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鈴屋さんと大英雄っ!〈13〉

英雄編13話です。

アルフィー、がんばります。

ワンドリンク片手にお楽しみください。

 怒号と悲鳴と歓声が飛び交う戦場で、じわじわとダライアスが戦況を押し返し始めていた。

 あの巨体だ。

 ライフポイントは万を超えるだろうし、どうやら治癒能力もある。

 地上戦に移ってから機動力こそは失っているが、あの長い尾をほんの少し振るだけで、屈強な戦士がまとめて吹っ飛ばされてしまうのだから、たまったものではない。

 例のブレスだけは海上でないと使えないのか、今のところは鳴りを潜めている。

「あーちゃん……これは、ちぃとばかしやばいよ」

 アルフィーが細くくびれた腰に左手を当てて、言葉とは裏腹に笑みを浮かべながら続けた。

「これ倒したら英雄になれるよ、あーちゃん」

「アホか。命あっての物種だろ。頼むから死んでくれるなよ?」

「あはっ、誰も死なせんよ。少なくとも、あたしの盾が届く範囲では、ね〜」

「……お前が、だよ。無茶はしないでいいからな?」

 思いもよらなかったのか、アルフィーが目を丸くしてこちらに顔を向けてくる。

 ……いや……いつもパーティの誰よりも死地の近くで戦っている、彼女の身を案じて何が悪い。

 俺は、この少しズボラで裏表のない性格をした白毛の戦士を、失いたくないのだ。

「あーちゃんさぁ〜」

 アルフィーが背中を見せ、ダライアスにサーベルの剣先を向ける。

 それは戦士が、己の死地を見定めているようにも見えた。

「これが終わったら、キスしたげる。今度は気持ちを込めたやつ」

「ばっ……なに言ってんだよ。お前な……そういうの死亡フラグっつぅんだぜ?」

「死なんよ。だって……」

 アルフィーが、ズシャッっと歩幅を広げ、身をかがめていく。

「あーちゃんと、もっかいキスしたいんはホントだかんねっ!」

 言って、大きく一歩踏み出す。


 ……速い!


 その瞬発力は、ハチ子に比肩するものがある。

「ちゃんとついて来るんよ! あたしが活路を開くからっ!」

「ばか、無茶はするなって……」

 俺は出そうとした言葉を途中で飲み込み、慌てて彼女の背を追いかけ始めた。

「速いにゃ……」

 いつの間にか横に並んでいたシメオネが、ポツリと呟く。その横顔は、まるで『よき好敵手』でも見つけたかのような表情だ。こいつもこいつで、戦闘狂の一面を持っている。

「いつか手合わせしたいにゃ」

「やめとけ、ネズミがネコに噛みつくとか、リアルで見るハメになりそうだ」

「アークさみゃは、シメオネが負けると思ってるにゃ?」

「いや、俺の生まれ故郷にそんな物語があったのさ」

 首をかしげるシメオネに、思わず苦笑する。

 盾を構えたまま突進するアルフィーは、飛び散る瓦礫を弾き返しながら、一気に最前線へと飛び込んでしまう。

「ドレイクの旦那ぁ! 破城槌、持ってきたよ!」

 破城槌ってシメオネのことか、言い得て妙ってやつだな。

 まさに俺たちの役割は、堅牢な城壁を打ち破る破壊槌そのものだ。

「ようやく来たか。こっちはもう半分やられたぞ!」

 赤帯のドレイクが槍を構え直し、ダライアスを睨みつける。

 最前線は、凄絶な戦場と化していた。

 すでに地上決戦組の半数は、まともに動けないほどやられている。

 傷ついた傭兵や冒険者を、第三部隊が戦闘エリア外へ救出し回復魔法を施しているが、どうやらその限界も近そうだ。

「まさに化物……まるで削れてるとは思えん」

 ドレイクの額から、一筋の汗が流れ落ちる。

 無理もない。

 ダライアスは、これほどの数の戦士に斬られ雨のように魔法攻撃を浴び続けても尚、動きを鈍らせることはなかったのだ。

 そう……自己治癒をしているとしても、これは削れなさすぎだ。

「アークさんよ! いくらなんでもジリ貧だぜ!」

 冒険者一団の方からも、不安の声が上がる。

「なんだ、グレイ。まだ、生きてたのか」

「うるせぇ! ほんとに勝てるのかよ、これ!」

「まぁ、やってみるさ。その調子で生きてろよ!」

 カカカと笑い、背中のダガーを2本引き抜く。

 ダライアスは多分、鈴屋さんがよく使う『ヴァルキリーブレッシング』みたいな魔法を使っているのだろう。一定数以下のダメージは受け付けないとか、そんな類のやつだ。


 そしてもう一つ。


 強力な竜には、往々にして『逆鱗』という弱点が設定されている。

 その体の何処かに1枚だけ『逆さまに生えた鱗』があり、そこだけは武器が通りやすいと言われている。そこに触れると烈火のごとく怒ることから、『逆鱗に触れる』という言葉が生まれたほどだ。

