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鈴屋さんと反省会っ!〈2〉

さくっと反省会です。

反省会で語りたいエピソードがあったのですが、入れるチャンス(話の流れ)がなかったので、次回以降どこかでぶっこみます。

それではホットドリンク片手に、まったりとどうぞ。

「気持ちいぃね……あーちゃん」

「あぁ、でもちょっと狭い……かな」

 それ以上は言葉が続かない。

 そもそも、会話に内容が伴わない。

 話題を逸らすことができても、思考まで逸らせることはできない。

 ……酒がうまくて風呂も気持ちいい、でも五右衛門風呂に二人はちょっと狭い……など、という中身の薄い会話だけでは間が持たず、結果として気まずさを紛らわすために、ぐびりと酒を喉に押し込むこととなる。

「狭いほうが、あたしと直接触れ合えていいでしょ?」

「お前なぁ……なんでもストレートに言いすぎだ」

 アルフィーが顔を真っ赤にしながら、エヘヘ……とはにかんで見せる。

 どうやらアルフィーも同じなのだろう。

 あれから二人とも、けっこうなペースで酒が進んでいた。

「……熱いな」

「……ん……お酒も入ってるかんね。でも、あたしはいつも、こんくらいの温度なん」

「いや、さすがに熱いって…………わりぃ、ちょっと動くぞ」

「ちょ……あーちゃん、だめ、そんなにかき混ぜたら……」

 このままでは湯あたりしてしまうだろうと考えた俺は、バシャバシャとお湯をかきまぜ始めた。

 まさにその時だった。

 室内で聞き耳を立てて様子を窺っていたのであろう南無子たちが、血相を変えて飛び出してきたのだ。

「あぁぁぁ……あんた達! ひとの家のお風呂で、なに破廉恥なことしてんのよッ!」

「え、いや、ごか…………」

「恥を知れぇぇぇぇぇっ!」

 叫びながら、南無子が鍛冶用のハンマーをオーバースローで投げつけてきた。

 まさにそれは、怒りの鉄槌。

 ハンマーはくるくると縦回転をしながら、見事なコントロールで俺の脳天にクリーンヒットし、一瞬で視界が真っ白になっていった。

「あ、あーちゃん!?」

 意識が飛び湯船に沈みかけた俺の頭を、アルフィーが慌てて抱きかかえる。

 このまま風呂で溺死とか情けなさ過ぎるのだが、バスタオル越しにすっごい柔らかい何かが当たっているので、俺の株が下がり切る前に早く気絶したいという気持ちが本音である。

