鈴屋さんとサンタクロースっ!〈アルフィー編〉
クリスマス三部作、ひとりめです。
三人ってことは、南無子は……それは、またのお楽しみ。
それではアルフィーとのクリスマス、お楽しみいただければ幸いです。
白色の月明かりがレーナの街を照らし出す。
白い月は4つの月の周期の中で最も光が強く、遮るものがない場所なら夜目も必要としない。
たしかこのゲームの世界設定で「白い月」は、無垢と再生の周期とされていたはずだ。
そのせいなのかどうかはわからないが、海竜戦から二ヶ月近く経った今、ラット・シーは8割型以前と同様の姿を取り戻していた。
「どうせ作り直すなら、しっかり区画整理でもして、洒落っ気のある海上都市にでもすればいいのに……」
相変わらず計画性のない増築・増床の建築方式で、細胞分裂しているかの如く海へ海へと侵食をしている。
ここの飯は美味いのだし、絶対に流行ると思うのだ。
今度あのアフロに、お洒落な海上テラスでも提案してやるか……と、またしても商売人思考が生まれてしまい、頭を横にふる。
「だめだ、だめだ、今日はそういうことじゃねぇんだ」
そう、今日はそんなことを考えに来たわけではない。
「待ってろよ、あんなことがあってひと月遅れちまったが、今年は俺がサンタになってやるぜ」
俺は赤いマフラーをくいっと上げると、ズタ袋を肩にかけて、再びラット・シーの屋根の上を音もなく駆け出した。
しばらく屋根の上を移動し、脳内マップを更新させていく。
やはり、ほぼほぼ前のままだ。
「……となると、この辺のはずなんだが……」
一度立ち止まって、周囲へ視線を泳がせる。
そして、目的地をようやく見つけた。
祭りの時に1度来ただけだから少し不安ではあったが、おそらくあの倉庫のような家がアルフィーの住処である。
アルフィーは未だ復興作業に追われていて、実はまだ顔を合わせてはいない。
“自分の部隊の子の家が全部完成するまでは、そっちに帰るわけにいかないかんね”
いかにも、彼女らしい考えだ。
アルフィーはああ見えて、面倒見がよく責任感のある隊長なのである。
俺は俺でドワーリンを南無子に押し付けた後、足りない材料の調達に奔走したり、こっそりとクリスマスプレゼントを用意したりしていて多忙だったのだ。
とにかく、久しぶりなのである。
そのせいだろうか。
実のところ心の奥底で、あの白毛の女戦士が驚き喜ぶ姿を思い起こしてはニヤニヤしていた。
「おじゃましま……す……よ」
一応は小声で断りを入れて、静かにドアを開ける。
さすがラット・シー。
思った通り、鍵などついていない。
まぁ俺の鍵開けスキルなら、魔法でもかかっていない限り簡単に開けられるのだが、そこは気持ちの問題だ。
鍵開けして入室してくるサンタとか、かなり怖いだろう。
「さて、と……」
アルフィーの部屋は、ほぼワンルームだ。
中は相変わらず狭いが、まだ建てて間がないせいか、前のようなゴミ屋敷にはなっていない。
いや、むしろ……飾り棚や収納家具が増えていたりして、前よりも女子っぽくなっている気がする。
肝心のアルフィーは、ベッドで横を向いて眠っているようだ。
俺は足音を立てないように気をつけて移動をし、片膝を付いて彼女の枕元に顔を近づける。
「……寝てる……な」
白い毛から覗いて見えるうなじが色っぽい。
しかも少しいい匂いがして「あれ、これ、なんか変な誤解が生まれないか」と、急に不安がよぎる。
……いやいや、今の俺はサンタだ。何ひとつやましいことなど……
…………いやでも、これ、ほんとに大丈夫か?…………
いやいやいや、と頭を振り、ズタ袋に手を突っ込む。
そして用意したプレゼントを取り出し……
「え、これどうやって置こう……」
通常プレゼントは靴下に入れるもので、実際は枕元に置くものである。
しかしこれは……置いていいのか?