 このゲームでは『逆鱗』ではなく、何かしらの弱点が設定されているはずだが……

 まぁ、きっとあそこで間違いないだろうよ。

 弱点なんてものは、長年ゲームをしていると、明らかにそれだと理解るものなのだ。

「連携で行くぞ! アルフィーはパリィで突撃、ラスターはシメオネの援護だ。シメオネは回避行動を取りながら最後尾で練気。俺が攻撃をして、ダライアスが怯んだら遠慮なくぶっ放せ!」

 全員が頷くのを確認し、アルフィーに合図を送る。

「んじゃぁ、ちぃとばかし本気で行くよ〜!」

 アルフィーがサーベルを掲げて、再び駆け出す。

 その後ろに俺、ラスター、シメオネと続き、ダライアスに突撃をかける。

「槌が入るぞぉぉぉぉ! 第一・第二部隊は東、第三・第四部隊は西に展開、挟撃を開始せよ! お前ら、少しでも門をこじ開けてやれぇぇい!」

 ドレイクの激に反応し、部隊が綺麗に割れていく。本当に統率の取れた傭兵団だ。

 そしてその中央を、アルフィーが恐るべき速さで駆け抜けていく。

 彼女は全速力で突撃をしながら、左手の盾を天に掲げて聞き馴染んだ祈りを唄った。


『鋼と戦争の神ジュレオ様、我が盾に鋼の力をお与えください!』


 ダライアスはそこでようやく、猛然とした勢いで目前まで迫りくる白毛の戦士に気づき、その尾を振るおうとする。

 しかし、アルフィーの神聖魔法のほうが速い!


『セイクリッドシールド!』

 

 ガッキィィィィィィンンン!!!!


 硬い鉄を弾き返すような、甲高い音がなり……


 吹き飛ばされたのは、アルフィーの方だった。

 まるで150キロの玉を金属バットで打ち返したかのように、アルフィーが地面を跳ねてすっ飛んでいく。

「あ…………」

 俺は思わず足を止め、アルフィーのほうに目を向けた。

 そこには、左腕が不自然な方向に曲がり、ピクリとも動かない……俺の大事な……大事な……


 ……待て……待て待て待て……


 彼女がそんな簡単にやられるわけ……


「何をぼっとしているんだい、キミは」

 軽いショックを受けている俺の左手を、ラスターがすり抜けていく。

「これもチャンスにするにゃ、アークさみゃ!」

 今度は俺の右手を、シメオネが駆け抜けた。

 その言葉の意味を理解し、踵を返す。

 ダライアスはまだ、次の攻撃体制に入っていない。

 アルフィーが作ってくれた、このチャンスを逃す手はない。

「くらえっ!」

 叫びながら雷バフ付きのダガーを、左右同時に投げつける。

 ダガーはまるで、月魔法のライトニングランスのように雷の尾を伸ばしがら、バリバリと音を鳴らしてダライアスに襲いかかった。

 狙うは額に生える真っ赤な角っ!


 ヴァチィィィィィンッ!


 必中バフ付きの攻撃だ。間違いなく命中する…はずだった。

 しかしダガーはダライアスの角の手前で、見えない壁に阻まれて弾き落とされてしまう。

「なっ……」

 驚く暇もなく、ダライアスが攻撃モーションに入る。

「やべぇ……ダメだ、いったん……」

 退くぞと、シメオネたちに声をかけようとしたその時だった。

 ふわりとした白い髪の毛が、俺の視界を横切り……


『セイクリッドシールドゥゥゥゥッ!』


 声と金属音は、ほぼ同時だ。

 しかし今度は、ダライアスの尾を数メートルほど弾き返す。

 そこには白い毛並みをしたワーラットが、2つの盾を握って立っていた。

「……アルフィー?」

 その見慣れぬ姿に確証が取れず、思わず疑問符をつけて呼ぶ。

 ワーラットは小さく肩をすくめるようにして、背を向けたままこう答えるのだ。

「……あーちゃんにはこの姿、あんまり見られたくなかったなぁ……」

 それは紛れもなく、アルフィーの声だった。

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