅ〜」

「おま、なに言って……」

 ニヤニヤしながらフォークをくるくる回すアルフィーに、俺は為す術がない。

 このモードのアルフィーは無敵である。

「アーク殿は……ハチ子と一献の約束をしておきながら、先にアルフィーと……しかも……ほっ…ほぅっ……豊穣の契をしたというのですかっ?」

「待て、ほんとちょっと待ってくれ! いつもの誤解だ!」


「問答無用! この、女の敵っ!」


 バゴンッ!


「ふぎゃっ!」

 俺は朝から破壊僧の鉄拳制裁を受けて、あっさりと昏倒してしまった。




 俺が自室のベッドで目を覚ました時には、部屋の中が武器と防具の展示場のようになっていた。

 床には南無子が魂を込めて作った装備が並べられていて、鈴屋さんたちが興味深そうに見入っているところだ。

「あーちゃん、見て!」

 アルフィーが嬉しそうに笑みを浮かべながら、青白い鱗で作られたスケイルメイルに身を包み、美しい装飾が施された銀色のサーベルをくるくると回す。

「その鎧はバジリスクの鱗で作ったから、か・な・り・硬いわよ」

 絶対領域とツインテールがよくお似合いの南無子様が両手を組みながら、ドヤ顔で言い放つ。

「よくそんな希少素材、手に入ったな」

 俺はまだ痛む後頭部をさすりながら、体を起こす。

 見た感じ、誤解は解けたようだ。

「あんたと鈴ちゃんがドワーフんとこ行ってる間に、ハチ子さんが狩ってきてくれたのよ」

 ふふんと鼻を鳴らす南無子に、そこはお前がドヤるところじゃないだろ、と突っ込みたくて仕方がない。

「……ていうかバジリスクって、そんな“一狩り行こうぜ”的な感覚で狩れる化け物だっけ?」

 それこそグリフォンに匹敵する強さだったと思うのだが……しかし、ハチ子は静かに首を横に振り、笑顔を浮かべた。

「アルフィーの部隊の方々に手伝ってもらったのですよ。私が見晴らしのいい所までおびき寄せて、遠くから弓を撃ち続けただけです」

 なるほど、『フロム・ダークネス』の力で回避しつつ、矢の雨を降らせたってことか。

 その戦い方は、冒険者の討伐ではなく、もはや戦争だ。

 またなんか、お礼をしないとなぁ……

「あのさ、ハチ子さん。俺がいない時に、討伐とか……そういう危ないクエは、あんまり受けないでくれよ?」

 ハチ子が少し驚いた表情の後、少し嬉しそうに頷く。

 俺の知らないところで危険な目に合うとか、本当に勘弁だ。もし何かあったら、俺は一生悔いることになるだろう。


「そういえば、例の盾は?」

「ふふん~、もちろんできてるわよ」

 どうやら今日は、南無子のドヤ顔が止まりそうにない。

「これぞ私の最高傑作、海竜の盾よ!」

 南無子は、竜の彫刻が施された青白い光を放つスモールシールドを、猫型ロボットばりに天に掲げる。

「おぉぉぉぉ!」

 一同が歓声をあげると、南無子はさらに胸をそらして自慢気に語りだした。

「例のハンマーで粉々にした赤い角を使って、鍛えに鍛えた盾よ!」

「南無ちゃん、すごい! かっくいぃん!」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも。見た目だけじゃなく、この盾には特殊効果まで付いてるんだからね!」

 嬉しそうに盾を手にするアルフィーを見ていると、もうこいつに俺の攻撃は1ミリも通らないのではなかろうかと思ってしまう。それほどに、新装備で完全武装したアルフィーは強そうに見えた。

「あーちゃん、どう?」

「死ぬほど似合ってるし、死ぬほどかっこいいと思うぜ」

「えへへへぇ〜」

 嬉しさのあまり、戦いたくて仕方ないといった感じだ。

「あれ? それで、ドワーリンは?」

 ハンマーを使い終えたなら、もうお役御免なはずだが……

「あんた……ちょっと、ニンジャ刀とかも見てよ」

「……んなもん、前と同じだろ?」

「ちゃんと見なさいよ! 今回は“ダマスカス鋼”っていって、インゴット内にカーバイドの層構造を……」

 なんだかよくわからない単語を並べ始める南無子を無視して、とりあえず言われるがままニンジャ刀をずらりと抜いてみる。


「おぉ……」


 思わず感嘆のため息がもれる。

 その鈍く光る刀身には、独特な縞模様が浮かび上がっていた。

「あー君、なにそれ……すごい綺麗……」

 鈴屋さんが思わず息を呑む。

 木目とも波ともとれる模様が、これまで見てきた武器とは一線を画している。

 それはとても妖しく、ただただ魅入られるほどに美しい。

「見た目だけじゃないのよ。“ダマスカス鋼”はね、圧倒的な切れ味と錆びにくさ、そして硬さをも兼ね備えた、生産武器の中で最強と謳っていい大業物なの!」

「……さいつよだと?」

「まぁ~もちろん、否・魔法の武器ってカテゴリーの中でだけどね」

「……いや、それでも凄すぎるだろ。そんなものまで、作れるようになったのかよ?」

「ん~、ここに来る前から、“ダマスカス鋼カタナの製造”スキル自体は持ってたんだけどね。必要素材がわからなくて……きっと海竜の鱗を混ぜたのがよかったのね〜。それにね、“ダマスカス鋼カタナの製造”は、上級鍛冶マスターの専用スキルだから、上級職がないこの世界の鍛冶師には習得できないの。つまり、この世界に1本しかない武器ってわけ」

