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鈴屋さんとドワーフの国!〈3〉

お待たせいたしました。3話目です。

ホットドリンク片手に、まったりとどうぞ。

「だめだよ、エルフのおねぇちゃん」

「……ごめんなさい」

 眼の前で繰り広げられる『ドワーフの子供に窘められる麗しのエルフ嬢』という魅惑的な構図に、俺の胸は高まるばかりだ。しかも“あの”鈴屋さんが、である。言葉では説明できない情動が生まれても、仕方がないというものだろう。

「ここは鉱山でドワーフの国なんだから、土の精霊の力は強まって当然さ。下位精霊のノームだって、レーナの町中に比べれば、3倍くらいの力になるんだよ?」

「本当にごめんなぁざぁぃ」

 鈴屋さんの長い耳が、頭を垂らす稲穂のように下を向く。

 何故あの鈴屋さんが、これほどまでに反省しているのか。

 理由は簡単である。

 軽い制裁のつもりで召喚したノームの槌が、精霊力の強い土地の影響を受けて、思いのほか高ダメージを叩き出してしまった。

 結果的に俺の左足の指先が骨折、さらに運悪くジュレオ神殿の神官たちも大規模な巡礼中のため出払っており、治癒もままならない状況となっている。

 そもそも制裁を受けるべきは俺ではなく、このドワーフの子供のはずなのだ。

「あー君、痛い?」

「大丈夫、大丈夫っ!」

 口では強がってみたものの、骨折しているのだから普通に痛い。帰りの行程を想像すると、かなり気が重くなる。

「ごめんね、私にできることがあったら何でも言ってね」

「……なんでも……だと?」

「…………なにその邪な顔…………」

 そうですか、顔に出てしまいましたか。

 しかしこれは、中々に貴重なチャンスなのでは……

「あっ……つっ…………いたた……」

 試しに少しわざとらしく痛がってみせると、ジト目だった鈴屋さんの表情が、みるみると憂いに満ちたものに変わっていく。

 これは、しばらく怪我を口実に楽しまねばなるまい。

 そうして歩を進めていると、いつの間にか周りの雰囲気が変わってきていることに気づく。どうやら工房街に差し掛かってきたようだ。

 右も左も鍛冶工房が軒を連ねていて、鉄の匂いと熱気が漂っている。何よりも鉄を打つ槌の音が、そこかしこに聞こえてくる。

 南無子が見たら、きっと喜んでいたことだろう。

「おにいちゃんたち、あれがギル・ホルディック様の工房だよ!」

 ドワーリンが、川沿いに建つ一際立派な石造りの工房に指を向けて駆け出した。

「すげぇ……でかいな」

「南無っちのとことは大違いだね〜」

 それは、比べるほうが可哀想ってもんだろう。なにせここは、ドワーフの国の鍛冶工房……本場中の本場なんだから。

「ギル様ー! お客様連れてきたよー!」

 ドワーリンが返事も待たずに、工房の中へ入っていく。

 俺は鈴屋さんと目を合わせると、軽く肩をすくめて、それに続くことにした。

 重厚な木製の扉を越えると、そこはすぐに窯場だ。炎の熱が肌に当たり、少し息苦しくも感じる。

「あぁっと……ギルさん? 邪魔するよ」

 そこには、窯から漏れる炎に照らし出された赤ひげのドワーフが、一心不乱に焼けた鉄を叩いている最中だった。

「しばし待てぇい!」

 いくつもの三つ編みがされた赤いひげを豪快に揺らせながら、野太い声が返ってくる。


 ギルはしばらく鉄を打つことに没頭し、その作業が落ち着くまで30分ほど待たされることとなった。


 ようやく作業を終えると、薄汚れたタオルを拾ってワシャワシャと顔全体を拭い始める。

「作業中に悪かったな。俺は……」

「……なんじゃ、若造。おんし、ワシを覚えとらんのか?」

 ギルがタオルに顔をつけたま続ける。

「そう言えばおんし、ドラゴンスレイヤーの称号をもらったそうだのう」

 タオルをおろして見せたギルの笑顔に、記憶の糸が一気につながり、俺は思わず声を上げる。

