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鈴屋さんとミケっ!〈2〉

ミケ猫、第2話です。

ホットドリンク片手にまったりどうぞ。

「なぁ、パパぁ〜」

 やはり聞き間違いではないようだ。

 年齢は2歳くらいだろうか。まだ、俺の太ももあたりまでしか身長がない。

 艶々とした黒髪で、くりっとした琥珀色の目が奇麗なキャットテイルの女の子だ。

 キャットテイルの特徴でもある猫耳は垂れ下がっており、尻尾がひょこひょこと動いてとても愛らしい。

「パパぁ〜だっこ〜」

 さて、ここまで誰一人として的確な突っ込みを入れられないのは、この状況を把握できずにいるせいだろう。

 我が頼もしき仲間たちといえば、そろって目を大きく見開き、瞬きすることも忘れ、固まっている。

 その有様が、あまりに無表情すぎて怖いのだが、誰よりも俺が一番混乱しているのが現状だ。

 昨夜の出来事に対する追求が吹き飛んでくれたのはとても有り難いのだが……この場合の最良の答えは何だと自問する。

「お嬢ちゃん、どした〜? 迷子かな〜?」

 極めて爽やかに、優しいお兄さんらしい笑顔をみせてみる。

 当たり前だが、そういった行為自体してもいないのだから、俺の子であるはずもない。

 しかし、我が頼もしき仲間たちは何も言葉を発しない。

 ただひたすらに、じーーっと俺を見ているだけだ。

「パパぁ〜、ミケ眠くなった〜」

 ミケと名乗った幼女は会話が通じないのか、俺の黒装束を掴んでよじ登り、大股を開いて抱きついてくる。

 どうしていいのか解らない俺は、最早されるがままの人形である。

「ほうほう、ミケというのか。お父さんとお母さんはどうした? はぐれたのか?」

 暗に俺の子ではないという含みをもたせているのだが、ミケはそれを無視するかのようにスヤスヤと眠り始めてしまった。

 我が頼もしき仲間たちの視線が、俺に突き刺さる。

 説明を求めているのだろうが、実のところ、俺が一番に説明を欲している。

「え〜っと……まいったな、こりゃ……」

 頭をかきながら引きつった笑みを浮かべると、ようやくアルフィーが口火を切ってくれた。

「あーちゃん……うちは一夫多妻制だからいいんけど……でも、この3人より先に違う女と……ってぇのは、ちぃとばかしムカつくん」

「い、いや、何いってんの、お前」

 手に持つフォークをくるくると回しながら、戦士の目になっていくアルフィーに戦慄を覚える。

「アーク殿……ハチ子は、それほどに魅力がないのですか?」

「いやだから、んなわけ……ハチ子さんは魅力的すぎて、俺はいつも我慢が大変でして……」

 そんな悲しい顔するなよ、と思わず言ってしまいそうになるが、ぐっと堪える。

 正直、一番目のやり場に困ってるのはハチ子なのだ。

「あー君、これはいくらなんでもあんまり…かな」

「待って、ほんとに待って。ちょっと冷静に考えてみればわかるじゃん。そんなわけないじゃん?」

 突如訪れた謎の修羅場に、俺の脳内は高速回転で弁明の言葉を探していた。

 しかしだ、知らないものは知らないのだから、説明のしようもない。

「あー君は、ここでの暮らしを満喫しておりますなぁ〜」

「いやいやいや、そんな……経験もないのにいきなり子供とか、あんまりだろうよ!」

 遂に出た情けない告白に、自分で悲しくなってしまう。

 それでも我が頼もしき仲間たちは、信じてくれてはいないようだった。

「アーク殿、ハチ子はそれほどまでに駄目なのですか?」

「あーちゃん、実は遊び人なんね〜」

 勝手に呆れ始める仲間たちを説得するために、俺の情けない告白は数十分と続き、ようやく信じてくれる頃には俺の男としてのプライドとやらはズタボロになっていた。



「んで、どうするん、その子」

 アルフィーが丸パンにかじりつきながら、半開きの目でミケを見る。まるで「その辺に捨ててくれば?」と、言っているようで怖い。

「まぁ、ただの迷子だろ。普通に親を捜そうぜ? そうだな……手がかりは黒髪、黄色い目、キャットテイル……ってとこか」

「アーク殿……ハチ子は、レーナではシメオネたち以外のキャットテイルを見たことがありません」

 確かにハチ子の言う通り、レーナでキャットテイルは珍しい種族だ。シメオネとラスターは琥珀色の目ではあるが、くせのある金髪だ。あの2人に聞いたところで、見当違いかもしれない。

「あとは、お父さんがあー君に似てるってことだよね?」

「俺に……眼帯とか?」

「ん〜、それよりも、父親が人間ってことが重要かな」

 思わずポンと手を打つ。なるほど、この子は人間とキャットテイルのハーフなのか。

「つまり、お父さんは黒髪のあー君に似た人間で、お母さんは黄色い目のキャットテイルってことよね」

「……それってさぁ〜、結局父親があーちゃんで、母親がシメオネってことになるんじゃ?」

「いや、ホントそういう経験してないから……っていうかよ、シメオネが母親とかあり得ないだろ」

 あいつは猫語尾も抜けきっていない子供だぜ、と笑う。

「確かに踊り子をしてる時とかは、妙に健康的で、胸も大き……」

 そこまで言って、再び女性陣の目がジト目へと変わっていることに気づく。

「どうせ私はエルフだもん」

「……ハチ子は……シメオネにも勝てません……」

「あたしは同じくらいだかんね〜」

「あの……ほんと、ごめんなさい……」

 だめだ、このままでは俺の好感度は下がりっぱなしで、そのうちゼロになってしまう。

 一刻も早く、この子の親を探さねばならない。

「とりあえず『黒猫の長靴亭』に行こうぜ。あそこは亜種族も多いし、なにかしら情報があるかもしれない」

「……無駄ですよ、アーク殿。シメオネたちは海竜戦のあと、報酬を使って湯治に行っているはずです」

「なんですと……?」

「そのうち戻ってくるとは思いますが……シメオネのことです。もどったらあちらから来ると思いますよ」

「えぇ……じゃあそれまでは……」

 ちらりと視線を落とすと、すやすやと眠るミケが小さく欠伸をしていた。

「まぁ、あー君が面倒見るしかないよね」

 マグカップで口元を隠すその行動は、私を巻き込まないでねのサインだ。

 どうやら俺は、しばらくベビーシッターをするしかないようだった。

誰の子なんでしょうー(笑)

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