「んん……なん〜?」
「ぬわっ!」
いきなり寝返りをうって、こちら側に顔を向けてくる。
しかし目は閉じたままで、目を覚ました様子はない。
「お、おどかすなよ……」
俺は爆発しかけた心臓を落ち着かせて、ゆっくりとプレゼントを近づける。
するとアルフィーは鼻をがひくひくと動かし、ゆっくりと口を開ける。
最初はあくびかと思い動きを止めて様子を見ていたのだが、どうやらそうではないようだ。
何かを求めるかのように口をパクパクと動かし、やがて……
「痛えぇぇぇぇぇ!」
プレゼントを握る俺の右腕に、思い切り噛み付いてきたのだ。
「にくぅぅ……」
「あほかっ、起きろ、いててててててっ!」
バンバンとアルフィーの頭をはたき、ようやく白毛の戦士が目を開ける。
そして噛み付くのをやめると、少し眠そうに目をこすりつつ不思議そうな顔を向けてくるのだ。
「なんであーちゃんが、チキンをもってここにおるん?」
すごく当然な疑問だろう。
なにせここには、クリスマスという風習がない。
「あぁ、っと……これはクリスマスっていう、俺の生まれたところにあった風習で、これはサンタクロ……」
「あーちゃん、夜這いにきてくれたんね!」
「うわっ、こら、抱きつくな! 話聞けって!」
「会いたかったん!」
話も聞かずに飛びついてきたアルフィーを引き剥がし、話を理解してもらうまでに30分の時間は要しただろう。
こんなことなら、それとなくクリスマスの事を教えておけばよかったと少し後悔する。
それにしてもかなり肌寒い季節なのに、よくショートパンツにタンクトップだけでいられるものだ。
見ているこっちが寒くなる。
「……つぅわけだ。理解したか?」
しかしアルフィーは、むうーっと唸って返す。どこか不満げなのが気になる。
「んで、プレゼントを持ってきたってことなん?」
ベッドの上で体育座りをし、俺のプレゼントである超高級ローストチキンが入った袋をひょいと持ち上げる。
俺は正面であぐらをかき、うんうんと頷いて見せた。
「あぁ、これまでもそうだし……海竜戦では、特に世話になったからな。ご褒美だ」
ふぅんと唸る。
「なんか不満そうだな。それ、一応、産地と育成方法にこだわった入手困難な高級鶏なんだぜ?」
「へぇ~……」
そして、なぜかジト目だ。
「なぁ、あーちゃん。話聞いてる限り、普通は指輪とかそういうんにするんじゃないん?」
「そりゃまぁ、恋人とかには定番だけど……基本、相手が一番欲しい物をプレゼントするもんなんだぜ?」
「んで……肉……なん?」
「好きだろ?」
「…………好きだけど……」
アルフィーが、口をとがらせて不満を訴えてくる。
何が不満なのだ。肉さえ与えとけば喜ぶのがアルフィーだろうに。
「それで? あーちゃんはこのまま帰るん?」
「……そりゃプレゼント置きに来ただけだし、今日は他にも、あと……」
「こんな時間に、女の子の部屋に侵入してきて、なにもしないで帰るん?」
「むしろ、なにかしたら問題だろ」
呆れながら、何気なく部屋を見渡す。
「前と違って随分と片付いてるよな。このまま綺麗なままにできりゃぁいいのにな」
どうせできないだろうがなと、皮肉っぽくカカカと笑う。
「できるよ。そうするん。ちゃんと女の子らしく」
「ほうほう、あのアルフィーさんがか?」
「なん~笑うことないん。このベッドだって2人で寝れるサイズにしたんよ?」
そこで、初めて告白された時のことを思い出す。
なぜ、今までそれを忘れていたのか。
久々に会うってのと、サプライズイベントを成功させるという、ふたつの事柄で頭がいっぱいだったのかもしれない。
「……なぁ、あーちゃん。久々に会ったんよ?」
言って、俺の横にすっと移動してくる。
「あたしは今、すごく嬉しいんよ?」
もたれるようにし、腕に絡みついてくる。
柔らかな肌のぬくもりが、強烈に女を感じさせる。
……まずい、これはまずい。俺の理性がいろんな意味で限界突破してしまう……
「お……お……俺はもう行かねば……サンタクロースは多忙なのだぜ」
「……んじゃぁ……ひとつだけ……プレゼント……追加していほしいん」
「…………なんだよ?」
「久々にあたしに会えて……どう?」
くぅぅぅ……ここで、可愛いじゃないかぁ~だなんて言えるはずもない。
……俺が言えるとしたら、せいぜい……
「来る途中、お前の喜ぶ顔を想像して、ニヤニヤしてた……かもしれない……」
マフラーを上げて口元を隠す。顔が熱を帯びていると、自分でもわかる。
好きか嫌いかで言えば、嫌いでないのは明確なのだ。
そりゃあ、男ならそういうふうに思ってしまうものさ。
「ふぅ………ん」
アルフィーは俺の腕を開放すると、また膝を抱えて小さく座る。
「うん。いいプレゼントもらった。ありがとね、あーちゃん」
「……お、おぅ…………肉も食えよ。それ手に入れるの、かなり大変だったんだからな?」
そこでやっと笑顔を見せてくれる。どうやら今の答えで満足してくれたようだ。
肉より今の質問の答えの方が嬉しいのかよ、とも思ってしまうのだが、本人が満足ならいいだろう。
「へへへ~、それはもう、明日の朝には美味しくいただくね!」
その答えを待ってたんだよ、と肩を竦めながら笑い、俺は次の目的地へと移動すべく立ち上がった。
「サンタクロースって大変なんな~」
「おうよ、まだ数軒まわらなきゃだからな」
「ふぅん~押し倒されたらダメよ?」
「されるかよ!」
ごつんと握り拳を落とし、結局そんな漫才になるのかよと俺は苦笑するのだった。
本来、青の月がクリスマスとなるのですが…
赤(海竜)→青(ドワーフと復興などの作業で多忙)→白の月
…となり、アーク的には、ひと月遅れのクリスマスという認識になっています




