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鈴屋さんと大英雄っ!〈15〉

クライマックス突入です。

さてどうなるのか……

ワンドリンク片手にお楽しみください。

 この機会を逃す手はない。

 俺はすかさずテレポートダガーを口に咥えて、背中に装備した残りのダガーを次々と投げつける。

 方角はでたらめだが、その全てに雷属性がかかっている。おそらくスローイングダガーを収めた鞘に属性バフをかけたからだ。弓矢の属性バフと同じ扱いなのだろう。

 そして最後の一本を左手で引き抜くと、右手に握るテレポートダガーをまっすぐ真上に投げる。

「カカカ、行くぜっ! 荒神・裏八式・八岐之大蛇っ!」

 最早シメオネのことを笑えないだろう。

 俺は厨ニ病よろしく、南無子が命名した痛々しい技名を恥ずかしげもなく口走りながら、最後のダガーを目の前のダライアスの角めがけて投げつけた。

「トリガーッ!」

 瞬時に数メートル上空へと転移し、眼下にあるダライアスの頭へと視線を落とす。


 次の瞬間……


 バァァァァァァァッッッン!


 体を震わせるほどの爆音とともに、肺を焦がすような熱波が駆け抜けた。

 そして巨大な黒煙が、ダライアスの頭を包み込んでいく。

「あの馬鹿、火薬の量多すぎだろっ! 俺ごと殺す気かよっ!」

 思わず南無子への悪態をつきながら、ニンジャ刀を引き抜く。

「不知火!」

 ニンジャ刀の刀身を指先で撫でると、ゴゥッと炎が走る。

 ダライアスは悲鳴にも似た鳴き声をあげ、頭をふるようにして煙を散らせていた。

 角は……まだ健在のようだ。

「これで終わったと思うなよ、化物!」

 まるで悪役の捨て台詞のようだが、俺の攻撃はまだ終わっていない。

 夜空をでたらめに駆け抜けていた5本のダガーが、『術式必中』の効果で不自然な曲がり方をし、角めがけて一斉に襲いかかる。命名するならば、ホーミング・ライトニングダガーといったところだろう。

 稲妻と化したダガーは勢いを殺すことなく、次々と標的に着弾していく。

 その度に炸裂音と火花が飛び散り、ダライアスが悲鳴をあげた。

 どうやら最初の仕込みダガーの爆発で、結界は破壊できていたようだ。5本のダガーの直撃により、ダライアスの角には幾筋に亀裂が走っていた。 

「とどめ、行くぜっ!」

 声とともに気合を吐き、ニンジャ刀とテレポートダガーを両手に構えて体を大きく捻らせる。そして反動をつけながら体を前に倒し、勢いよく縦に回転を加えた。

 燃え盛るニンジャ刀が炎の尾をつなげ、やがて回転する俺の体を中心に炎の輪が生まれる。

 炎の属性付与と颶風・回転斬りで、技の特性が変わる複合スキルだ。今の俺が出せる技の中で、間違いなくトップクラスの火力を誇っているはずである。

「喰らえ、炎月輪エンゲツリン!」

 渾身の力を込めて角に斬りかかる。

 瞬間後、ガガガガガガガガッ!と、刀が連続ヒットしていく衝撃が手に伝わってきた。

「いけぇぇぇぇぇっ!」

 さらに力を込めて、角を両断しようと刃を深く入れていく。

 が、後少しというところで、刀が動かなくなってしまう。

「これでも、断ち切るには足りねぇのかよ」

 ニンジャ刀は、ダライアスの角を7割ほど切断したところで止まってしまっていた。

 ダライアスが鳴き声をあげて、さらに頭を大きくふる。

「振り落とされてたまるかよ!」

 今、この刀から手を放したら、これまで積み上げてきたもの全てが無駄になるだろう。

 懸命に刀を握りしめ、強烈なロデオマシーンに食らいつこうと、歯を食いしばる。

 しかし自分の体が人形のように、上下左右へと振り回されているうちに、次第と平衡感覚が薄れていってしまい……


「あっ……」


 遂には、血に濡れた柄が手元を滑らせ、空中へと投げ出されてしまった。

 ふわっと宙を舞った俺に向けて、ダライアスが口を大きく開ける。


 食われる! 