 いや、ここはむしろ“気を失ったフリ”で、やり過ごすしたほうが得策だろう。天才軍師『諸葛亮孔明』なら、きっとそうするはずだ。

「ひとんちのパン窯で肉の燻製をつくるわ、勝手に風呂に入るわ、挙句に…………な……な、なにやってたのよ!」

「そうだよ! やっていいことと悪いことがあるでしょ! それは悪いこと!」

 南無子と鈴屋さんの声が聞こえる。

 それも、かなり怒っている。

 ……あとは頼んだぞ、アルフィー……

「ナニって……お風呂で気持ちよく…………お酒飲んでるん」

「何をどうしたら混浴なんてできるんですか! どうやって誘ったんですかっ!?」

「……あの、ハチ子さん、論点がズレてると思うんだけど……」

「いいえ、鈴屋、これはそういう話です!」

 ハチ子も怒っているようだ。

 ……まぢであとは頼んだぞ、アルフィー……

「混浴なんか、鈴やんはずっとしてたんじゃん?」

「わ、私は一緒には入ってないもん!」

「ん〜でも、こないだ入ったよね~? 私ら、ぜぇ〜んぶ、あーちゃんに見られた仲やん?」

「……え、ちょっと待って。その話、わたし知らないんだけど……」

 新たな火種を投げ込むアルフィーに、俺は絶望感しか湧かない。

 ……まぢで頼みますよ、アルフィーさん……

「わ……わた……わたしたち、三人とも…………全部、見られてしまいました……アーク殿に……」

「はぁぁぁぁぁっ!? アーク、あんた、ついに……」

 わかる、見なくてもわかるぞ。まるでゴミでも見るような目が向けられていると。

 だが、あれは事故だ。俺は悪くない……はずだ。

「あぁ〜そうそう、あたしさっき、あーちゃんに告白したかんね? だからさっきの会話も聞こえてた通りなん」

 ……一瞬の沈黙があり……


『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 見事なハモリが風呂場に轟く。

 俺は『孔明の罠だ』と言い訳することもできず、本当にのぼせて気を失ってしまった。




「さて、説明してもらおうかしら」

 陽気な日が差し込んでいる鍛冶工房で、ツインテールのツンデレ少女が絵に描いたような仁王立ちをして、俺とアルフィーを見下ろしていた。

 その両脇には白いワンピースがとても似合う麗しきエルフ嬢と、黒いワンピースが色っぽい元アサシン娘が立っている。

 一瞬デジャブかと思ったが正座をしているのが俺とアルフィーなので、これが2周目とかタイムリープとか、そういった類のヲチではないようだ。

「さっき、話した通りなん〜」

「……あのぅ、アルフィーさん……ちゃんと事実を説明してくれました?」

 恐る恐るお伺いを立てると、アルフィーが満面の笑みで頷いて答えた。

「あたしがお酒を餌にあーちゃんを誘って、お風呂に入って、そのまま酔っ払っただけなん」

「……本当かしら、アーク?」

「ふぇぃ、ほんとうです。図らずとも混浴してしまったのは、痛恨の極みでして……」

「図らず……ねぇ……」

 レイピアで刺されているかのごとく、視線が痛い。とても直視できそうにない。

 なぜに俺は何の抵抗もなく混浴してしまったのか、我ながら謎である。

「……まぁ、いいわ。とにかく、やましいことはしてないのね」

「あっ、でも告白は本当なん。返事は保留にしてもらってるんだけどね〜」

 再び、ピキッと空気が張り詰めていく。

 こういう時、男という生き物はどういう態度を取れば正解なのか本当にわからない。

「あたしは、あーちゃんと出会ったん最近だし。みんなよりも、いろいろ不利だかんね。みんながノロノロするなら、あたしは遠慮しないよ?」

「……私とあー君は……いろいろと複雑なの……」

「わ、私もアーク殿とは複雑なんです……と言うか、本来はアルフィーも私と同じで、複雑な立ち位置のはずなんですよ!」

「言ってる意味がわかんないけど、でもあたしは間違ってないん」

 一触即発な空気の中、やはりこの話を切り替えるのは俺の役目らしい。

 あえて空気を読まないという、禁じられたスキルを使う時が来たようだ。

「んで、鎧はいつ作るんだ? 俺はともかく、アルフィーは装備なしじゃ冒険もできないぞ?」

 本日2回目の唐突で強引な話題転換だ。みなが唖然としていようが、このまま押し切るしかない。

「なんなら代用品として、中古装備でも買いに行くか?」


 ……しばしの沈黙……


 ……ここで話を戻すか、それとも次に進むのかを考えているのだろう……

 やがて空気を察したアルフィーが、仕方なさそうに切り出した。

「あたしはラット・シーの復興作業があるから、装備ができるまで冒険はパスなん。自分ん家も作らないとだかんね」

「そうか、そうだよな。じゃあ俺はそれを手伝いに……」

「駄目よ、アーク。あんたには頼みたいことがあるから」

 間髪入れずに仁王立ちの南無子に止められる。一目でわかる、有無を言わさない雰囲気だ。

「あんたにはこの素材を加工するために必要な槌を、鈴ちゃんとドワーフの国にとってきてもらうわ」

「……へ? 鈴屋さんはエルフだぜ? ドワーフの国に連れてくのならハチ子さんのほうが……」

「そんくらい、あんたがなんとかして守ってあげなさい。ハチ子さんには他に必要な物の買い足しをお願いするつもりなの」

 なぜかお怒りの南無子に、鈴屋さんと視線を合わせる。

「んじゃぁ……行くか、鈴屋さん」

「…………うん、よろしくお願いシマス………」

 そしてなぜか、鈴屋さんは顔を赤くしてうつむくのだった。

会話だけを読むと完全に誤解されてしまう、シモネタでした。ごめんなさい。


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