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鈴屋さんとドワーフの国!〈5〉

お待たせしました。出張のある週はきついですねぇ。

とりあえずジェズ戦だけですが、休日の暇つぶしにどうぞ。


 うおぉぉぉぉぉというドワーフたちの野太い歓声が、地鳴りとなって身体の芯を震わせていた。

 それはまるで『鼓舞』のスキルでも発動しているかのようだ。

 体の内側から熱い力が沸き起こり、魂が興奮していく。

 この空気に少しでも飲まれると、思考が停止してしまいそうだ。

 それでも俺は、ギリギリのところで冷静さを保たせていた。

 視界に映るのは、全身に力をみなぎらせて猛ダッシュで距離を詰めてくるジェズだ。

 定石通りに、インファイトで殴り合いをするつもりなのだろうと判断する。

「近寄らせたくないが……」

 俺の基本的な戦闘スキルは、ニンジャのそれだ。

 格ゲーにおいてもニンジャ系ってのは火力がなく、手数とトリッキーな奇襲技、素早い動きが武器となる。総じて、至近距離での殴り合いには向いていない。

 しかも、常時ヘイスト(敏捷度二倍)の効果を持つ『赤影のマフラー』や、奇襲の基軸である『テレポートダガー』がない今、体術系のニンジャスキルだけでは、到底太刀打ち出来ないだろう。

 ……が……しかし、だ。

 今の俺には、シメオネ師匠直伝の『気闘法』がある。

「いくぜ!」

 練気をしながら右の拳を脇腹までひき、そのまま空中にアッパーを放つ。

 一瞬の間をおき、ジェズのガードする両腕にズシンと重みのある衝撃が生まれた。

「なっ!?」

 思わず足を止めるジェズ。

 目に見えぬ攻撃を受け、何が起こったのか理解できないようだ。

 つまり『気闘法』を知らないということである。

「カカカ、言っとくが魔法じゃねぇぞ。気闘法の基本技『気弾』だ」

「……飛び道具とは卑怯な!」

「気闘法はルール違反じゃないんだろ? 大体、飛び道具対策なんて格ゲーじゃ必須項目だぜ」

 言っているセリフが悪役のようだが、近距離大好きなやつに飛び道具で近寄らせないなんて、基本中の基本戦術なのだ。武装した相手には効果の少ない『気弾』も、素手格闘なら十分に使える技となる。

「このまま削りきってやろうか?」

 両拳で練気をし、右・左と気弾を撃ち込んでいく。

 心の中で必殺技的な名前を連呼しそうになるのは、格ゲーマニアとしては仕方のないことだろう。技を繰り出すごとに、恥ずかしい技名を叫ぶシメオネの気持ちがよくわかる。

「くっそぉぉぉ!」

 ジェズが左右にステップを踏んで避けようとするが、気弾はその動きに合わせて容赦なく襲いかかる。

 その都度、ガードをする両腕にダメージが蓄積されていくのだ。

 それは焦りを生み、やがて苛立ちへと変わる。結果、やけくそ気味に突進を仕掛けては、ガードが疎かになり、気弾がクリーンヒットする。

 おそらく、これだけで圧勝は確定だ。

「やっちゃえ、あー君!」

 鈴屋さんの有り難い声援が、背中越しに聞こえる。


 ……そんじゃ駄目なんだよ、鈴屋さん……


 おそらくこのまま一方的に勝ってしまったら、この場にいるドワーフたちの酒の肴としては不十分な……非常につまらないものとなってしまうだろう。それこそ、変にへそを曲げられて「やっぱり、ハンマーは貸さない」とか言われてしまっては、元も子もないのだ。

「カカカ、レクチャーしてやるぜ、ジェズ」

 格闘ゲームには『接待プレイ』と『魅せプレイ』という、2つの技術がある。

 接待プレイは、そのまんま接待だ。相手に気づかれないように、何なら周りの観衆にも気づかれないように手を抜いて接戦を演じる。

 主に「俺つえぇぇ」をしすぎて、対戦相手が入ってこなくなることを防ぐために使う。接戦なら相手もまた再戦をしたがるものだし、フルセットに持ち込んだほうが長く遊べて練習にもなる。

 今回は観衆を楽しませなくてはならない。


 そのために、わざと気弾を外す!


「あっ!」

 ジェズの頰をかすめるようにして、二発の気弾が空をきる。

「好機ッ!!!!」

 案の定、ジェズが猛ダッシュで駆けて、懐に入ってくる。

「くらえぇ!」

 低い姿勢から繰り出される左右のフック。

 かなり力強いが……


 ……遅いな……


 ……ドワーフだからなのか……あるいは俺が少しばかり強くなったのか……その動きは冷静に目で追えて、簡単にかわせるものだった。

 むしろこうなってくると、わざと食らう方が難しい。


 ドンドンドンッと重い音ともに、俺の脇腹へとジェズの拳が打ち込まれてくる。

「ぐっ!」

 ……と、苦しむフリはしてるが、しっかりと硬気功をしつつ、体をくの字に折り曲げながら、後方へと自ら飛んで勢いを殺している。

 ほぼノーダメージなのだが、周りにはジェズのラッシュで吹き飛んだように見えたのだろう。

 ワッと歓声が起こっている。

 どうやら『接待プレイ』は、成功したようだ。

「トドメだ!」

 ジェズが、ここぞとばかりに大振りのフィニッシュブローを繰り出してくる。

 ただでさえ遅いのに、モーションが大きすぎて全く当たる気がしない。

 おかげで『魅せプレイ』が、簡単にできそうだ。

 ジェズの右ストレートを左掌で軽くそらしつつ、そのまま弱めの気弾を放つ。

「んなっ!」

 大きく腕を弾かれて体制を崩したジェズが、俺の右側へと倒れ込んでくる。

 俺はジェズの右手首を掴むと、そのまま関節を極めるようにしながら背中へと回し、左手で背中を軽く押して足をかける。

「うわっ!」

 哀れジェズ君は情けない声を上げながら、くるんと綺麗に一回転をして、地面に叩きつけられた。

 俺はさらに動きを止めることなく、ジェズの腹部へと右掌を当てて……


「徹しっ!」


 ドンッと重い音とともに、衝撃波が生まれて砂塵が舞う。

 練った気を相手の体に直接叩き込む、気闘法の奥義『徹し』だ。

 今の俺ではシメオネほどの練度はないが、それでも威力は十分なはずである。

「……ふぅ」

 小さく呼吸をひとつ吐き、ゆっくりと立ち上がる。

 ドワーフたちは、何が起きたのか理解できていないのだろう。辺りは見事に静まり返っていた。

 俺が黙って立っていると、ギルが倒れたまま動かないジェズを覗き込み、次に俺の方へと視線を移す。

「見事じゃ! 勝者、アーク!」

 そしてこの日一番大きな歓声が、そこで湧き上がったのだ。

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