 なにそれ、男心くすぐりまくりな熱い武器。

 ……まじですごくないか、この破戒僧……

「他にもね〜“荒神・裏八式・八岐之大蛇”も新しく……」


 ……と、尚も説明を続けようとしていると、突然バーンと大きな音を立てて扉が開かれた。


「南無子姉さん、帰りの分のテレポート、手続きしてきたよ!」


 そう言って元気に入ってきたのは、赤髪のちびっこドワーフだ。

 背中には例のハンマーが背負われている。

「おぅ、ドワーリン。南無子と仲良くやってたか?」

「あっ、お兄ちゃん。もちろんだよ!」

 何故か南無子の舌打ちが聞こえるが、ここはあえて聞き流そう。

 相当苦労させられて、フラストレーションが溜まっているのだろう。

「あれ、また人が増えてるね、お兄ちゃん」

 ドワーリンが、興味深そうにアルフィーを見つめる。


 そういえば、今日のアルフィーはスカートである。


「ドワーリン、その人はアルフィーっていうの。種族は何だと思う?」

 言い出したのは鈴屋さんである。

 それに対し、ハチ子があからさまに嫌そうな表情を浮かべる。

「……鈴屋、あなたという人は……」

「しーっ、みんなされてるんだもん。ここはアルフィーにもされてもらいましょ!」

 いたずら心に火が付いたのか、なぜか楽しそうだ。


 話の内容が理解できずにキョトンとするアルフィー。

 ドワーリンは、アルフィーの方を首をかしげながら見上げて……


「アイデンティフィケーション!」


 ノーモーションで繰り出される必殺の一撃に、アルフィーの右手が閃く。

 なんとアルフィーは、ハチ子ですら反応できなかったアイデンティフィケーションを、右手一本で止めたのだ。


「あんた〜、なにするつもりなん?」

 右手首を掴まれたドワーリンは、驚きの表情を浮かべている。

 絵的には、痴漢の現行犯逮捕である。


「まだまだァ! ダブル・アイデンティフィケーション!」


 めげずに最速で左手を持ち上げるドワーリン。

 クリティカルヒットともいえる鋭い動きでスカートの裾を掴むことに成功するが、かろうじてアルフィーが手首を掴んで阻止をする。

「んな……な……なに、この子!」

 右手を封じつつ、左手で力任せに持ち上げようとするドワーリンに、珍しくアルフィーが顔を赤くしながら焦りの色を浮かべていた。

 それはそれで非常に燃えるシチュエーションなのだが、残念ながら俺は紳士だ。

 いけぇ、ドワーリン!と、鈴屋さんが右手を振り上げながら応援しているが、俺はそんな鈴屋さんを尻目に、助け舟を出すことにする。

「おい、ドワーリン。アルフィーはワーラットの女だぜ」

「……へぇ、そうなんだね!」

 そしてドワーリンは、あっさりをその手を下げた。

 純粋に種族と性別を知りたいだけで、スケベ魂がないのだから折れるのも早い。

 というか、ドワーリンが『アイデンティフィケーション』を使うたびに、なぜか俺が痛い目に合うのだ。

 それも等価交換とはとても言い難い、理不尽極まりないレベルの報復ばかりである。

「あー君、なんで邪魔するの!」

「えぇっ?」

「アーク殿、なぜアルフィーだけは助けるのですかっ!?」

「えぇぇぇー?」

「……男の風上にも置けないわね、あんた……」

「いやいやいや、いくらなんでも理不尽だ!」

 見たら見たで謎の報復を受け、紳士的に阻止をしたら、この言われようである。

 理不尽にもほどがあるだろう。

「あーちゃんは、本妻に対して特別優遇するタイプなん。今のん、ちぃとばかし嬉しいん~」

 話をややこしくする天才が、うっとりした目で俺を見つめてくるので、俺はプルプルと首を横に振って否定した。

 しかし、それも手遅れのようだ。

 最近ずっと温厚だったハチ子も、遂に堪忍袋の緒が切れたのか、シミターに手をかけて震えている。


 しかしその中でも、思いのほか強く反論をしたのは鈴屋さんだった。


「……本妻とか、ちょっと待ってくれるかな?」


 声のトーンでわかる。本当に怒っているときのやつだ。

「そうですよ、アルフィー。本妻はともかく、この“世界”で……いえ、このレーナにアーク殿がいる間は、私も譲る気はありません!」

「……えっと……ハチ子さんは、何を言ってるのかな?」

「少なくとも“ここ”にいる間は、鈴屋にも譲る気はない、と言っているのです」

「あの〜おふたりさん。あたしは、あーちゃんと豊穣の契をしてるんよ?」


 なんとなく出来上がっていた『天下三分の計』が目の前で崩壊しようとしている恐怖に、俺は逃げ出したい思いでいっぱいだ。この後に待っている大戦争……バトルロイヤルである。

「ちょっと待て、落ち着こうじゃないか」

「あー君は、ちょっと黙っててくれるかな。これは私たちの問題なの」

 その鋭い眼光に、俺はあっさり引っ込む。

 ついで、恐らく中立であろう南無子に視線を送るが、もうなんというか、ただただ呆れ顔で返されてしまった。

「……あのさぁ、アーク。私ら、帰っていいかしら?」

「えぇ! いや……頼む、南無子様。俺を置いていかないでくれ!」

 しかし南無子は極めて冷たく言い放つ。

「1回、好きなだけやらせればいいじゃない」

 その無責任極まりない言葉に、3人が顔を見合わせて、やがて不敵な笑みを見せ始めた。


「そうですね、この際です。誰が一番強いのか、はっきりさせましょうか」


「あはぁ~、それは望むところなんねぇ」


「……ふぅん。まさか2人とも、私に勝てるとでも思ってるんだ?」


 そして遂に、三つ巴のバトルロイヤルが始まってしまった。

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