「あぁ! あんたは!」

「海竜戦では、世話になったのう」

 そのドワーフは海竜戦で船を出した赤ひげのドワーフ、その人だった。



「ドワーリン、お前は準備をしてこい」

 ギルがドカッと椅子に座り、ジョッキに入ったエール酒を喉の奥へと流し込む。

 あれだけ汗を流した後だ。さぞや旨いことだろう。

「話は聞いとる。海竜の角を加工するために、ハンマーが必要なんじゃな?」

「話が早いな。貸してくれるのか?」

 ギルがヒゲをつまんでう〜んと唸り、やがて何か思いついたのか、太い指でピンとヒゲを弾いた。

「もちろん貸そう……条件付きじゃがな」

 そしてもう一度、ジョッキを呷る。       

 条件を出されるなんて話は聞いてなかったが、ここまで来て断るという選択肢はもうないだろう。

「それよりもおんし、そのエルフの娘っ子はなんじゃ? 伴侶か?」

「は……はん……!?」

 思わず声を上ずらせて、鈴屋さんの方に視線を向けてしまう。

 しかし鈴屋さんは顔を赤くするどころか、澄ましたままの表情で目線も合わせてくれない。

「誉れ高きあ〜くさまはぁ、いろんな女の子に言い寄られてて大変なんです〜」

 ……怒っていらっしゃる。最近の俺のだらしなさに……

「ホウホウ、さすがはドラゴンスレイヤーじゃな」

「いや、あの……そんな、モテモテってほどじゃないですし、あと鈴屋さんもドラゴ……」

「あ〜かのしっぷぅ〜、アークさまはぁ〜」

 指を1本立てながら、目を閉じて歌うさまが可愛くて可愛くて……ちくしょう本当に可愛いな、コノヤロウ!

「そんで、その条件ってのは……」

「うむ。アレはミスリル銀すらも加工できる大事なハンマーじゃ。それゆえ、このあたりの工房で共同保有しておる。ワシはおんしのことを知っておるから、貸してやることはやぶさかではないのじゃがの、他の者は別じゃ。なにかしら、納得させねばならんじゃろうて」

「……納得って、どうすりゃいいんだ?」

 ギルが、三つ編みの赤ひげを大きく揺らせながら豪快に笑う。

「なぁに、ちょいと今宵の酒の肴になってくれればいいだけじゃ」

「酒の肴?」

「……まさか私にナニカしろってこと?」

「エルフの娘っ子にしてもらうことなんぞないわい!」

 思わずたじろぐ鈴屋さんに、ギルはジョッキをドンッと置いて、俺の方へと睨みを利かせてくる。

 どうやら、酒の肴とやらの対象は俺らしい。

 心底、嫌な予感しかしない。

「どこの世界でも、荒くれ者共を納得させる手段はひとつじゃ。この先に少し進むと、工房の連中が集まる酒場がある。そこの前にある広場で、うちの若手と決闘でもしてもらおうかの」

「はぁ? なんで決闘しなきゃいけないんだ。理由がメチャクチャだろ? それで負けたら貸してくれねぇってことか?」

「なにも、力を示せとか偉そうなことは言っとらん。何なら負けてもハンマーは貸してやろう。なぁに、単純に酒の肴じゃよ」

 回りくどいことを嫌うドワーフのことだ。言葉に嘘はないだろう。

 一戦すれば貸してやる、それが条件ということだ。

「カカ……なるほどね。火事と喧嘩は江戸の華ってやつか」

 しかし俺は、喧嘩とは無縁の超平和主義者だ。

 何をすき好んで『欲しいものがあれば、地下格闘技場で戦え』的なシチュエーションに、自ら身を投じねばならんのだ。

「痛いのは勘弁なんだが……だいたい俺は今、足の指を骨折し……」

「がんばれ、どらごんすれいやーさま!」

 俺の怪我の心配をするどころか、満面の笑みを浮かべて代案の交渉を阻止してきた鈴屋さんに「あんたもドラゴンスレイヤーだろっ!」と、心の中で本日2度目のツッコミを入れてしまう。

 どうやら俺は……どういうわけか俺は、ドワーフの戦士と一騎打ちをするしかないようだった。

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