 俺は考えるよりも早くテレポートダガーを投げたが、ダライアスの攻撃のほうがそれよりも早い。

 ダライアスは食おうとしたわけではなかった。

 ここにきて、なけなしの高圧ブレスを吐いてきたのだ。

 細く圧縮されたレーザーのようなブレスが、俺のトリガーよりも一瞬早く脇腹を貫く。

「トリガーっ」

 脇腹に激痛が走り、火でもついてるのではと思ってしまうほど熱く感じる。

 それでも俺は構うことなく奴の眉間へと転移し、角にめり込んだままのニンジャ刀を睨みつけた。

「飛竜連脚!」

 ダライアスの眉間を蹴って反動をつけ、ニンジャ刀の柄に向けてシメオネ仕込みの連続回し蹴りを打ち込む。

 ガッガッと、刀身がさらに進むが、それでも両断できない。

 これでも駄目なのか、と思ったその時だ。

 テレポートダガーを握っている俺の右手に、暖かな感触が生まれた。

 無意識のうちに視線を向けると、そこには赤い満月を背に、黒色の眼光を鈍く光らせながら真っ直ぐと見つめ返してくる女性の姿があった。

「アーク殿」

 あぁ……これは勝った、と思ってしまうのは彼女への信頼の証に他ならない。

 彼女は即座に状況を把握し、ニンジャ刀の刺さる角めがけて残像のシミターを一閃する。

 その正確極まりない剣閃は、切れ込みへと吸い込まれていくように進んでいき、ニンジャ刀の刀身に当たると、そこで残像を幾重にもダブらせていく。

 そして、一瞬の間をおいてその力が一気に弾け、衝撃波を伴いながらニンジャ刀ごと真っ赤な角をへし折った。


『キョォォォォォォォォゥ!』


 ダライアスがたまらず悲鳴をあげ、口を大きく開ける。

 瞬間、背筋にぞくりと悪寒が走り、脳内で警鐘が鳴り響く。


 これはブレス!?


 反射的に体を回転させて、テレポートダガーをやつの口の中へと投げつける。

 ソレがどこに刺さったのかはわからないが、ダライアスの動きが一瞬止まった。


 いや、止まったわけではない。


 これはマフラーの『2回行動』が発動したのだ。

 俺だけが動ける刹那の時の中で、考えるよりも早く体が反応していた。俺は体を回転させながら、宙を舞っていたニンジャ刀を右手でつかみ、さらにそのまま体を捻って、折れた角に回し蹴りをきめる。

 赤い角は、弾丸のように加速し、ダライアスの右目に深々と突き刺さった。

 ダライアスの悲鳴を聞きとどけながら、自由落下の感触を味わう。

 やりきった、そんな思いがどこかで生まれていた。

「アーク殿っ!」

 いつもの呼び声のあと、俺の両脇から色白な手が差し込まれてくる。

 ハチ子はそのまま、後ろから俺を抱きしめて小さくつぶやいた。

「発動せよ、フォーリングコントロール」

 おぉ……と思わず声を漏らす。

 ハチ子の言葉に反応して、月魔法の『フォーリングコントロール』が発動し、緩やかに落下速度を落としていったのだ。

「それ、遺跡の?」

「はい……アーク殿に頂いた指輪です」

 そうだ。南無子と遺跡探索した時に拾った例の指輪だ。

 たしか、落下スピードをコントロールすることができる、月魔法が封じ込められた魔導器コモンマジックだ。コモンマジックは共通語で発動するから、誰でも使用できる便利な代物だ。

 まさかこんなところで役立つとは……転落死とかシャレにならないからな……

「アーク殿、それよりも今は」

「あぁ」

 深く息を吸い込み、そして叫ぶ。

「ぶちかませぇぇぇ、シメオネェェェッ!」

 これ以上にないほどの声を絞り出し地面の方へと視線を移すと、小麦色の肌をした熱血健康ネコ娘が踊るようにしてダライアスに飛び込もうとしていた。

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