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鈴屋さんとミケっ!〈4〉

けっこう意識的に端折ってるんですが、なんか思ったよりも長い話になってきました。


ミケ編第4話です。

「なぁ〜」

 

 ぺちぺちっ!


「なぁ〜なぁ〜」


 ぺちぺちっ!


「なぁ〜……」

「……………………んあぁ、なんだよ、もう」

 俺の大切な安眠を、紅葉のような可愛い手で阻害してきたのは、ミケで間違いないようだ。

 眠い目をこすりながら窓の外を見てみると、薄ら青い空から日の光が斜めにさしていた。

「うげぇ……まだ、日が出たばっかりじゃん。早ぇって……」

 ここ数日の慣れない子育てで、すっかり疲れ果てていた俺には、この強制起床はきついものがある。


 何せ、このミケ。

 目を離せば、おぼつかない足取りで何処までも歩いていくし、目に入った物はとりあえず口に入れるし、すぐに泣くし、やたら抱っこを強要してくるし。

 とにかく目が離せなくて、俺はと言えば振り回されっぱなしなのだ。

 鈴屋さんとハチ子も手助けはしてくれるのだが、ほぼ俺にベッタリなので負担が段違いである。


 まぁ……思いのほか、アルフィーが文句を言いながらも、かなり助けてくれているのだが……


「パパぁ〜、パパぁ〜」

「なんだよ〜それ以外になんか喋れよ〜。そもそも、お前、アルフィーんとこで寝てたはずだろ〜?」

「ママぁ?」

「そう、ママだよ。……いや、ママじゃないけど。なんで、ここにいるんだよ?」

「ママぁ!」

 ミケが琥珀色の瞳をキラキラと輝かせて、俺の背中側へとダイブする。

 すると背中越しで「ふぎゃ」と、小さな悲鳴が聞こえた。

「なんよぅ、もうちょっと寝かせてぇなぁ」

 アルフィーが、まとわりついてくるミケを引き剥がすようにして体を起こす。

 相変わらずの薄着だ。寒くないのだろうか…………じゃなくて!

「お前、なんでここにいるの?」

 しかしなぜかアルフィーは、目を半開きにして呆れたご様子だ。

「あーちゃん、あんなぁ……ここ、あたしの部屋なん」

「へ……?」

 ガバリと起きて、辺りを見回す。

 たしかにここは、俺の部屋ではないようだ。

「あたしとミケが寝てたら、あーちゃんが急に入ってきて、そのままベッドにバターンって……」

「……まぢですか?」

「夜這いかと思ってドキドキしたん〜。なぁ〜、ミケ〜」

「なぁ〜なぁ〜」

 たらりと冷や汗が流れ落ちる。

「あーちゃん、疲れてたんねぇ〜。起こすのも何だし、そのままにしてたん」

「……それはそれは……」

「それを〜、お前なんでここにいるの……って、かなり酷いと思うんよ〜」

 アルフィーがニヤニヤと笑みを浮かべながら、背中から抱き着くようにして腕を回してくる。

 その直接触れる柔らかな肌のぬくもりに、激しい情動が生まれ、翻弄されそうになる。

 俺は必死でそれを抑えつけ、冷静さを保たせていた。

「あーちゃん、あったかかったぁ〜」

「……やめないか、子供が見ている」

「もう寝てるよ?」

 見れば、確かにミケはアルフィーの横で丸くなり、寝息を立て始めていた。

 なんという平和な奴なのだ。

「……なぁ、あーちゃん……」

「んん?」

「この子、親が出てこん時はどうするん?」

 それは俺の頭の片隅でも、何度かよぎっていた。

「そういう施設に相談とか……?」

「……施設って?」

 この反応は……この世界に児童養護施設のようなものはないということか……

「普通は……どうしてるんだ、この辺りの住人は」

「ん〜〜、普通は拾わんし〜。キャットテイルは、下手したら奴隷商人とかに売られそうかなぁ」

「あー、ない。それはないな」

 顎に手を当てて一考する。

 ……捨て子か、迷子かで結論が大きく変わるのだが……

「まぁ、親を探すってぇのは辞めるわけにいかないだろうよ。もし親が探していたら、あまりに可哀想だしな」

「んでも……捨てられたのか、迷子か、はっきりしぃひんままだったらどうするん?」

「それは……はっきりするまで、面倒見るしかないだろうよ」

 しかしそれは……と、心の中で続ける。

 それは、必ず情が移ってしまうだろう。

「あたしは……」

 アルフィーが一度、言葉を区切る。

 次に続く言葉は、きっと軽はずみな考えから生まれたものではない……そう読み取れていた。

「あたしは、育てたい…ん」

「…………」

 それは、ただの情だろう。

 もしかしたらアルフィーは、こうなることを予想していたから乗り気じゃなかったのかもしれない。

「あーちゃんが嫌なら、あたし……ラット・シーで預かってもいいんよ」

「あのなぁ……俺って、ここで投げ出すほどいい加減な男に見えるか?」

 肩を揺らせて苦笑するが、アルフィーは静かに首を横に振る。

「思ってないよ。でも、この子に親が必要なら、それは父親もって話になるん……」

 それは、暗に「夫婦になって育てる気はあるのか」と、言っているようにも受け取れる。

 アルフィーは積極的過ぎるから、勘違いしてしまいそうだ。

「このままここで、みんなで……って、選択肢もあるぜ?」

「ん〜でも、いつかきっと重荷になると思うん。みんな、それぞれの人生があるんよ」

 確かにそうだ。

 そもそも俺と鈴屋さんは、いつまでもこの世界にいるとは限らない。

 ハチ子だって、誰かいい人を見つけるかもしれない。

 そもそも、この子の一生を背負う覚悟とは、イコール、ここに一生残るということではないのか。

 しかしそれは……と、考える。

 それならば、アルフィーに任せることが正しいのだろうか。

 それで、本当にいいのだろうか。

「……いや……やっぱり、まずは親探しだろ。その先のことは、そのとき考えよう。あっさり親が見つかって、ただの迷子だったら、別れが悲しくなるだけだぜ?」

「もう十分、悲しいかもね〜」

 ぎゅうと腕に力が込められる。

 その力の強さこそが、愛情の強さに感じ取れた。

「カカカ、母性本能が目覚めすぎじゃないか?」

「んん〜そうなんかな……鈴やんも、ハッチィも、そうならないように距離とってたんよね〜」

「お前も最初は、そうしようとしてたろ。どこで、間違えた?」

「へへ〜なんか、無理だったみたいん」



 あぁ、俺は知っている……


 知っているとも……


 お前らラット・シーの住人が、どれほど家族を大事にしているか……


 どれほど、人に優しいのか……


 どんな種族よりも、強い結束力を持っているということを、俺は知っているんだ。



「なるべく早く、ちゃんと親を探そう。はっきりさせないことには、話が進まんさ」

 アルフィーが黙って頷くのを背中で感じとり、自分から離れるまで静かに待つ。

 今くらいは、背中のひとつも貸していいはずだ。

 この子の親は今、どんな気持ちでいるのだろう……と、ぼんやりと考えながら。

アルフィー無双中です。(笑)

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